ルドルフ | ナノ



プロムに使い走りを頼み、荷物を整えてもらっている最中、サメラはぼんやりと窓から見える景色を見つめながら、誰かの声を聞いた。
我が息子に対成すもの礼を言うぞ。とだけであったが、どーいたしまして。と適当に返事しながら空を見上げる。

「対成すもの。ねぇ。」

これだけを素直に読み取るならば、やはりクルーヤの元に授かった双子なら、あのバロン王も理解ができる。ティンクトゥラが見してくれたあの記憶たちの中の、双子。話の流れで、理解しえた生きているかもわからなかった半身。同じ色した髪と瞳が偶然で片づけてしまったけれど…もしも…、もしも偶然じゃないとするならば。そこまで考えてしまうと、思考は油を注がれた炎のように爆発するが如く、勢いは走り出す。

「…セシルが家族…。」

体の中で、すっと何かが動き出した気がした。なにかもわからないけれど、心臓が変にバクバクする。もしも、そうならば。私は、どんな顔をしてあれにあえばいいんだろうか。
ティンクトゥラという親を亡くし、赤華という家族を亡くし、目の前に突然とあらわれた兄弟という細く先が見えない蜘蛛の糸のような希望で、それはどう処理をしていいのか、サメラは迷う。
確定でない、そう。確定でないのだと自分自身に暗示をかけて何もないと言い聞かそう。落ち着いて、答えを探そう。それまでは黙っているのがいいのかもしれない。

「この、ゴルベーザ問題が終わっても、終わらない問題があるんだな。」

これ以上の不和事はないだろうから、これが終わったら、墓参りだけを済ませてゆっくりしよう。セシルたちの手の届かないところで。だ。トロイアとかなら、問題ないかなー。なんて思っていると、飛空艇が視界の中に飛び込んできた。あぁ、あれらも帰ってきたのか。思ったよりも早いなぁ。とどこか他人事だったのだが、ふと、あ。このパターンやばいのでは?と思い、たぬき寝入りを決め込む。とやかく私も知らないのだ。召喚士がいる。召喚により使役できる、そこまでしかサメラにもわかってないのを膝詰めで問い詰められても体調は良くはならないのだ。
巻き込まれませんように、と小さく願いを込めていたのだが、予想は裏切られる。想像外の方向から。大きな扉を開く音がして、すぐさまに衝撃が体中に走る。

「サメラ!!!!」
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!セシル!!!痛い!!!!」

横になっているにも関わらずベッドにダイブするかのごとく横から抱きつかれる。傷口に、大きな声も全てが響く。痛い!と主張してもその腕は離れる気配もなく、ただ小さく震えていた。ヒィヒィ、言いながら抗議の声を上げれども、離れない。衝撃の分だけが落ち着いて多少ましになったころに、セシルの肩を叩くと、かすかに震えているとことに気が付いた。

「…サメラ…ありがとう。教えてくれて。」
「痛いから、せめて腕の力を弱めてくれ…」
「ごめんね。もう会えないと思った陛下に、合わせてくれてありがとう…!もうちょっとだけ、このままにしておいて…」

はいはい仰せのままに。雑に、返事しつつ、抱きつかれセシルの腕のところをゆっくりとしたペースでなだめるように、トントンと撫でていると、部屋の入り口からローザたちが微笑ましくこっちをみていたので、そっと唇に指を一本当てて、内緒のポーズをとると、そっと彼らは時間をつぶすように出て行ったのだった。



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