ルドルフ | ナノ


「無事そうだな」
「ご覧の通りで。」

エッジの手を借りて立ち上がると、ほんとおめえルドルフをみてるみてぇだよな。と呟く。それを聞き流しながら、辺りを見回すと、6つ対になるプロペラが風を切り裂きながら空を浮いている。プロムたちは奇跡的に桟橋を飛んだあと、偶然に通りかかった乗りものに飛び込めたみたいであった。ふと、プロペラの音を聞くと昔の記憶が眼前に広がった。
遠くで見た記憶は、遥かに昔の、パロムとポロムと祈りの塔から見ていた。バロンの侵略してきた先の大戦の記憶であった。聞こえていた音と同じで、あの日と変わらない恐怖がふと浮かび上がって、震える声で赤い翼?とこぼれ落ちた。祈りの塔から見えた赤を吐き出していく知り合いがよみがえって、喉がひゅっと音をならす、「あれとは、ちげぇえよ。ファルコンってんだ。」むりやり押してくる強い力が頭を撫でる。痛すぎて小さくうめけば。「弱いものいじめるんじゃないの!」と誰かが嗜めるので、プロムはそちらを向いた。緑の髪の女と、操舵輪を握るドワーフの同じぐらいの年頃の女の子がこちらを見ていた。その向こうには、黒衣を纏う男がじとりとした目がこちらを見ていた。その男の目がじろりとプロムを上から下まで見て、興味をなくしたかのように視線をそらした。
隣がお前は……という声を出す辺り、知り合いなんだろう。と考えていると、緑の女がなにかを思い出したように口を開いた。

「あなた、ミシディアの……」
「プロム。です。サメラさんと一緒に旅をしてました。」
「サメラと?」

サメラはもしかして……と船尾のほうに視線を向ける。プロムも続けて視線を動かせば、不思議な気配を色を放つバブイルの塔があった。

「ちげぇよリディア、謎のやつに、負けて連れてかれた。」

いくつかの息を飲む音を聞いた。サメラが……とリディアと呼ばれた女が言葉を途切れさせた。機械のファルコンの風を切り裂く音だけが空しくわめいていた。しばらくの沈黙を破ったのは操舵を担う少女が口を開いた。

「そろそろ出るよ。捕まって!」

その声と同じタイミングで、船は加速し誰もいないのに体の上に誰かがいるような重みを感じた。闇をおいていくかのように千切っておいて、プロムたちは光が溢れる大地に帰ってきたが、そこに広がるのは逢魔が刻のような不気味に広がる静かな世界であった。ふと、視線をあげてみると、雲の間に見えた月が二つ。禍々しいほどの月が近くに見える。空を見上げていると、不思議な音が聞こえて振り向くと、バブイルの塔が不気味な色をして立っている。

「次元エレベーターが起動を始めたようだな。」
「なにか、落ちてくる?。」

バブイルの向こう側に視界になにかを二つほどとらえた瞬間にファルコンが大きく揺れた。プロムは視線を動かしてみると、後方の一部がごっそりとなくなっていた。メテオに類するなにかがあるのかもしれないと見つめていると、黒衣の男が舌打ちをひとつしてから、操舵を左に回し、ファルコンは北へとゆっくり移動を始める。

「バロンの方から、不吉な気配がする。」
「……確かにね。」

淀んだ臭いが風に乗って、やってきてるようにプロムも感じた。
風を切り裂いて一行がバロンにたどり着くと、バロンもバブイルと同様に不気味な輝きをはなっていた。魔力と違う、なにか違うエネルギーのようにも、感じられプロムはその光にそっと触れた。が、まるですべてを拒むかのようにバチリと音を立てて、それは拒絶をする。

「バブイルの塔と一緒じゃねえか」
「悔しいけれど、どうしようもないね。」
「幻獣の力があるのではないのか?」
「あんたは、知らないからそう言えるんだろうね。」

ちょっとルカ。とドワーフの少女をいさめつつ、リディアはぽつりぽつりと呟いた。幻獣たちは、あの子に囚われてしまってて、どこにいるかもわから……。
ない、と続くはずの言葉が止まって、バロンではない方向を見つめている。なにがあったのだろうか、とプロムも同じように視線を向けてみるが、なにもない。森と山だけがそこにあった。

「みんなの、気配がある。まるで、幻獣界みたいに、みんながいるわ!」
「お、おいおい。ちょっとまてよ!なんで人間界に幻獣がいるんだよ!」

わからない……でもみんなが、怒りに囚われて己を自分を見失ってるわ急がなきゃ!世界が終わっちゃう。
リディアの叫びに似た悲しみの言葉により、黒衣の男が動いた。「時間がない、急ぐぞ」と。簡素な言葉であったが、バロンにも入れない現状をどうすることもできないので、一行は急いでファルコンに乗り込み方向を定めるのであった。


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