その家は、森の奥底でひっそりと息をしていた。 木が育ちすぎ、家を飲んだ。長い間、そうやってずっと有った家。木と共にあった家が、人も寄らぬ地にテラとその娘アンナが寄った。 「もうついたぞ。」 木の間にあるドアを叩けば、はーい。と穏やかな表情をした老婆が現れた。あらあら。と笑って、テラとアンナを見比べた。 「……お子さん?」 「アンナです。」 「まぁ、遠路遙々。お疲れ様。中にどうぞ。」 半歩身を引いて迎え入れると、部屋の真ん中にベビーベットがそこにあった。もぞもぞと動くそれは、突然泣いた。 「あらあら、ご飯ね。サメラ。」 「赤子、ティンクトゥラ。お前さん」 「あら、いやねー。連れ去ってなんか無いわよ。捨てられた子よ。」 攫う訳無いわよ、と笑いながら、テラをたしなめて泣く子を抱き、暖められていた山羊の乳を与えれば、赤子は泣くのを止め、嬉しそうな声をあげた。 「こんなご時世だからねぇ。」 共に降りてきた仲間の子だもの。その銀は間違えないわよ。と、そっと舌に乗せれどもテラにそんな声は聞こえない。 「この森も物騒だしね、捨てられてたなら救うのが私の役目よ。ねぇ、サメラ。」 抱き上げた赤子に微笑みかければ笑って返ってきて、満足げにサメラは足を手をばたつかせる。 「増えだした魔物を抑えるのが私、森の賢者ティンクトゥラよ」 赤子を抱えて微笑むその姿は、見た目の年齢よりも、もっと若く見えて、本物の母子に見間違えた。 「まぁ、最近村の方じゃ、人食い魔女が住むとか言われてるみたいだけど、人、食べるようにみえる?アンナちゃん」 「うん!見えないよっ」 おやつは用意してるから、食べて行ってちょうだいな。奥にアンナを移動させて、おとうさんとお話があるから、ゆっくりお食べなさいよーと声をかけて、扉を閉めた。 「さぁ、いきなり連絡無しで、どういうつもりなのかしら?」 「実は…」 「嫌よ。うちはサメラで一杯よ」 伴侶が亡くて、ファブールにでも呼ばれた、から家で一旦預かれとか、何馬鹿な事を言ってるのかしら?今、一番親が一緒に居なきゃいけない時期よ。隣に居てあげなきゃ、何かあっても、子どもは親しか頼れないんだから、甘やかしてあげなさいよ。節度を持ってね。 遠い目をした彼女の目に、悲しみだけが残ってた。 前 戻 次 ×
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