ルドルフ | ナノ



月の館に前に来たこともあって、すんなりと到着した。静かさと神秘さを持った館は、厳かな空気を持ってそこにあった。
中に入ると冷たい空気を纏った部屋に、ふわりふわりとクリスタルが浮いていて、心に、脳に直接語りかけてくる。
かいつまめば、ゴルベーザとフースーヤが館の奥底、ゼムスのいるところに向かっていったらしい。急げば、戦闘中に合流できるかもしれない、と算段たててみる。彼らは二人で、こちらは五人。彼らが魔法について、達人の域であるが、こちらはバランスも整っている面々だ。追い付くことも、可能性は大いにある。風の魔法を最大限に使って全速力で走ってしまえば、ある程度の距離も稼げる。だろう、計算しながら考えていると、ひらひら顔の前で手を振られて、はっと意識が現実に帰ってきた。

「サメラ、どうしたの?」
「全速力で、とりあえず5階分ほど、走るか」

エーテルを飲みながら走れば、時間の心配もほとんどないだろう。と言えば、回りの表情が変わった。ん?どうした?と首をかしげれば、お前、やはりなにもわかってなかったな。とエッジが、呆れた顔で、サメラの肩を叩いた。なんだよ、とサメラは立腹だったが、もう、怒る気力もなく皆一同にため息をつくのであった。

「もう、僕たち怒るのも諦めたから、カイン。サメラの事任せたよ。」
「どうして、そうなったんだ。」
「あいつ、何を言っても無駄に近いから、カイン、よろしくな。」

だからどうしてと声をあげたが、カインの叫び空しく、そこに残された。仲間たちは一人ずつしか使えない奥の部屋の転送装置を使って、月の最深部と呼ばれるエリアに移動してしまっていて、サメラとカインの二人が部屋に残されていた。

「なぁ…ひとつ、聞きたいんだが。」
「どうした、何かあったか」
「答えにくいとは思うんだがな。」

洗脳される前、なにか兆候みたいなものはあったのか?頭のなかで誰かが名前をよんでいるような、とか、悪夢をひたすら見せるようなとか。そういう、なにかきっかけ的なものは、あったのか?
サメラの青い目がカインを居抜く。親友と同じ色をしているのにもかかわらず、それとは全く違う印象を与える青の眼差しは、ひどく真面目に問いかけている様子がうかがえる。

「お前…もしかして」
「正直な話をすると、解らないから聞いている」

たまに声がする。それからお前は誰だと聞いてくる。最後に私を呼べと言うんだが。よく解らないから困っている。たまに聞こえてくる声は、脳の中心を焼くような囁きで、語りかけてくる。

「対策は、いくつか取り出している。だが、いざというときは、私を切り捨てろ。何かあれば、最悪私にはあと二三手段はある。問題はないし、実害も出ていない。気にするな。」

腰回りに着けた薬が、瓶の中で揺れる。ラベルもなく、どんなものかというのはカインの想像ができた。荷物のなかに置いていたポーションとは違う色合いをした薬は。薬らしかぬ、色合いをして異彩を醸し出している。

「だが、」
「万が一、何かあればの話であって…まぁ、セシルたちを頼んだ。」

あれは、ひどく脆いからな。と言葉を残し、背中を叩いて##name_1##は館の奥のフロアにわたる。その小さな背中に大きな覚悟を抱いてる様子があるとは思えなかった。
一人取り残されたカインは、アイツをどうするか、と一人淡々と考えるのであった。


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