ルドルフ | ナノ



目を醒ますと、ひんやりとした空気がそこにあった。火の気も人の気配もない、広がった空間だけがあった。愛用している毛布をどかして、起き上がると焚き火の跡の温もりもない、舌の上に仲間の名前を呼べど、返事はなく、耳が痛くなるほどの沈黙がそこにあった。

嫌な夢をみた。その夢の続きかなにかで、セシルが隣にいるといっていたような気がする。それも、夢だったのかもしれない。感じた温もりも、幻で、セシル・ハーヴィという存在も、今まで歩いていた道も夢だったのだろうか。と思ったが、自分の荷物のなかにある、非常口と一人分とは思えない食料が、夢でないと物語っていた。

「セシル?リディア…エドワード、ローザ?…カイン?」

どうして、心の端に闇が宿るのが肌でわかる。どうしてと言えど、返事もないし焚き火の後をみる限り、彼らは大分前に出ていった。人の温もりも感じられない空間に、自分の音だけがうるさく響く。足元で大きく光がちらちらと光るのが見える、フースーヤたちがたどり着いて戦っているのだろうか、セシルたちが戦っているのかもしれない。深く眠ったが故にか体の魔力は、いつもどうりにめぐっている。

「あいつら、おいていったのかな。」

脳裏に浮かぶ仲間の笑顔でさえ、暗い闇に閉ざされていくような感覚がして、耳元で闇が呼んでいる。聞こえない振りをしながら、必要最低限の武器を荷物から漁る。
分厚い刃のダガーを腰につけて、譲り受けた銃をダガーとは反対側に据え付ける。矢筒に短槍を入れて背中に背負い、いつもの使いなれた重たい大刀を短槍と交差するように背負う。食料も、水も要らない。戻るつもりもない。戻れる保証もないのだ。それでいいと判断して、最後に割れないように保護した薬を飲み干して立ち上がる。
置いていったのなら、置いていけ。私は私の道をいこう。キャラバンで培った空の道。わずかな足場だけあれば、私はどこまでも進んでいこうぞ。

「例え、それが闇のなかでも。旅、行くものの…いや、光には、なれないな。」

日陰者、根無し草の私だからな。と、誰かに言うでもない言葉を吐き出しながら、サメラはクリスタルの縁に立つ。足元からごうごうと風が吹いている。そっと目線を下げれば一際まばゆく光る赤の近くに幻獣の姿を見る。そこか、と思いつつ、サメラは身を投げ出した。一瞬ふっと止まったようにも感じたが、それは気のせいで、下へ下へと重力に従う。さきほど見えた姿の場所に目星をつけながら、サメラは風の玉を呼び出し、身に纏いながら操り進路を作る。

「      、ゼムス。」

言葉を放てど、そこの言葉を聞くものはいない。自分の耳にも届かなく、ごうごうと空気を切り裂き落ちていく。足元から目も開けられないほどの光がはぜた。そして、炎が沸き上がり風の玉ごとサメラを地面に叩きつけた。



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