ルドルフ | ナノ


二日目は主にサメラの見てきた世界をひたすら聞いて一日が終わってしまったので、翌日は別のことをするぞ。と言って彼女は朝からやってきた。食事を済ませて薬を飲むのを確認すると、荷物を取ってくると言って部屋を出て、すぐに戻ってきた。
その時彼女は、書類や紙を大量に持っていて睨むように見るが、それでもサメラは気にすることなく、昨日から定位置となっているカインの脇本に腰かけて、足の上に本を乗せる。

「仕事はするな。と言われてなかったか?」
「読み書きの勉強だが?昨日あれだけ私に言葉を吐かせたのだから、今日は私に付き合ってもらうぞ。」

セシルから借りたという本を一冊開く。バロンではよく聞く寝物語を集めたものだと、サメラの読み聞かせで、理解した。そういえば、昔寝る前に読んでもらったとカインは思い出した。母にも読んでもらったのは覚えているが、姉に何度か読んでもらったと記憶している。この間の月で姉の姿を見た。名前が違うが恐らくはあれが姉だったのだろう。話をするまもなく別れてしまったので、よくは解らないけれども、ほぼほぼ確信めいたものを得ている。そう考えていると、肩を叩かれた。

「どうした?聞いてるのか?」
「あぁ、聞いてる。続きを読んでくれ。」
「わかった。」

悩みながらも色々言葉を読むその姿はまるで幼い子に見えて、口元が綻ぶ。難しい単語があったのか首を捻って悩んでいる。どうした?と声をかけると、読めないと突き出された。指差された部分を見て答えると、サメラは二度ほど頷いてから、口の上で何度か乗せてまた読み直していく。そんな姿が愛らしく見えてカインは腕を回して、抱き寄せた。回された手に驚いて振り返って空の青が睨んだ。

「なんだ?」
「眠い。」
「勝手に寝てろ。」

ぷいと本に視線を向けて、音読を続けている。淡々と読み、所々で詰まって少し悩んでからまた読み解く。昔の授業の様だと思い出しながら、カインはその声に耳を傾けながらうつらうつらしていると、時折揺さぶられて目を覚ますを繰り返していたが、最後は手荒になってサンダガを落とされたが、家の中でサンダガを落とすなと二人でやんやと怒っていると、にぎやかさにつられてセオドアがやってきて、大人二人が子どもに説教されるという珍事が発生したとかしないとか。

「お二人とも、ちゃんと話を聞いてるんですか!?」
「聞いているさ。なあ?」
「こいつ、全然真面目に聞いてないぞ。」
「なっ!?お前っ。」
「どうやら、ハイウインド閣下は図星だそうで。」
「おい、サメラ!」
「私は最初からすべて聞いておりますよ?」

しれっと答えて最初から最後まで声色の物まねも混ぜつつサメラはセオドアの文言を一言違わずいってのけて、師弟は二人で驚いていたのをここに記す。

セオドアがある程度怒っていたが、サメラの飯を食わせたら、驚くほどに機嫌が変わっていた。どうも、先の大戦で食べて美味しかったという両親の話を聞いて、自分も食べたかったと、食事中に嬉しそうに語っていたので、##name1##がすべて言いくるめてしまった。思った以上に懐柔されている様子で、ちょっとカインは面白くない。この間の大戦でかなり懐かれたのだが、それよりも期間の少ない##name1##の名前を連呼しているのが、あまり楽しくない夕方だったと記憶している。

「入るぞ。」

軽くノックの後に##name1##が入ってきた。今日は多少趣向を凝らしたらしく、香りが違っていた。色々滞在して地方毎に味付けが変わるのだとサメラは言う。旅先で食べたものは確かにそうだった。と思いながらサメラの料理に手をつけて薬を飲む。痛めた足の様子を問いかけられて、足の痛めたところが痛くないとカインは気づいた。昨日まで所定の動作を行ってれば痛かった記憶はあるが、今になってまったくない。顔を歪めることもなくなった。

「痛くない……?」
「よく効く薬だろ?」

飲んで正解だろ?と満足げに頷くのもよくわかる。半分と言ったがそれ以上に薬が効いていると自覚する。ありがとうと礼を言うと完治してから受けとる。と手のひらを返された。そういえばそう言う女だったと思い出したので、その時は何か礼をする。と言葉に出せば、仕事だから要らない。なんて返された。合理的で建前も本音もない女だと知っているので、これが本心なのだろう。それで俺がやりたいんだ。と言えば、サメラも折れざる得ない。

「完治してから、久しぶりに町で食べたい。それだけでいい。」
「奢るぞ」
「そこまでして要らない。」
「薬代だ。気にするな」
「そうですか。はいはい。」

カインの飲み終えた瓶を奪い水の魔法を呼び出して洗浄を行っていく。魔法は大事だと言っていた奴がこうして際限なく使う姿が不思議に見えた。

「まぁ、痛まないだけで使えば傷つく。外には出さないからな。家のなかにいろ。明日か明後日になったら多分手合わせぐらいまでいけるぞ。」
「わかってるよ。」
「ついでに風呂ぐらいまでなら行けるから、湯を支度しようか?」

サメラの申し出は有難い。怪我をした日以来湯浴みも出来てないし、その日も訓練で散々汗をかいた後で、ずっと肌がベタついている気がして仕方なかったのだが、絶対安静と言われトイレとベッドの往復もサメラの肩を借りながら移動をするばかりだったが、それももう要らないだろう。と彼女が言った。薬を扱うこともあってか傷の程度の把握も早く予定よりも早い治癒力に感謝をしながら、サメラの申し出に有りがたく願うと、桶に氷魔法を突っ込んで炎魔法で溶かすという豪快な手法だった。確かに湯だが。そういいかけたが、サメラは気をきかせ、鐘一つ分で帰ってくると残してさっさと出払ってしまった。
この数日よくある状況に陥ってしまったのでカインは諦めてサメラが準備した湯に布を浸して自分の体を拭くことにした。
心地よい水音気だけが部屋を支配していた。今日は何をしようかと考えながら自分の身を整えていくことにした。明後日に手合わせまで行けるとなれば、介抱される時間もほぼなくなると言うことに気がついた。…それは何だかもったいないような気がして、同時に残念だとも思ってしまった。自分の身支度が終わる頃読み計らったかのように帰ってきて昼の支度を始めだした。

彼と私の生活。
3日目。


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