ルドルフ | ナノ




しばらく沈黙が続いた。誰も口を開くことなく、ただ黙した思い空気だけがそこにあった。その沈黙を破ったのはゴルベーザ、もといセオドールだった。彼はなにも言わずに、セシルとサメラの横を通り抜けて兜をかぶりなおして、クリスタルに寄る。

「どこへ!?行こうとするんだ。」
「この戦い私自身が決着をつけるッ!!」

父のなくなったのは村人をゼムスが扇動したからだ。だから、父は、母は。そして、兄弟たちとこんなことになった。これは、すべてを始めた私のけじめだ。と言い捨てて、また歩きだす。その背中に向かって言葉を出したのはフースーヤだった。

「待て! ゼムスも月の民!私もともに行こう……!」

カツカツと靴音が響く。出口の数歩手間でゴルベーザが立ち止まり、振り返って一言を放つ。

「さらばだ、セシル、銀色……」
「サメラだ。」

多分、あの鎧の下は目を細めて酷く穏やかな顔をしているような気がした。纏っていた闇がすべて霧のように霧散して、その背中にひどく寂しさが残っている。なんとなく、そう思えた。

「いーのかよセシル?」
「ゴルベーザ…あの人死ぬつもりよ…」
「……」
「お兄さんなんでしょ?」
「兄さん…」
「そうよ!」
「……」

サメラは視線をセオドールから少し横に反らして、誰の目も合わさないようにした。視界のはしに見える黒に金の細工を施した甲冑がゆれ、足音が近くに聞こえる。

「すまない、サメラ。」

セオドールは、黒の篭手のまま頭をなでた。大きくて、暖かくてきれいで澄んだ太陽のにおいがして、誰に届くでもない言葉が放たれる。
あの頃の私は、幼すぎて二人はつれていけなかったんだ。
確かにそう聞こえた。誰にたいしての謝罪なのかはわからなかったけれど、恐らくサメラに言いたかった言葉なのだろうか。ふっと顔をあげれば、黒の鎧がそこにいた。何を言って良いのだろうか。そう思考がめぐる。
さようなら。いってらっしゃい。がんばって。どれもそぐわなくて、サメラの視線がまた下を向く。謝ればいいのだろうか、誰に?どんな顔をして、どんな言葉を連ねれば、あの兜の下は悲しまないのだろうか。短すぎる一瞬なのに、それがどうしても二瞬にも三瞬にも思えていると、視界の端から黒が消えた。
その背がずっとなにかを言いたげにしているような気がして、口を開いてはまた閉じてを繰り返している間に、セオドールもフースーヤも消えてしまった。扉の向こうで、次元エレベータに向かって移転魔法を使ったのだろうか。いない姿を見つめていると、足元が大きく揺れだして、巨人はゆっくりと音をたてて崩落を始めた。
大きな揺れと同時に、上から瓦礫が降り落ちてくる。

「危ない!」

リディアの頭上に落ちてきた瓦礫を凪ぎ払えど、新たに別のものが降り落ちて来て雷魔法で粉々にしてもきりはなく、サメラの魔力も底をついた。
それからは、瓦礫を交わすのがやっとの状況で、回りを見回したが、出口はなく、落下していくにもこの人数でいくのは操作的にも魔力的にも厳しい。どうする?ローザのテレポで全員を逃がすかと算段つけてみるが、どこに飛ぶかも解らない以上やるのは得策でない。ならば、と色々考えても妙案は出ずに歯噛みした。

「や、やべーぜ!」
「逃げないと!」

慌てた声が溢れるなかで、叱咤する声が飛んだ。今いる仲間の声でない声に、慌てていた声も止み視線はそちらに全員が向いた。

「なにをしてる。こっちだ!」

フルフェイスの竜を模した蒼鉄色の鎧の男、カインがそこに立っていた。エッジは、怒りを表して威嚇するように睨み付けていたが、カインは気にする素振りもなく、話は後だ着いてこい。と言って走り出すので、サメラは弟子の頭を叩いて「ここで死にたいなら勝手にしろ」と吐き捨ててカインの後を追う。



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