館を出て暫く、フースーヤはサメラの腕を見て、声をあげた。 「月に来る前に、魔物と死闘を繰り広げた際に。」 「ケアルを使わなかったのか?」 「回復魔法がどうも合わなくて、」 傷が悪化したり、血が滲んだりするので、ポーションを手放せません。ふむ。とフースーヤはサメラの手を取り、まじまじとティンクトゥラの呪いじゃの。と呟いた。火傷の傷と雷を受けたがために出来た紋様を眺めながら、魔法の口上を唱え出した。フースーヤの手から淡い光が出て、その光はスーっとサメラの中に消えていった。 「これでよかろう。」 ケアルをかけてみなさい。と勧められたので、サメラはポーションを控えさせつつケアルを唱え出した。淡い癒しの光は、サメラの腕に落ちると泡のように溶けて、傷を癒していった。ケアルを二度三度と重ねがけすれば、醜い痕もきれいさっぱりとなくなっていて、サメラはフースーヤと傷とを交互に視線を向けた。 「ティンクトゥラの魔法は実に分かりやすいの。」 「母は…ティンクトゥラは、私に記憶を見せてくれました。」 燃える家で、私を拾い上げたこと。私に兄弟がいたこと。ティンクトゥラがどうして無くなったのかと伝えるとフースーヤは視線を落として、そうだったのか。と呟いた。だから、魔法があいつの呪いがずっとそなたに残っておったのか。と彼は一人納得をしてから、サメラの方を見て、どこから話をしようかの。と懐かしい目をしていた。 まずはそなたにかかっていた呪いについてじゃ。そなたには、魔法返しの呪いがかけられておった。回復魔法にたいしても返されるので真逆の効果が現れたのじゃ、月には魔法を使う魔物がおっての、幼子の成長を願う呪いとともに、よくかけられるものでの、魔物の襲撃にあっても反撃できるように唱えられている文言である。その呪いは長い時間をかけてほどけるものでの、そなたはよほど魔法がききやすい体質みたいでよく魔法がきいておったよ。それは、ティンクトゥラがそなたをおもうがゆえにかけておったのじゃろう。幼い頃から魔法の類いは一切効かないのではなかったのかの。だから白魔法は聞きすぎて傷が悪化していたのじゃろうに。先程完全にほどいたので、もうこれからはケアルもなにもかも効くようになった。 「…ありがとう、フースーヤ」 「じゃが、黒魔法もかかるようになったので、気を付けなされよ」 「わかった、気を付ける。」 火傷の痕も綺麗になくなったその腕を見つめて、ふと思ったことをフースーヤにといかけた。 「ティンクトゥラの母の記憶を残した石は、砂になることはあるのですか?」 「石の中の魔力がなくなればその石は割れるであろう。」 その石は、砂になっても手元においておくとよい。そなたを守る記憶が根付いているのならその砂は、いつかそなたの守りの力となるだろう。しかして、その砂は手元に? そう問われて、脳裏に人間味ある魔物たちが脳裏を走る。恐らく、青き星に戻ったあとにやいばを交えねばならぬ相手と思うと、胃の辺りがぎゅっと痛んだ。人となり…魔物だが、をしってしまったいじょうどうすることもできないのだが、どうすれよいのだろうか。サメラは乾いていく喉を無理矢理ならして返答をする。 「今は、……預けています。」 自分の声が酷く震えているような気がした。 前 戻 次 ×
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