ルドルフ | ナノ


セシルたち一行は、封印の洞窟で別れた仲間を思いながら、ファルコンを使って地上に登った。青い空と海は穏やかな表情をして。最近見たはずなのに懐かしいともその海を見て思った。
彼女は無事だろうかと考えながらふと目線を親友が立っていた場所にやるが、そこには何もなくて。また一人いなくなった実感が心に寄る。心に淋しさが浮かぶ。
いなくなった仲間について考えると、心がぎゅっとしたような感覚に襲われる。封印の洞窟を離れる際に、不意に腹が痛くなった。なぜかなんてわからないけれど、こういうのがたまにある。どうしてか、昔から。どうしようもなく痛くなることが。ここしばらくは落ち着いていたのに。彼女が、サメラが居なくなってからどうしようもない胸騒ぎと、不意に来る痛みが増えた気がする。なんて考えていると、普通の落雷とは比べ物にならない光りがやってきてから、音を聞いた。晴れた空に、劈くような音が。違和感を与えた。

「今の…」
「魔法だよね…?」

私でも使えないよ。あんな大規模なサンダガ。と旅の連れ立っている黒魔法も慣れた召喚士が言う。超巨大な稲光と似合わない空色はどう考えても緊急事態性が高そうで、誰かが大規模な戦闘をしているのかもしれない。行こう。と声を上げて、船は音のほうに走り出した。
方法をひたすら走っていけば、森の外れに地面から大きく伸びた大きな氷に包まれた飛空艇を一つ見つけた。
その甲板に人が見えていた。先端で、単眼鏡を見ていたエッジが、セシルに渡してあれ見てくれよ。と指差した。指差したのは甲板の上の肉眼では見えにくいなにか。

「…あれ、ルドルフじゃねえか?」
「え…?」

言われてそれを覗けば小さな魔導師が、慌てているのがよく解る。その揺らしているのが白とも言える銀色で、一瞬息が止まった。いや、彼女はバブイルにいたはずで、こんなところにいるはずがない。とも、同時に仲間がここにいた。という相反する気持ちがここにあった。見えているのは幻かもしれない。もしかするとゴルベーザたちが足止め目的で見せている幻かもしれない。…もしくは、サメラがよく対等していた夜を纏った四足の獣。狼のような姿をし、前足に翼にも似た骨格をしている獣。その獣は確か、ほんの少し前にアガルトでサメラを下そうとするために人が化けていた。もしかすると、これも。化けているのだろうか。サメラの姿に…なんて考えてみたがそれにしたって傷だらけにする必要はないか。とも、判断できた。

「急ごう」

ファルコンを動かしてその空中で静止している艇に隣接して、タラップを繋げばエッジが真っ先に駆け込んで、その後を追う。そこはまるで悲惨な場所であった。死臭がするその場所は、この間のミシディアのようだった。人か、魔物かの違い。魔物の亡骸が積まれた甲板に幼い魔導師がいて、その足元に先程見かけた銀がいて、その横に判別できないほどの焦げた何かがあった。その光景を見てセシルは息を飲んだ。まるで、一番最初にあった光景が頭のなかで甦った。生きてるのか死んでるのか解らない老婆を彷彿させるその姿で。傍らでサメラのために呪文を紡ぐ魔導師が足音に気がついてかハッと顔を上げて、サメラの前に立った。

「サメラさんは、渡しません!」

僕が守るんです。パロムもポロムも、サメラさんも長老も民も僕が!まるで野良猫のようだともセシルはその幼い魔導師を見て、思った。大丈夫だよ。僕らはサメラの仲間だ。セシル・ハーヴィだ、君もミシディアの子なら知ってるだろう?
そう語りかければ、あっ。と溢した。聞き覚えはあったのだろう。懸命に耐えていた顔はだんだん緩まって、いまにも泣きそうな表情になって、その子は泣き出した。

「お願い。サメラさんを助けて…」
「大丈夫。」

安心して。と言い聞かせるように頭を撫でてローザにケアルをかけてもらえば。といいかけて思い出す。彼女にケアルは悪化するんだっけ。道具袋のポーションは、あの凶悪な壁と対峙したときに使いきってしまった。

「きみ。ミシディアまでは戻れるかい?」
「ん。」
「エッジ、この子を背負ってミシディアでハイポーションを買い占めてきて!」
「へっ!?」

いいから速く!と言い出せば、リディアが飛空挺のが早いわよセシル…。言う。確かにそうだと納得し、慌ててファルコンにサメラを移して、一同は慌ててミシディアに、戻るのであった。けたたましい音を立てて走るファルコンで、そういえばドワーフの城で似たようなことやったな。と思い出してハッとなる。どうも、なんだかちぐはぐで何とも言えない気持ちになって、やるせない気持ちだけが募った。



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