ルドルフ | ナノ






肩を借りた黒魔導師に礼をいい、ぼんやりと、バルバシリアのくれた情報に頭を悩ませた。ゾットの塔でメテオの衝撃により、結果論一時的に洗脳が溶けた。メテオだけが究極魔法ではないが、それで解けても、このままだと一時的だろう。魔法を使い名を奪い、物はないが、としての根源をゴルベーザは掴み取っている。洗脳によるものは、恐怖や疲労、感情的に奪うものから真の名を奪い生殺与奪や、魔法で染め上げるものもある。バロンで起きたヤンのものは軽いものであった。

「いや、あれで止めていたのは、単に染められやすかった。のかもな。」

ほんの少しの期間だが人間。というのは、簡単に性根は出る。片っ端から広い集めていけば読み取ることは容易い。そして、国柄。エブラーナは鎖国に近い国ゆえに疑い深さを。ダムシアンはどこか計算的で、ファブールは素直である。それが、王によるものなのかは解らないが、比較的割合が高い気がする。

「ファブールと比べるとバロンはどうしてもなぁ。」

性格と国柄。それらから読み取るもの。それだけを読むと、カイン・ハイウインドはあのバロン組の中でもシドを含めても四角四面の男であった。モラルの塊。善良なる意志。清廉であるかは知りたくはないが、純粋だからこそ、染められやすい。そして、人に言えぬ罪悪感。おそらく、そこが心の弱さにもつながっているのだろう。そうでなければ…。

「愚直だからこそ…か?」

ないな。なら、あの馬鹿弟子は。馬鹿を通り越えた別次元のなにかである。馬鹿馬鹿しくて考えるの億劫になってきた。魔力の回復も、体力の回復も必要なのは睡眠である。これは、団長から…マラコーダというべきなのか複雑だが、キャラバンでの教えである。必要なことはあそこで学んできたが、そこが魔物が育ててきた場所だと考えると何とも言えなくなる。心を無くした自分と、人でない団長と、昔に持っていた疑問が一つ溶けたような気もした。心地よい布団の温もりに包まれて、意識が揺らぐ。森の賢者の跡地から帰ってきてから、なんだか感覚がもぞもぞしている。
感覚だけが鋭くなって、どこかから暖かな風がふいて髪を撫でていく。いつもなら簡単に自分の体を動かせるのに、水の中にいるように抵抗を感じる。
水。母なるもの、土と共に命を育み健やかな緑を育み、草木を萌えさせ生きるものに等しく与えるもの。巡り回りさまざまなものになるもの。形なく、変わらないもの。

ウォータ。
そう呟いた、口でかもしれないし、もしかすると心でそう漏らしたのかもしれない。ぼんやりと眺めた天井に小さな揺らぎを見た。薄い光の独特な紋様を描き太陽の光を浴びて煌めく。そんな光景が見えてハッとした。その瞬間に水は弾けて消えてった。
ガバッと起き上がれば傷口はひきつれて、痛みを主張して一瞬でベットに逆戻りしたが、微かな水の臭いがする。無意識に魔法を使ったみたいで、いつもそばにある何かがない気がした。

「今。魔法を使った?」

どうやって産み出したかは解らないが、基本三種と比較名詞は変わらないと聞いている。また、タイミングさえ合えば使おうと心に決めて、意識は水のように揺らぎそして落ちかけた時に誰かに呼ばれたような気がした。

意識が覚醒したかと思ったが、どうも違うようだ。あたりを見回しても、どこかのクリスタルルームのような部屋に一人残されたような気がして、ほんの少し淋しさが襲う。荘厳な空気の中、物音ひとつない世界で小さな祭壇を見つけた。その祭壇はクリスタル製で、の向こうに小さな赤い光と闇を見た。
その闇は光りを吸い込むかのように、暗い。底が見えない深さがうかがえない闇。周りのクリスタルにより多少の煌きですら受け付けない、闇色は青を混ぜたような黒を混ぜたような独特の色合いが塗られたような色であった。不思議な色合いをもっと見ようと身を乗り出せば、すっと身を凍らせるような寒さが吹き上がってきてどこかから声が聞こえた。それ以上はよしなさい。と。
その声に従ってそこから離れれば、どこかからまた、声が聞こえた。

「ここはお主がいる場所でない。大方ゼムスによって連れられてきたのじゃろうが。元の場所に変えるがよい、時期が来ればまたお主もそれについて、理解ができよう。」
「…ゼムス?」

どこかで聞いた名前だとも思いつつも、その声はまだ語りかけてくる。ほら。目覚めの時だ。という声と共に、意識がまたゆっくり温めたバターのように溶けていく。今のは何だったんだろうと思いつつ、また考えることが増えたと思いつつ歪み消えていく世界をぼんやりとサメラは見つめていた。



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