ルドルフ | ナノ



セシルがひそひ草をもっていたから、旅立つまでに来たらいいんだがなぁ。と全く関係ないことを思い始める。そうすればトロイアと連絡を取れるし、デビルロードを通ってバロンから始めてカイポでトロイアと合流しよう。そのまま彼らにバロンへ向かってもらってからエブラーナ方向へ支度してもらって、そのあとにミシディアへ。我々はファブール方向に走り、最後にみんなでミシディアに到着するなら一通り綺麗に物事が進むのではないのか?と旅慣れたサメラが結論を出すころになってようやく、ミンウは口を開いた。何を言われるか、期待して背筋が伸びる。

ミシディアの子の夜伽話としてよく話されている話であるがな。
およそ500年前、漁船がこの地に漂着して船長が漁村を作った。しかし、土地柄なのか、海の魔物の影響なのか、津波の被害が激しく。自然の厳しさに対する精神修行をしていると船長の子孫アブロサムがブリザドを閃いて津波を凍らせることに成功した。そして、賢者ミンウなる人物が漂着してきて、魔導士の国として始まった。と口伝されている。
ここからは、長老の座にいるもの、ミンウと名を背負うのじゃが、そういうものやミシディア上層部にしか伝えられておらぬ話じゃ。その船長と共に漂着したのが、賢者ティンクトゥラ・エリクシール。精神修行をはじめとし、黒魔法基礎魔法五種、物体に記憶を植える魔法を。そしてさまざまな魔法を開発したミシディアの始まりの祖である。

「基本五種?三種の間違いでは…?」
「今となっては、使われてない魔法が二種あるんじゃよ。」

その名をエアロ系とウォータ系と。まだまだありそうな気配はあるんじゃがな。というミンウは、長い髭を撫でた。これ以上の情報はないんじゃ。500年も昔の人間が生きているはずもない。別人。もしくはその子孫ではないのかね?

「エアロなら…母の魔法でした。使えます。」
「なんと…!」

ミンウ。のように語り継いでいる名前なのか、わかりませんが、テラも知っているティンクトゥラ・エリクシールでした。今となっては顔も覚えていませんが、とてもよくしていただきました。
それだけいって、お茶を飲みきる。冷めたお茶になってしまったが、母。の情報を獲れるのかもしれない。もしかすると、片割れ、やセオドールについて知れるのかもしれない。淡い期待を持ちつつ、そっと目線を下におろす。あったら儲けものだな。というレベルの、ものであるが。

「…500年昔の資料から、それ以上の記録は残っておらぬ。」

おそらく、ミシディアを出て行ったのだろう。それ以後の足取りは全くわからぬ。何かの所以で500年いきれているのかもしれないが、こちらでも調べるとしよう。そうしてミンウは話を切った。

「あの…それともう一つ。物体に記憶を定着と言われましたが。」
「申し訳ないが、そちらについては全く文献も残っておらぬのじゃ。」

情報はなかったが、また世界を回ってる間に何か情報は獲れるかもしれないな。とぼんやり考えてると、ミンウは手を叩いて、意識を向けるように呼んだ。

「今はとくと休まれよ。体が、魔力が戻れば、祈りの館にでも籠り、彼らの無事を祈るがよい。そしてセシル殿がまだ戻らぬようならば、支度を整え共にいこうぞ。##name_1##」
「…はい!」

とりあえず今は寝て、体調を整えねばならない。と思い、立ち上がると近くの黒魔導師が肩をかしてくれたので、遠慮なく借りて、またいたベッドに戻り、眠ることにしよう。未だ、すっきりしない頭を振りつつサメラは頭の中で情報をまとめよう。と思い、部屋を立ち去ったのであった。
ぱたりと扉は締まり、ゆっくりした足取りが段々と遠くなっていくのを聞いて、ミンウは目の前に座っていたサメラを思い浮かべる。
夜の月に愛でられたような銀色。夜の終わりのような薄暗い青とも赤ともいえるような瞳。その影にどこか浮かない暗い闇そしてその傍らにか細い小さな光を抱いているようにも見えた。幼い頃から光も闇も持たない脱け殻のような、意思も持たない子だったのをよく覚えているが、なにがあって彼女をこうどこか魅入られるような闇を抱いているのだろうか。先日来ていたバロンの騎士とはまるで光と闇のように、彼とは真逆だな。と再びあった時にそう思った。そしてパラディンになってから尚抱く闇も大きくなったかのようにも見える。小さなころの彼女は捨てられた子とうかがってはいたが、女子である。から、というだけで捨てられる時勢でないことを考えれば、もっと深い事情なのかもしれない。バロンの騎士とは、何か特別な縁で結ばれていないのだろうか?と考えつつもミンウは気を付けなされ。と誰に言うでもなくこぼし、若きミシディアの子の呪いを解く方法を探さねばな。と一人息をつくのであった。



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