サメラは、別の部屋に逃げ込んでドアに背を付けてずるりとへたり込んだ。 髪の毛を巻き込んだが、ぐっと引っ張り出して、ふっと息を吐く。 もしかすると恥ずかしい、という気持ちが今なのかもしれない。と思いつつ、膝を寄せて顎を置く。どうして、あぁなってしまったのか、記憶が薄く。どうしてそうなったのかと、思えば解らない。と言うのが答えなような気もしてきた。 ぼんやりと思い返しながら一つ一つつなぎ合わせていくなかで、昔手合わせが終わった後に必ず呪いのように言葉を呟きながら頭を撫でていてくれた。その言葉は、囁かれた言葉たちに似ていて、思いを馳せる。 夕暮れの山端に消える太陽を見ていると、大きな手が頭を押し付けて、誰に言うでもない言葉をあの人は投げていく。隣を見てもサメラを見ずに、誰かに諭すような声色で言った言葉は、誰かにでなく、団長自身に言い聞かせていたのかもしれないと思慮に耽りながら、サメラはカインの言葉を舌にのせる。 誰ももう居なくならない。お前のせいじゃない。お前がまもればいい。足りないなら手を貸してやる。必ず誰も亡くしはさせない。 サメラの中に全て溶けさせていくようなその言葉たちを反芻しながら、サメラは一人吐き溢す。 必ずなんて。有りやしない。そんなものがあるのは、芝居の中だけなのだから。 サメラは深いため息をつきながらぼんやりと天井を見上げてた。遠くの照明に光を当てられて天井にぼんやりと灯りの光が写っていて、ぼんやりとその光を眺めていた。 「人は必ず死ぬ。」 生まれ落ちたからには必然の運命で、必ずの理。いつかなくなるもので、消えてなくなるもの。指からすり抜けていくものをどうこぼさずに生きていけるはずがない。死者を甦らせれないように、理をひっくり返すことなんて魔法を極めてもできることでもないのだから。 「必ず、なんて。ない。」 溶け込んでいった言葉たちをすべて拒んでいく。溶け込んだ幻想の言葉たちが、違和感の塊が出来上がって、胸の中の幅をとる。 必ずなんてない。という言葉と生まれていく違和感にもどかしさを覚えながら、じくりじくりと主張を始める。 死んでいった仲間の顔が浮かんで、どうして殺されたと後悔する。 闇にぼんやりと浮かんでいる顔達は悲痛な叫びを浮かべ、悶絶とした顔をして、悲しんだ顔をして、サメラを見ている気がする。 ふいに、海に落ちたような感覚がして、温い水がサメラを包んでいく。そんな中でサメラは、鈍く光る闇を見た。サテンのような光沢を持った闇は、手招きするように嘲笑うかのように揺らぐ。 「ゼムス。お前には惑わない。」 回りにもなにも求めない。 誰にも屈することはない。 考えれば考えるほど苦しくなって息がしにくくて、じりじりと焦がされているような、もどかしい感情が巣くっていく。 サメラはこの胸の中の名前を知らない。 前 戻 次 ×
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