ルドルフ | ナノ


全身の至るところに火傷跡。落雷による感電の跡。それから利き腕の凍傷。そして特に酷いのはその逆の腕側の裂傷。今までで一番ひどい傷だとローザは思った。とにかくリディアにブリザドで氷を出して貰い、その氷で冷やしつつ、また別の氷を温めて溶かしてサメラの凍えた手を暖める、そんな作業をしつつ飛空挺はミシディアにたどり着いた。
挺に驚いてかミシディアの民は戸惑いを与えたがサメラと共に挺を降りたのが良かったのか、ミシディアの民は蜂の巣をつついたかのような騒ぎになった。とりあえずエッジ道具屋の場所を告げてありったけのエーテルとポーションを買い占めて来てもらうようにしてると年老いた魔導師とその魔導師より幾分か若く見える何人かの白魔導師が走ってきた。小さな魔導師は小さく長老様。と溢すのをローザは聞き逃さなかった。すぐさま容態と、体質について話すと。「ならば、一番の特効薬は眠りとポーションだ」と指示をすぐにだして、長老と共にやってきた魔導師たちにサメラは連れられていくのを見送った。

「彼等に任せておけばサメラもなんとかなるであろう…プロム。セシル殿。そしてその仲間の方も。話は祈りの館で聞きましょうぞ。」

一礼をして、長老はすぐにきびすを返し来た道を帰っていった。その後ろに小さな魔導師がついて歩く。消去法で彼がプロムという名前であろう。パロムともポロムとも似たこの幼子は、どこまで何を知っているのだろうかと。そう考えるとセシルは小さくため息をついた。

「んだよ。セシル」
「なんでもないよ。」
「オメェ、嘘っぱちだ、ルドルフとおんなじ顔してんぜ。」

眉間に皺寄せてっと、いいことねーぞ?悩んでたって、来るもんは来るし、出るもんは出る。そんだけだって、ルドルフの親父だって言ってたぞ。
力一杯セシルの背を叩いてあっけらかんとエッジがいう。サメラと一瞬合流してから、色々あってタイミングを逃してたけれど、彼はサメラが属していたキャラバンの顛末をも知らないのだと、理解してち深いため息をついて青い空を見上げた。幼馴染の鎧に似た空は、今日も沈黙を保っていた。
祈りの館が大きく立っていた。
セシルにとっては四度目。一度目は何も知らなく言われたとおりに動いてたあの頃。あのころとは大きく違うことがたくさんあっても、祈りの館はただ何も言わずそこに立っていた。赤き翼で爆撃をしたのに、略奪したころの跡は何も残ってなくて、さすが魔法の里だな。と感心しつつ祈りの館に入った。


ミシディアの祈りの館は、三階建てである。厳密に言えば地上三階地下一階。の四階建てである。地下に書庫、一階は客間やらホールやら集い場にしており二階に長老やらの住まい三階は祭壇がある。と祈りの館の説明をプロムから受けて、客間に一同が入れられた。
簡素なテーブルとそれを囲む椅子。テーブルクロスはミシディアを象徴する紋章が入っていて、ここは客間だと主張しているようにも見えた。
一礼してトテトテと走り去ったと思っていたが、彼はお茶菓子やらを用意して入室してきた。

「お茶菓子。いります?」
「うまそーだな。」

ひょいと、エッジが焼き菓子を口に運ぶ。そのまま二つ三つつかんで、リディアおめぇも食えよ。とゆっくり差し出す。もうエッジったら。とかなんだかんだといいつつもリディアはプロムにいれて貰った茶をすする。なんだか、ちぐはぐな気がしてなんでだろうとセシルは考えた。見慣れた青が居ないからなのか、それとも似た銀に対しての戸惑いを隠しきれてないのか。なんて窓の外を見ながら考えていたら背後でがチャリと扉が開く音がした。振り向くとミシディアの長が、たわわとした髭を揺らしながら部屋に入って来るところであった。長は頷いてから、部屋にいる面々に着席を促されたので素直に従い、部屋の上座に長、その隣にプロムを座らせ、とりあえずじゃ。と言葉を放った。

「サメラの急場は凌げたのでな。」

まずは情報の共有からじゃの。と言葉を初めて、ミンウは知り得ている情報を出した。
サメラがどうしてここにいるのか、どういう経緯で来ているのか。セシルたちと合流して、その後を。クリスタル一つとセシルたちの逃亡を幇助した関係で、ひどく傷だらけでその体に鞭を打って魔力を暴走させて逃げ出してきたことを伝えると、その情報を補足するかのようにセシルたちが口を開いた。地底のクリスタルを回収しに行ったこと、その回収が失敗したこと。地底で魔導船の話のこと。そして、地上に出た時に大きな落雷を見て、サメラを見つけたこと。一通り話し終えたセシルはカップに手をかけると酷くぬるくなっていたが、それがありがたいと思いつつのどを潤して、視線をプロムに向ける。
視線に気が付いたのか、プロムは。んとー。と伸びた語調で見たとおりのまま話し出した。語調はやはり年相応で、パロムやポロムを思い出して、セシルの記憶の中で二人が笑っていた。
町の外を散歩していたこと。森の方から低空飛行する船を見つけ、氷で船を縫い付けたこと。その船には魔物が沢山いて、サメラがマラコーダと呼んだ魔物と相討ちのように戦闘を行ったこと。
そしてセシルたちが来たことを伝えると、僕からは以上です。と言葉を切った。

「なるほどな。…また、サメラに助けられたのか。」
「…また?」
「そのあたりは、時間があれば。じゃの。」

話したいのもやまやまじゃがの、私はまた祭壇にこもらねば。ならぬ。祈りで、船が出るならば大きな支度がいるのでな。二日ほど待たれよ。二日後の昼に、儀式を行おう。そなたらは、その船で行くのならば、ゆるりと支度をされよ。プロム。彼らを。と長老の指示に返事して、彼らを宿屋へ連れて行った。



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