ルドルフ | ナノ



リディアからの説教も解放されて、サメラはなくなった分の薬を補充するために薬を煎じていた。隣でリディアが興味深そうに見ている。
必要な道具は瓶に詰めて、擂り粉木と擂り鉢は、キャラバンから放り出された時に自分で真っ先に調達したものだ。
これで薬を作り売り渡り、魔物を倒し、町のギルドに寄り路銀を稼ぐ。生活に困ったらキャラバンで養われた能力が沢山ある。、
そんなこともあったなぁ。と苦笑を浮かべながら、サメラは胡座をかいて、足の間に鉢を起き、ゴリゴリと摺り合わせる。ずっと鉢を混ぜていたら水気が出てきて、その汁を少したまっては瓶に詰めてを繰り返す。小さな瓶が一つ埋まったら瓶に蓋してリディアに手渡した。

「リディア。もっておけ。魔力が足りない時は力を貸してくれるさ。」

有難う!と満面の笑みを浮かべたリディアが、鞄の中にそれを入れた。ほかの薬も作れてサメラは満足げに二三瓶をつくり、残りはサメラの鞄の中に入れて空を仰ぎ見た。

「…ん?」

穏やかだった空が、瞬く間に変わり、次第に海が時化てきた。魔物かもしれないと思いすり鉢やらを簡素にしまい。船の中に置いた荷物を引っ張り出して、腰に縛り付ける。鎧はこの間で反省したので身につけて押し込めた。
トントと軽いステップで再び甲板に上がって来る頃には空は鈍色をして揺らす波はさらに高く高く船を飲み込もうとしている。

「なんだ?」

何回も船旅をして来たが、こんなに変わりやすい空模様は初めてだ。リディアを船内に移動させようと、動いた瞬間、大きく横揺れして、海の中から巨大な獣の尻尾が見えた。それは船すれすれを叩き、大きく船を揺らした。揺れにしぶきに押されてサメラの体はぐらりと傾いた。

バランスを崩し船縁に腰を打ちつける。打ちつけた勢いで船縁を突き抜けてサメラは船から落ちた。
落ちた時に遠くでセシル達の声を聞いたような気がする。もがけばもがく程体は沈んでいくようにも感じた。

もがいて水面に出た頃には、船も何もない青の世界が見えた。手近に人一人が横になれる程の木材だけが浮いているので浮力を得るためによじ登る。
空と海だけが見える世界。今までのはなにだったんだ、とサメラは一人考えるのであった。


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