ルドルフ | ナノ



全員が月に到着して、一行はどこに向かうかと話を始めだした。始めだしたといっても、その議論をしているのはサメラとセシルとエッジであった。どこに向かう、どこにこんなのがみえたと色々話をしていくと、遠くに館が見えたとエッジが言うので一先ず、そこに向かおうと話をつけて、方向を決めて歩き出す。戦闘を禁じられているサメラを真ん中に据えて、戦闘にセシル、続いてローザリディアサメラエッジと続く。ぼんやりと一行の真ん中で歩きだして、泡の姿をした魔物やプリン体などの魔物を時にたおし、時に巻いてやりすごし、事なきを得て洞窟をひとつ二つを通り抜け、選択肢に迷えば、どこかから導くかのように声が聞こえた。先に屋敷がひとつそこにあった。大きく透明なクリスタルに包まれた館がサメラ達を招くように大きく口を開けている。
入り口より奥は暗く、見えにくい様子になっているのが遠巻きに見ていると、その入り口から声が聞こえてきた。

……ハヤク、……

「呼んでる?」
「サメラ?」
「わからないけれど、たぶんこの先に」

人がいる。
そう言いかけた瞬間目も開けられないぐらいの、強かな風が吹いて、サメラ達を包み込んだ。それは、瞬きをするほどの僅かな時間であった。そんな風が止むと、回りの景色が変わって、一人の老人がそこにいた。汚れを知らぬような白い衣を纏い、白髭を蓄えた男であった。

「よくぞ、来られたな。」
「あなたは…?」
「私は月の民の眠りを護るフースーヤ…」

思い出そうとすると頭がツキリと痛む。いつ聞いたか解らない。思い出せないのが酷くもどかしい気持ちがつのる。蓄えた髭を撫で付けながら、フースーヤは言葉を続けていった。

もう遙か昔の事だ…火星と木星の間にあった星が絶滅の危機に瀕した。生き残ったもの達は船で青き星、すなわちお主たちが生きている星にたどり着いた。しかしまだその星は、進化の途中にあったため我々はもう一つの月を作り出しそこで長い眠りについたのだ。進化が来るべき日のために、我々は待つと言う選択肢を選んだのじゃ。何名かの残りたいと願うもの達を青き星にのこしての。じゃがの、しかしある者は眠りを嫌った。青き星に存在する者全てを焼き払い、そこに自分たちが住めば良いと考えた
…私は、私たち月の民は、その者を封じ込めた。しかし長い眠りの間にその者は思念を強化した!その思念がそなたらの星の邪悪な者達をより悪しき者とし…クリスタルを集めさせたのだ。

なんだよひっでーやつ!とエッジが声を荒らげた。回りは困惑を浮かべていながら、サメラは視線を落として、考え事をした。ゴルベーザが操られている。と言うならば、その背後にはもうひとつ影がある。その影が恐らく四天王を甦らせたのだと、推測は簡単にできた。……もし、マラコーダが、それのてによって甦っているのだとするならば、ふっと考えたが、この話もどこかでしなければ。と考えて、視線を上にあげると。フースーヤは言葉を選ぶように、口を開いた。

かのものの名はゼムス体を失ってもなお悪意をもって動くものじゃ、彼の狙うクリスタルとは我らのエネルギー源。おそらくバブイルの塔の次元エレベーターを作動させる為クリスタルを集め、次元エレベーターでバブイルの巨人をそなたらの星に下ろし全てを焼き払おうとしている…!しかし多くの月の民はそうではない。青き星の者達が我々と対等に話し合えるだけの進化を遂げるのを促しておるのじゃ…皆…その日を夢見て眠り続けているのじゃよ…。

弱く笑うフースーヤは、近くに椅子を呼び出して、勧める。クリスタルでできた椅子は手に触れると、石独特の冷たさを感じながら、その椅子に腰をかけた。しっかりとした作りに、サメラがおぉと簡単とした声をあげた隣で、セシルは、疑問を投げ掛けた。
ところで僕らが乗ってきた魔導船は?一体?と、おや、という顔をしたフースーヤは長い髭を撫で付けてから、膝の上で手を組んでぐるりと一同を見た。夜明けの青のような瞳の色が、じろりと一人づつ視線を這わせた。
どことなく居心地悪さを感じたサメラは、眉値をしかめながらフースーヤを見つめた

遙か昔に私の弟クルーヤと親友のティンクトゥラが作り青き星に残った者じゃ。クルーヤは未知のそなたらの星に憧れておっての…デビルロードや飛空艇の技術はクルーヤにより、風や水の元素を使った独特の魔法は、ティンクトゥラのてによって、その時もたらされたものだ…。そしてクルーヤは青き星の娘と恋に落ち一人の子供と双子の姉弟が生まれた…

はた、とそこで気がつく。ついこの間見た記憶なのに、どこか昔懐かしさを覚えている。クルーヤは、サメラの記憶の中よりも若い母が、あの燃える家で呼んだ名前だった。待った。と声をあげようとしたが、口からは息しかでなく、手は空を掻いた。まだ、話してないんだ。

「そのうち一人が…そなたとそこのおなごだ。」
「っ!!、僕とサメラが…?」

視線が刺さる。…言わなければ、なにか一つでも放たねば。と思うと思う程、頭の中で言おうとした言葉がかき消される。あと言う言葉だけがずっとこぼれ落ちていく。どうしよう、何か言わねば、拒否されるかもしれない。何を言えばいいんだろうか?と思考がぐちゃりと混ぜられていくような気分になっていく。視線をさまよわせて、そっと一つ二つと言葉を放った。

「そういうのだと、この旅の…途中で知った。言おうとした、でも、タイミンが掴めなかった。事実か虚像か解らなかったから。口に出すのすら、怖かった。事実だとしたら、どうして黙っていたの?と言われるのが怖かった。だから嘘だと思った、でも、事実だと理解した。家族がいて、良かった…セシル。」

言葉を連ねる度に、息が逃げる。待ち望んでいた反面恐怖が否めなかった。自分が自分じゃないような気もする。回る頭の中で、良かったという気持ちと、彼が何を思っているかわからない恐怖だけが、そこにあって、サメラはそっとうつむいた。彼を、兄弟をみるのが怖くなったから、どういう表情をしてこちらを見てるのだろうか。畏怖した?軽蔑した?拒絶した?それとも、歓喜か?うかがうことも怖くて、小さく頭を振った。

「サメラ。」

よかったよ。君の家族で。君が探していたものになれて。
頭上から声が降ってきて、頭に優しい手が乗った。きっと、この顔を上げればセシルはきっと、困った風に笑っているのだろう。なぜだか、そんな気がした。

「よかったね、サメラ。」

無くしたと思った家族が横にいたんだよ。とリディアの声だけを聴いて、小さくうなづく。そう、家族。無いと困る私の大事な者。それだけが、心に光をともしてくれている。

「…よかった。」
「ほんとにね。」

ふっと顔を上げれば、嬉しいとも困ったともいえる笑みを浮かべているセシルと、その横に目をちょっと赤めているローザとリディア、ぐずぐず鼻を鳴らしているエッジがいて、サメラは嬉しそうに首を振った。



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