ルドルフ | ナノ


セシルの号令に、一同がまたフロアを下る。いくつかのクリスタルを割って、先に進むと、一人の少女がそこにたっていた。

「再び、光を灯す。とは。実験は成功のようだな。これならば、もう一つの方は問題なく稼働するだろう」
「お前が、セシルから光を奪ったのか?」
「劣等種に教える義理なぞないし、もう一つは奪わせる気もないが。」

知りたいならば、この先まで来るがよい。その腕の中の光は、我が主が好まれるであろう。無論、なくても問題はないだろうがな。と呟いて、姿を消す。
その意図はなにだと、セシルは思考を巡らせた。もう一つ、というのはおそらくここに居ないサメラで間違いはない。腕の中の光、もおそらく、ストップをかけられているサメラの魂の一部であると判断はできる。しかし、稼働とは?考えても、疑問ばかりが沸いていく。

「セシル。迷う暇はない。進むぞ。」

歩く速度が落ちていたようで、親友が背中を叩いて、ほんの少し先に歩いてた。自分の罪をすべて認め、受け入れた聖なる騎士の姿が、こちらを見ていた。竜の形をした兜は頬面をなくし、その素顔がよく見える。昔に見た面影は微かにあった。

「人は変われるんだね」
「いかにも、アイツが言うような言葉だな。」

誰。とは言わないけれど二人の認識があっていたみたいで、ふと穏やかな空気が流れる。そんな間にも、足はだんだんと深く階層を経ていく。そのなかでも、マラコーダが主にセシルと同様の火力を持ち、プロムを乗せてもなお衰えない機動力をもって、魔物たちを蹂躙していった。ふと歩く中でプロムは隣を歩くマラコーダに話をふったりしてみた。

「君はどうしてそんなにつよいの?」
「主の、師ダカラナ。」

どうして僕に呼んで欲しかった?主シカ、我ガ声ヲ聞クモノガイナイカラナ。ソレニ……懐カシイ顔モ居ルカラ。
どうも、聞くと話をしてくれるらしい。緊張感のある空気が、おだやかになりつつも、一隊は下に下にとすすんでいく。
君は、どう思う。と投げれば一つ二つとサメラにも似た答えがあったので、休憩の時も色々と議論を展開することもあって、全員で色々とあれやこれやと揉んでもみたが、いい案配の答えが出ずに終わったときもあれど、この月は、どこか人工的な空気を感じるというのだけが答え。であった。
一つ潜れば、先程と違うエリアに飛ばされた感覚がなくなった。慣れたのかもと、誰かが言うのを聞きながら、また降りると。景色はもう変わらなく。
一番奥の部屋、と思われる場所は、尊厳な扉の中にあった。玉座の先にぼんやりとしたサメラが座り、その傍らに不気味な子どもが一人。賢さも狡猾さも持ち合わせていそうな形相をして、こちらを見ている。

「サメラを、返してもらう」

あぁ、この混ざりものはそんな名前だったね。返すことはまだできないね転移が終わってないんだから。
ゆったりとした口調で、耳にどこか障る音が部屋を包む。子は、おだやかに笑って、疑問が湧いているようだね。気分がいいから、はなしてやらんこともない。
そうして、話をしだしたのはこの似ても居ない月の話だった。小さな星だったが、文明を作り、発達させていくことが成功して今の形を原型を持つことが可能となった。が、それは人工的に作り出した夢であり、いつか潰える。その成れの果てが、今セシル達が立っている月だともいうし、眼前に立つそれが、最後の生き残りであり、王であるという。
どうすれば文明が残り、生活は豊かに、そして彩りをもっていけば、このようにならず転用できるのか、とそういうために、クリスタルをつくり、世界に置いていった。結果を、結論を夢を現実に持ってくるためにも。ばら蒔いて、散らしてその民に記憶を与え進化を促し発達させていったと。
クリスタルは元来歴史を伺うためにあるものだと、それはいう。

これだけをきいて、プロムはその相対するものが、神のようにも思えた。神の気まぐれのように人に文明を与え壊し、歩み寄ろうとするものを落とす。聞いている言葉は、どこか利用するため。と言っているようにも聞こえて、プロムの背筋が凍えた。
劣等種……と呼ぶ僕たちに何を学ぼうとしたのですか?そんな声が聞こえて、振り返るとセオドアが投げ掛けていたことに、気がついた。揺れる瞳で、まっすぐにそれと向かい合おうとするために、瞳の光は消えている気配はない。
君達の通ってくる間に様々なものを見たのではないのか?海や風や、火を孕む山。君達の世界と似て異なる世界のものだがね。あれもすべて作ったが、それでもやはり足りないものがある。わかるかい?
細い指が、マラコーダを指差した。ぎろりとした視線を投げながら、マラコーダは人か?と投げ掛けると、子は酷く愉快げに笑って、正解だと告げる。正確には、と言葉を付け加え補足をしていく。

人の魂と精神の光。屈強な心、間違うことのない強い意思の光。それが足りないもの。あの世界で、輝いていた光だ。その光を持たなかったから、こそ、我が文明は滅したともいっても、過言でない。
おめえの目的は結局なんなんだよ。ルドルフの心だけだったのか?
いいや、もっと優れた進化をするために、あの青き星を喰らう。そして、真の創造者として君する。

子の体から闇は増え、歪な形を作り上げる。お前たちをも、喰らい。この星のため、死に絶えろ。
プロムはそれだけを聞いて、神なぞいない。と認識を改めたのだった。


×