ルドルフ | ナノ



体の傷はまだまだ癒えないが、やることもないサメラは朝早くから、リハビリと称して小さなカバンに食料を詰め込み、ゆっくりとした足取りでミシディアの外をのんびりと歩いていた。サメラの隣には小さな魔導師が一人ついていた。聞けばどうやら、ミシディアの長老の命により、サメラが無理しないか監視をするということと、パロムやポロムの兄弟であるらしい。昔からどうも体が弱く人前に出ることがあまりないとのこと。あの双子は、実は双子でなく三つ子であったそうな。

「名前は?」
「…プロム」

気だるげな感じのしゃべりを聞いて、その子の身なりを上から下まで見回した。強気のポロムと品行方正のポロム。…そして、無気力。…個性が強いことで。それぞれが違いすぎて、少し考える。

「で、魔法は?」
「青魔法。」
「…青?」

魔法には回復を主にする白魔法と、相手に傷を負わすための黒魔法との2種類と思っていたのだが、まだ別の魔法があったのか。と驚愕した。その表情を見てか、プロムは口を開く。

魔物の力を使う人の総称。青魔導師自体、数が少なくなっているから、ミシディアに残るように言われた。

「魔物の力を喰らい、覚えるがために、命を落とす魔導師も多くはないから」
「…そうか。」
「でも、パロムのもポロムのも覚えた」

ケアルと。ブリザドと。と指を伸ばして数えていく。そのしぐさが、やはり年齢に見合うものだな。と思うと、心がきゅっと閉まった。きっと、この子には、きっとまだ知らされてない情報があると思うと、苦しくなった。この子にとって共に生きていたものが、石になった。その旅に同行していたことを考えれば、恨みつらみは飛んでくるはずで、何かを言われるかもしれないと、サメラは隣に気取られず姿勢を正した。そんな雰囲気を察してか、彼は首を傾げながらサメラのほうを見つめた。

「パロムとポロムになにかあった?」

二人が旅をでて、この間二人が僕にばいばい。って聞こえたから。何もないといいな、ってずっと願ってて。というその姿に、いたたまれなくてサメラはとうとう口を開いた。まだ、ミシディアの長にしか言っていないことを伝えた。

「…彼らは、バロンで私やセシルを守るために石となった。」
「じゃあ、僕がかけるエスナなら大丈夫だね。」
「あいつら、たのんでいいか?」
「もちろん、」

僕の兄弟だもん。と笑う姿が微笑ましくてサメラは、ほっとした。

「じゃあ、パロムとポロムと三人になれたら。今度、僕に魔法を教えて。」
「もちろん。その約束は守るよ。だから、あいつらをよろしくな、プロム」

ん。と返事して、プロムはポケットに手を入れて、サメラの横を歩く。とりあえず、一つ問題は解決じゃないが、結果次第になるだろうと思い、少し安心した。セシルたちと合流できればいいのだけれど、あいつらは何をしているのだろうか。と考えてみると、不意に腕に痛みが走った。

「…!?…」
「?」
「なんでもない。気のせいだ。」

セシルたち。無事かな。と思うのに、頭の中には一人歩く竜騎士の姿だけが、浮かんだ。あれは、また堕ちた。どうすれば、解放できるのか。と思えど、いい方法はなく。小さくため息をつくのであった。そういえば、あいつら。生活できてるのだろうか。…加入当初にいたセシルとローザと大きく成長したリディア。あれらに生活能力はほぼなかった。何色ともいえない煮たもの。が出てきた食事は、長い間があいてるのに、あれがつい最近のようにも思える。そしてそこに、エドワードが一人入った。あれも料理ができる要素はない。エブラーナの王子と言われる奴だ。料理なんて…。そう考えると背筋が凍った。早くミシディアまで来い。と思うと同時に、小さな音が聞こえた。

「何か聞こえないか?」
「気のせいじゃない?」

その刹那、背後から定期的な音を鳴らして低空を勢いよく飛空艇が一つ飛んで行った。地底の大地と海を想像する色合いをした空飛ぶもの。赤き翼とも思えるその乗り物を誰が乗っているのかもわからない。あれが、ゴルベーザたちの乗ってきたもの。だとするならば、圧倒的にミシディアが不利だ。ならば、ここでいったん足止めして時間を稼ぐしかない。接近で戦えるのは、ミシディアにいる中でも自分だけだと判断した。

「プロム、足止めするぞ…ウォータ!」
「ブリザラ!」

サメラが生み出した水は地上からぐんぐんと伸びて、船底にぶつかり水しぶきを上げ、そのあとを追うかのように水柱が凍っていく。時間がないとつぶやいて、プロムに言葉を放つ。

「助かった、そのままミシディアに戻って長老に報告しろ。」
「ついていく。」

勝手にしろ。危ないと思ったら帰れ。と吐き捨てるように言って、プロムを拾い上げて氷の柱を登っていく。その先に、何が待っていようがサメラは戦うだけだと、心に決めた。



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