ルドルフ | ナノ



そう聞いて、エッジが目を見開いた。今、なんてった。思考がうまく巡らず、考えが口から吐き出された。

「なんでだよ!今ルドルフが暗ェ靄を出したからか?」
「それも、一つだよ。僕が聖なる騎士になるまえに手にしていた闇が見えたんだから。」

闇に負けない心を持って、闇を制する騎士だけが使える技をサメラが使った。僕の持っていた闇が、時間をかけて、すべてサメラが受け取った可能性がある。双子は対で、一つが闇なら片方は光だ。そして、僕が光を持った。必然的にサメラが闇を受けている。暗い靄が、それが暗黒だ。心を削って体を蝕んで爆発的な力を手に入れる。じゃあ、例えば闇に近づいているサメラをゼムスが手に入れようとしているとか、考えない?
そう問いかけると、どこかから、その兆候はあったと声が聞こえて音の方をみると、カインがうつ向きながらそう言った。
月の館から、飛ぶときに少し聞かれた。二三の対抗手段はあると言っていたが、最悪の場合四肢を切り落とす可能性はある。あれは合理性の塊で、人間味なんてほぼ持ち合わせていないやつで、下手すると道中もしくは、決戦で自害しかねん。とカインが近くで眠る銀を見つめて、溢す。
置いていくなら今だ。と閉めて、そっぽを向く。

「なんで、あいつ、言わねえんだよ。」
「でも、サメラが近くにいないと、みんなきちんと動けてないよね。」
「それは十分にわかっている、僕らはサメラに頼りすぎているのも事実だ。」

それでも、僕たちはサメラの借りずにゼムスを倒すべきだ、彼女がサメラが、兄弟が闇に飲まれる前に。脅威となるまえに。

「おいていかれたら、きっと、サメラは闇に落ちるかもしれない。よ?セシル。」
「そうだ、ほとんどここまで来れたのもよぉ、ルドルフのおかげなのによ、それって…どうなんだよ」

それでも、置いていく。一人のために全滅する可能性があるのなら、それは置いていかなければならない。サメラはまだ寝てる。だから、いこう。サメラが目覚めるその前に。すべてが終わってから、しっかり話せばサメラもわかってくれるよ。無駄に、切り捨てたくはない。ずっと一緒に歩いてきた仲間だから、大事な…巡り会えた家族だから。守るためにも、僕らはいこう。
セシルはそっと目を伏せて、自分の荷物を持って結界の外に歩き出す。ローザとリディアは一瞬仲間たちをみてから、セシルの後を追う。エッジは一瞬、どうするか迷ってから、セシルの後を追いかける。結界のなかには、またカインとサメラが残された。安らかとは違うが、寝ているその姿を視界に入れる。
もしかすると、俺たちは戻ってこれないかもしれない、ならば、お前だけでも逃げて青き星で体制を整え直せ。と砂に文字を手早く書いて、その傍らに非常口とサメラの分の食料を置いて、サメラの傍らで屈みこんでそっと、眠るサメラに耳打ちをする。

「目が覚めても、絶望せず。折れるなよ。」

そっと、カインは願いを込めて眠っているサメラにささやいて、セシルたちの後を追う。
が、彼らはここで大きな過ちをおかす。
サメラ・ルドルフという女は、大戦となれば魔物の背中を足場として空を駆け、バロンでは体調を崩しながらも、ショートカットとしてバロン城の門を飛び越えて侵入する一般常識の欠片も持ち合わせていない女だということを、誰も覚えてないことを。
結果として、サメラ一人だと発覚してすぐに旅支度を整えて、パラシュートなしの高々度フリーダイブをおこなうのだから。



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