ルドルフ | ナノ



どうして、捨て置かない。恐らく彼女はそう言いたかったのであろうが疲れすぎて話し方がまるで機械のようだった。
話の中に捨て置いていってくれ。というふうにもカインは聞こえた。聞こえない振りをしながら、カインは腕の中にいる親友の片割れについて考える。
腕の中にいる女は酷く正しい道を行く。物事の中心ばかりを合理性だけを狙って動く。人の心や人間性を排他して、着地点に力業で着地していく女である。
もしかすると、この女は自分が犠牲になっても出来る限り無傷でセシルたちを送り届けるためにこんな手段をとったのかもしれない。これが一番早いから、とそうしたのかもしれない。…そう考えると正解の気がしてきて、この女は…。と考えると呆れが出てきた。
自分の身を呈して送り出すのはいいが、お前だって家族がいるだろうに。目の前にいる血を分けたのを知ったばかりの片翼が。どうして、そいつらのためを考えてはないのだろう。かとカインは思うと同時に、マラコーダやゴルベーザから聞いた彼女の暗い過去を思い出した。
町から嫌われ見世物に買われたのを、マラコーダが見世物を壊してサメラを拾ったと聞いた。見世物として飼われ、心を潰され人の心がなかったが、次第に回復した。と言っていたが、表面的な人間の心を持ったが、真相的な本質的な人間の本性というは、今でも持ってないのかもしれない。それほど、彼女の人生は悲惨なものであったのかもしれない。育ての親を目の前で無くし、次の親から虐げられ、魔物が育てた人間に、そういうのを求めているのが間違いなのかもしれないが…。
そういう視点の考えを持たないのかもしれないし、はたまた強さこそが存在価値であると考えてるのかもしれない。マラコーダに拾われてから、戦闘集団に属し仕込まれたからこその価値観であるのかもしれないが、もっと自分を大事に出来ないのだろうか。とカインは思う。どこか、感じたことのある気持ちは、どこでだろうとぼんやりと考えながら仲間の後を付かず離れずの距離を保ちながらしばらく歩いている、開けた場所に到着したので、カインに見張りを任せてそれ以外の面々が結界と休息のための支度を始める。彼らが終われば、カインが食事の支度を始めると段取りを決めて、それぞれがとりかかる。サメラの荷物を枕にして横にさせ、現状の体調を調べる。脈拍も、怪我をした様子もないことに、ほっとしながらも、ぼんやりと思考を絵巡らせる。ゼムスの手がかかりつつある女は、どうするべきなのかと。二三の手段がある、と言う女の手段とはなにだろうか、合理性の塊であるこの女、いざというときに手足をすべて切り落とすとか…やりかねんな。と思いつつ、どうするべきかと堂々巡りするなかで、リディアがやってきた。

「サメラは大丈夫?」
「魔法の使いすぎだろう。」
「エーテル、飲ませた?。」

多分魔力の使いすぎから来るのなら、そうしたほうがいいよ。魔力欠乏のなら、命に関わるって幻獣王が言ってたよ。と、リディアは言って、翡翠に光る薬を反応の乏しいサメラに蓋を開けて手渡す。サメラは朦朧としつつ、よたよたした動きで起き上がり、リディアの手からその薬と受けとると、一口二口飲んで蓋をする。

「サメラ、もっと飲めない?みんな、心配してるよ?」
「おち…ついたら、のむ。」
「また、あとで、飲もうね?じゃないと、カインに無理矢理飲ませてもらうからね。」

おい、とぎろりとカインがリディアを睨むが、リディアはだって私やローザが飲ませようとしても、力で押し負けるんだもん。それに、サメラの扱いならカインが得意でしょ?と論じてカインは言い返す言葉を見失う。エッジやセシルだとサメラが口で押し勝つの、カインはしっかり言い返すでしょ?ほら、適任適任と。リディアに言いくるめられてしまう。サメラはおきたらのむ。と返事をして、さっさと自分の毛布で身を包み、周囲に背を向けて寝る姿勢に入ったので、人知れずリディアはサメラにそっとスリプルをかけるのであった。



×