そのあと拘束をされて魔法をかけられ、狭い部屋に投げ込まれて床に力いっぱい投げ捨てられる。 背中を打って、息が詰まった、そして、すぐに人型になったマラコーダがサメラの髪を掴み力いっぱい投げた。鉄の板の境目で額が切れて、赤が見える。視界を防ぐ。腕は後ろ手に縛られてその赤をぬぐうことはできない。 「っ…。」 ガッ。 頭に衝撃が走り、星が散った。視界に赤が見える。床にたたきつけられたようで、赤い海に音を立てて獣の足が踏み込んだのを見た。ガリッと耳音で大きな音がして、耳を勢いよく噛まれたこと理解する。自分と違う体温に悪寒が走る。そしてマラコーダはそっと囁く。 「サァ、ハーヴィ達ノ居場所ヲ、吐ケ。」お前は彼らにクリスタルを託したんだろう?早く。傷口に爪を立てられて、またガリと音が鳴る、サメラはただ、歯を食いしばり、痛みに耐え、小さく震えた。救い上げるように鳩尾を蹴られ、一瞬息が詰まって世界が白くなった。が、マラコーダはそのまま意識を手放すことは許さず、腹に足を乗せて体重をかける。 「…ぁ…」 早ク鳴カヌカ?とつま先で蹴り上げられ仰向けに転がされ、痛みを堪えながらゆっくりと息を分けて吐いた。蹴られ踏まれ殴られ叩きつけられ、朦朧とした意識で、マラコーダを睨みつける。セシルたちがどこに行ったかなんて全く知らないが、サイレスをかけられ沈黙状態になってるサメラに発言する権利はない。息のかすれるようなかすかな音だけが出た。 「鳴カヌナラ、小人ニシテ、踏ミ潰シテヤロウカ?」 「上官。それ以上やると、それは死にます。」 「スカルミリョーネカ、フン。マタ、聞キニ来ル。口ヲ割ラセロ。ゴルベーザ様ハ、ゴ立腹ダ、」 そういって、マラコーダが遠くへ歩いていく音を聞き、意識は暗黒の中に消えて行く。遠くで誰かが名前を呼んでいるような気がしたし、冷たい床と触れているはずなのに、流れ出た血のせいでか、どことなく暖かく包まれているような気がした。そのまま、血の海に沈んでいくように、サメラの意識はとんだ。 「俺、ケアルかけれないんだよなぁ。」 ポーションも握れないんだよなぁ。弱ったな。と、ぼやくスカルミリョーネが取り残されたのであった。 一方その頃、封印の洞窟を歩いているさなか、セシルは妙な腕の痛みを覚えた。刺すような痛みでもなくひねった痛みでもない、しいて言えば切ったような熱を持つ痛みであった。その痛みは一瞬だったが、痛みの元になる心当たりがない。先ほどの不思議なドアのモンスターが何かを残していたのだろうか?疑問を持ちながら、腕の確認をしていると、ローザが不思議そうな顔をしてどうしたの?と声をかける。 「…気のせいかな?腕が痛かったんだけれど、もうなにもないや。」 「何もなかったならいいんだけれど、今セシルが倒れたら、前にも進めなくなっちゃうわ。」 「サメラって心強かったんだね。」 「一回、反射魔法つかってみてもいいかしら?」 サメラがわからなかったらいろいろやってみろ。って言ってたのを思い出したの。簡単な会話を紡いでいながら、旅の行く先をサメラはいつも予想して動いていたんだなぁ。と居ない旅の現状について考えていると、鎧に荷物袋の中に入ったクリスタルがぶつかって甲高い音を鳴らす。ここにいるぞ。と言ってくれるような気がして、心強くなった気がした。 「来るぞ、ドアだ!」 「みんな構えて!」 「エッジ、フェニックスの尾は足りてる?」 おう!なんて声を聴いて構えている。ドアは沈黙を保ち、静かに狙いを定めている。そのドアは、動き出せば一瞬にして人を薙倒し意識を奪う。サメラならば、どうするんだろうな。と考えてみたが、まったくいい考えすら思い浮かばない。エッジに問いかけてみようか。彼女の弟子ならば、こういう時の対処法を…考えてくれるかと思ったが、フェニックスの尾係に自ら進んでなっている以上彼も妙案を思いつく様子もなかった。旅慣れてるせいもあってか、サメラの力はすごいんだな。また合流ができたら彼女に教えてもらわないとなんて思いつつ、セシルは駆けだした。 「リフレク!!」 オーロラのような光がセシルを包んだ。きらきらと光が瞬いて、セシルにまとう。薄い布をかぶったような気もするのに、重さも抵抗も何も感じない。剣をドアにつきたてようと大きく振りかぶろうとしたら、ドアが目を開き口を開いた。直感的に食われると思ったが、そんな衝撃もやってこず、見えない風の盾にぶち当たったような、どん。と鈍い音を立ててドアは壁に当たってひっくり返って動かなくなった。 「…セシル、なにをしたんだ?」 「ローザからリフレクをかけてもらったんだけれど…。」 これが答えみたいだね。とセシルは曖昧に笑うのであった。 前 戻 次 ×
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