ルドルフ | ナノ


どうやらクリスタルは過去の記憶を読み取って、姿を表すらしい。というのがいくつかのフロアを抜けてからの答えだった。そのなかに、一つ。先の対戦で刃を交えたものが戦った相手がいたからだった。というのが大きく幅を占め結論としてほぼほぼ答えが出ていた。だが、過去の記憶のクリスタルは昔亡きモノにした。から、クリスタルを壊しても、それが魔物だったから問題ないと結論付けているが。では、目の前に見える暗黒騎士を、銀色の薬師も記憶だと断言できるであろうか。

目の前には、ゆらりとわいて現れた過去の姿をした暗黒騎士と生気のない青をどこかに定めるわけでもないサメラであった。

過去を知るものは、目を疑い、知らぬものは一瞬の戸惑いを与えた。
その一瞬を突いて、ゆらりと二つが動きだす。このクリスタルは、どの時間のルドルフだとエッジは考える。

「エッジ、やめて!」
「過去の記憶だろう、問題ない。」

今まで戦ってきたのはたしかにそうよ、でも。今サメラもセシルも生きてるの。このクリスタルを壊してしまって、サメラがセシルが生きているっていう保証もないわ。命は戻らないもの。
ローザの言葉を聞いてカインの槍が暗黒騎士の刃をさばいた。
戦闘集団の生き残りであるサメラが先の対戦で、大きく貢献していたのは、一隊は知っている。焦点も定まらないからこそ、軌道が読めず防戦に徹し、魔法で距離を開ける。が、相手は二人。対しこちらは20にもなる団であり、囲めば下手をすると同士討ちも起こる可能性すらある。そして、生きているからこそ完全に砕くこともできない。どうすることもできず。てぐすねひくばかりであった。
そんななかで、プロムの耳が捉えたのは、小さな声だった。

困っているな。助けてやろうか?と。誰かが小さくささやいた。その声が誰かわからず、プロムは戦場のなかで、足を止めた。回りが、プロムの名前を呼ぶ。それでも、プロムはその声に耳を傾けた。世界が水のなかに入ったかのような錯覚を感じながら、声に意識を向ける。視界の隅で動かなくなったことに気がついてか暗黒騎士がプロムの方を向く。
私を呼びなさい。先程聞こえた声とも違う声色が、鼓膜を叩くが、この声をなぜかプロムは知っていた。そしてプロムは言葉を紡ぐ。

「マラコーダ。」

その音と同時に、暗黒騎士とプロムの間にまばゆいほどの光が生まれ、槍が現れた。金属同士が触れあって甲高い音が鳴る。槍が空を切れば光が産まれて、そこから誰かが姿を出した。先の対戦でサメラと相討ちになった魔物の皮を頭から被る妙齢の女槍士が一人。マラコーダの皮の間から見える金は腰までの長さをもって、暗黒騎士と面むかう。

「我ハ、過去ノ契約ニヨリ。戦地ニ産マレシモノ。我ガ、誠ノ名ヲ知ルモノヲ、守護スル。」
「マラコーダ!?」

サメラと暗黒騎士だけでも手一杯という状況で新たに魔物が一体現れて、戦場は騒然となる。

「案ズルナ。クリスタル、ハ、壊レズ、男ヲ、モドシテヤロウ。娘ヲ、任セマシタゾ。」

形のいい唇が、毛皮の下からうかがえた。すがるほどのものも、ないし、かつては争う敵対の位置に居たものをどう信じていいのかわからず、一同は顔を見合わせた。ゴルベーザは、マラコーダを見て、ふむと。頷いた。
暗黒騎士が切りかかろうとするのするのを、槍で起動を変えて地面に流す。その独特の振り方に、カインは小さく眉根を寄せる。

「どうしたんですかカインさん?」
「いや、あのフォームが、どこか姉に似ていて……」

カインさんのお姉さんですか?いや昔に無くなったんだが。と思考を向けていると、過去のサメラが突っ込んできたので、それを交わして一撃を入れようとしたが、反らされた。一旦終わってから考え事をしようと、カインは自身の意識を切り替えた。

「我ガ、娘モ。完全に壊スナヨ?」

槍を使い、暗黒騎士と距離を詰め、一気に組伏せるように背後から切りかかる。肉の手応えを感じれど、記憶だから血も流れずに、キラキラとした砂がこぼれ落ちた。その瞬間に、マラコーダは足元を掬い、暗黒騎士を地面に転がして足で押さえ込み、槍をもちあげる。

「見タクナイナラバ、目ヲ、閉ジロ。」

上げたならば、さげるだけだ。その一声のあとにローザは目を閉じた。おしまいだとも感じて、瞼の中に浮かぶ懐かしい顔がうかんだ。ぐちりと音が一つ、聞こえた。遠くでカインの吠える声が聞こえる。閉じた瞼をいつ開こうか、ローザはタイミングを失った。きっと、目を開けばひどい悪夢のような現実が見えてくるのだから。閉じて、身を堅くして現実から目を背ける勇気も持てずにいるなかで、耳だけはきちんと聞こえていた。足音が聞こえて、誰かが背を叩く。
ローザは、恐る恐る目を開けると、先程見た女の槍使が立って、青白く光る塊を手渡してきていた。

「ファレル嬢。これを。」


×