誰かが呼んでいる気がして、目が覚めたが何もなかった。回りを見回してみると、そこに仲間が居て安心した。なにも起きていなさそうでホッと胸を撫で下ろした刹那、脳裏に暴力的な声を聞こえて、小さく呻いた。思考を奪っていきそうな情報が頭の中を駆け抜けていった。見たこともない大きな人の姿をした何かが大地を焼き、仲間が一人一人倒れていくその光景は、なにともいいがたい絶望がそこにあった。何だ?と考える合間もなく、その映像はみるみるうちに静まって、今はその情報すら一瞬の幻とも受け取れた。何だったんだろう?と考えていたが、恐らく推測はたまに聞こえる声で違いないと答えを出して、サメラは諦めて起き上がった。 傷などの状態を確認しながら、結構な速度で回復していることを確認して、この調子だと月を出発する頃には問題なく動けるのではないかと頭の中で算段つけていると、セシルが起きたようで、目線が合うと彼はにっこり笑ってサメラの横にたった。 「サメラ、起きたの?」 「おはよう、セシル」 「具合はどう?」 まぁ、軽い戦闘なら問題はなさそうなようになってきたぞ。と返事をすると、サメラはまだ、戦っちゃダメだからね。と頬を膨らませて訴えるので、わかっている。と返事をして、なぁ。と声をかける。どうしたの?キョトンとした顔でこちらを見てくる青は、よくみた自分と同じ青だ。 「セシルに言わないといけないことがあるんだが」 だけれど、もうちょっと待ってもらってもいいか。私も、心の準備がいる。うまく言えないんだけれど、答えが足りなさすぎるんだ。答えがきちんと出たら、セシル。お前に包み隠さずすべていうことを誓う。だから待っててくれないか? 話している間に、セシルに話して否定されることが怖かった。あのバルバシリアと見たものが、もしかすると誰かの見せた偽物だったら、と考えると酷く臆病になってしまう。 視線が落ちていったので、セシルの顔も見ることができない。もしかすると、彼は怒っているのかも知れない、と考えると怖くて顔をあげれない。ただ、床の溝を目線でおっていると、いいよ、待つよ。と優しい声が聞こえて顔をあげると、セシルは笑っていた。 「早い目には教えてね。」 「ありがとう。早く言えるようにする」 待ってるね。と二人で笑いあっていると、船内は緩やかな衝撃と共に月に着陸したと先に起きていたらしいリディアが知らせに走ってきた。エッジに知らせてくるね!と消える背中を見送ってから、言っておくけど戦闘はなしね。と念を押されて軽く返事をして、ブリッジに向かって歩き出した。 サメラは、この四人がどうやって戦うのだろうかと想像しながら歩き出した。セシルに、この先どんな魔物がいるんだろうと話を振られたが、サメラは今回戦闘は禁止されているので、どうなんだろうな。と曖昧にはぐらかして、タラップへと急いだ。 重たそうなドアをひとつ開けた先に、宝石を砕き割って散らしたような空と何処までも広がる広大な世界がそこにあって、酷く優しい声で誰かが呼んでいるような気がした。誰の声だろうかと、考えていたら後ろからエッジがやってきた。 「ルドルフ?」 「どうした?」 「険しい顔をしてるぜ」 なにと言えばいいのだろうかと瞬巡して、月の偉大さに驚いてただけと伝えて、サメラはタラップを降りて月の土を踏みしめた。さらさらとした砂が舞い上がり、キラキラ光っていた。 遠くに見える青い星から来たのかと思うと胸が震えるのであった。 前 戻 次 ×
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