ルドルフ | ナノ




窓の外は、青い空から、暗い色に変わりつつあった。サメラは、飛翔のクリスタルの傍らに立ち、いつもの無表情を貫いている。

「ルドルフ、オメェ。」
「セシルが、曲がらないからだ。」

言っただろう?嫌なら止めろ。とな。男三人かかっても止められなかったのだろう?諦めろ。
茶を啜りながら、そういい放つ。そして、とどめと言わんばかりに、プリン体に時間をかけていたお前達が、月の奥にいる魔物たちに足止めを喰らうのが落ちだと言い切る。

「ルドルフよぉ。俺達に何が足りねーってんだ?」
「頭が弱い、心が弱い、魔力が弱い。」

迷うことなくサメラは、エッジ、カイン、セシルと指差してから、「決定打として回復が心許ない。」飾らず、直接的な言葉の暴力に近い指摘に、ばっ!ばか野郎、カインに、もっと優しい言葉かけてやれってーの!とエッジが取り乱しながらカインを盗み見る。
カインは、諦めろ。と言わんばかりに息をついて、セシルを見る。視線の先のセシルは、サメラって本当に滅茶苦茶だよね。と溢して根負けしたのだった。

「動き出したのは仕方ない。サメラも、行こう」
「そう、言うと思ったよ。」

口角を少しあげて、サメラは扉の向こうに声を投げ掛けた。許可下りたぞ。リディア。ローザ。そこに、いるんだろ?と。すると、その声に反応して扉は開き、笑顔のローザとリディアがそこに立っていた。

「サメラ…。」
「船から出た形跡もなかったしな。完全に降りきってないから、実力行使に移っただけさ。」
「もう、急にタラップが動き出してビックリしたんだから!」

リディアが、もう!とぷりぷり怒りながらサメラの横に腰を下ろす。一緒に行くんだろ?とリディアの肩を叩いてやれば、幻獣の力も必要でしょ!と胸を張って、任せてよ。と言う。空気が和んで、いつもと変わらない賑やかさが戻りだしたな。とサメラは回りを見て、少し寝しようと瞳を閉じて、回りの音を聞いこうとした。体の傷を治す薬などを沢山飲んでやりすごしてるが、血を作るような薬はそんなに作ってなくて、視界が時まれにチカチカとしていたのだ。色が塗り替えられていく度に、歯を食い縛り耐えていたが限界を通り越していたのは解っていた。
耐えねばならぬ。と自分に言い聞かせて、バブイルの巨人の中で耐えていたのだから。血を流し、出来たばかりの魔力を戦闘につぎ込んで、いたのだから傷の治りも遅い。すっと、視界が色を変えていく。月に行くまでの魔物もいない、ゆっくりできると判断して、とがっていた気持ちもどこかに消えて、安心感だけがサメラを包む。飛翔のクリスタルに頭を寄せて、重力に従うかのようにサメラのまぶたは落ちた。

「あぁ。そうだった。」

お前の荷物を持ってきた。とカインが、ふと視線をあげてみると、サメラが眠っていた。戦闘に回復にとこなしていたのだから、その疲労は遥かに濃いだろう。サメラの片割れである親友セシルもそこそこ顔色が常によくない方だったが、今のサメラは、もっと白い。血の気を無くしたような、頬の赤みもなくただ死んだようにも捉えれる、それはどこか恐怖が近くにあった。

「寝てるのか…?」

そっと、呼吸音を確認するためにそっと耳を寄せる。微かにすぅすぅ聞こえる音に、カインはホッとしながら、風邪をひくぞと声をかけたが、反応が鈍い。バブイルの巨人のレーザーの攻撃を一番受けていたと記憶をしている。失血気味なのだろう、と判断してカインはやれやれと言わんばかりにため息を吐いて、サメラの膝裏と背中に手を回して抱え込んで、立ち上がるとリディアと目があった。

「サメラ寝ちゃった?珍しいね。」
「疲れてたんだろう、バブイルのシステム達と戦う前から多少の傷があったから、恐らくは。」
「そっか、サメラ。お疲れさま。」

カイン、寝かしてくれる?ここの隣の部屋、人数分のベットみたいなのがあるからさ。サメラ、昔からなんだけど町中でしかしっかり寝てないみたいだし、月につくまではゆっくりさせてあげようよ。
いつも、私たちを守ってくれるために頑張ってるんだもん。いいでしょ?よろしくね!てきぱき決めて、リディアはカインの背中を押してほらほら!と隣の部屋に押し込んでいく強引さは、サメラに似たのかもしれない。リディアの幼少期にほんのわずかに居たけれど、隣でよくしてくれた。といてくれた記憶は比較的新しい、移動中のこぼれ話のようにした軽いやり取りだった。そんな風になりたい!と意気込んでいたリディアに、エッジがやめとけ。ルドルフが二人とか地獄かよ。とぼやいていて笑いが起きたのが印象的だった。
カインだけが、この腕のなかにいる女をよくは知らない。ゾットの塔から地底に入ってしばらくまでの僅な期間だけ一緒に居た無口な女。ゴルベーザの部下マラコーダに育てられた女で、強かで踏まれても折れても尚太陽に向かって咲き続ける草木のような女で、戦闘においてもセシルよりもそれ以上に強い女だというのはゾットに居たときに一回だけやりあったときにその強さは痛感した。一時的に旅に一緒に行動したこともあったが、どちらも口を開く性根ではないのでなにも話をしなかった。強いて言うならば、バロンに一旦戻ったときに、幼い子どもにたいして詫びていた姿が、心の端にひかかって居た。石になった子に真摯に向かい合うあの姿は、バロンを経つ前のセシルと同じ顔をしていた。兄弟、双子、といわれてあぁ、そうだったのか。とも納得をした。
今度話をしてみるか、と算段つけながらカインはサメラを寝かしつけてその傍らにバブイルで拾ったサメラの愛用である武器を、荷物をおいてカインはそっと部屋を出たのであった。



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