ルドルフ | ナノ


あれから、十数年が過ぎた。
サメラは、ミシディアの青魔導師プロムをつれて、様々な場所を飛ぶように渡り暮らしたり、トロイアの森などにも住まいを構えたり、バブイルや試練の山などの色々なところをわたったり、腕前をあげるためにキャラバンの用心棒をしたりと、世界をまんべんなく津々浦々と、川の流れのように時に激しく時に柔らかく、世界を流れるように動いていた。
キャラバンの護衛等の依頼も途切れ、手空きになった二人は、一途エブラーナ大陸とトロイア・ダムシアン・ファブール・バロンを有する中央大陸に帰るかと二人で話をつけ、一旦資材の準備としてエブラーナにわたろうと、決めた矢先のことであった。

先を歩くプロムをみながら、サメラはぼんやりと彼の成長について考えた。小さかった子の成長はひどく早い。腰元だった高さは十年ほどの時間が過ぎれば同じような高さになっているのだから。大方の魔物のラーニングも終わったし、地底の魔物についてはわからないが、それはサメラのちからだけではいけない場所に近い。バブイルの落とし穴の先から出てもいいが、むりくり魔法で穴を作るのは手間しかないし、登りかたもない。さてどうするか、ここで一旦ミシディアに返しても。と考えてみたりする。大きな砂漠を渡り歩く最中、サメラたちの頭上に影が一つ通り抜けた。
魔物だろうか、と判断して、そっと視線を上にあげて、サメラの思考が一瞬止まった。

大きな翼を持ち、神格化されている幻の生き物。それを従える人間なんて一人しかしらない。見つかったか、と背中に汗が流れた。どうする。と考えあぐねていたら、太陽を背負っていた姿がずれて、肉眼でもはっきりと見えた。空色の髪と幻獣の神に座するモノ、バハムートの顔だった。

「リディアではないが?バハムートが…」
「え?あれ、魔物じゃないんですか?」
「あれは、誰だ?」

なにもしていないのにも関わらず、じとりと汗がにじむ。生殺のやりとりを久々の緊張感に、武器を握る手が汗ばむ。そっとバハムートから視線を、動かすと同時に、涼やかな声が聞こえた。

「見つけた。」

そんな音と共に、サメラはプロムを抱えて横に飛んだ。背後に大きな熱と衝撃を受けながらもその勢いに乗じて距離を図る。

「サメラさん!?」
「喚くな戦闘だ。お前だけでも、逃がす。」
「僕も戦えます!」
「二人で戦って勝てる相手でない。相手の目的もわからない。」

昔渡したダガーをエブラーナの誰かに見せろ、そしたらここにそいつ等をつれて戻ってこい。二人死ぬか一人死ぬか、それぐらいの計算は出来るだろ?
それだけ、危ないやつなのだと言外にサメラが言う。バハムートを見つめながら、プロムを追いやる。

「私だけならば、ある程度の時間は稼げる。だから、プロム。」
「サメラさん。ご無事で!」
「お前もな。あとこいつも持ってけ。エブラーナは南東だ。解るだろ。」
「混ざりもの。回収する」
「プロム!」

荷物袋から、回復薬を渡して、行け。と声をかける。プロムは、小さく頷いてから駆け出した。
久しぶりの物騒だ。と呟きながら自分の剣を構える。幻獣の神に一人では勝てる相手でない。もしかするとエブラーナの応援が有れば。と考えた瞬間に、神は光をためて圧縮された熱の柱が降りてくる。サメラは焦りを出さず、唯一の対抗策を手早く組み立てる。が、抵抗むなしく反射魔法をすり抜けて灼熱の光がサメラを射抜いた。

サメラの心配は、駆けていった幼い伴だったプロムだった。無事であれと小さく吐き出して、サメラの意識は途絶えた。


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