ルドルフ | ナノ



「ほんと、サメラとエッジが知り合いだったなんて。」
「戦闘についてはだいたい仕込んだが、問題あったか?」

魔物と交戦してバブイルの中をひたすら歩く。鉄の床に裸足で歩くのは、基本は問題ないが、床の冷たさに感覚が麻痺しかけているが、生憎靴の予備など誰も持たないので、結局裸足のままでペタペタ歩く。感覚の鈍い脚から意識を会話に切り替えると、セシルは、むしろやり易いぐらいだね。と言い切る。サメラと似てるな。って思ったんだ。と付け加えつつ会話に混ざりつつ、回りの警戒を勤める。フレイムビーストの通ったあとの暖かさをありがたく頂戴しながら、バブイルを登る。時にリディアの手を、エッジの手を借りて窮地をしのぎつつ、1つ2つとフロアを上がっている最中にしびれをきらしたエッジから声がかかる。

「ルドルフ。使え。」
「お前の獲物が無くなるだろうか。」
「万が一があるだろが」
「お前は2つのうちの1つを投げて使うだろう」
「投げなきゃぁいい話じゃねえかよ。やりにくいんだよ」

そりゃそうだ。とセシルが頷いた。なにも持たないで、もし万が一あった場合はどうするんだ?と満面の笑みを浮かべた。この笑みはヤバイと言うのは、以前で学習している。遠くでカインがあぁあ。と言うのを聞いた。
確実にここでごねると、下手し追手がやってかねない。譲歩の先を伺いつつ選んだのは隠せる武器である。

「エドワード。一番隠しやすい武器はあるか?」
「針とかならあるけど、そんなもんあんまり役にたたねーぞ?」

これがいい。牽制が目的だ。万全じゃないときに大太刀ふるつもりはない。と言って針を受けとる。針は三本。掌からと、同じぐらいの大きさの針を服の中に隠し持つ。一本だけを腰の目立つ所につけて、ほかは全て別のところにしまう。
後ろから視線を受けている気がする。たぶん、エドワードであるだろう。たぶん先程の針についてなにか、言いたいことがあるのだろう。そんな視線に気がつかないふりをして、一行の真ん中を歩く。
先頭が最後の扉を開けると、そこにクリスタルがあった。見張りをして、誰かが来たのならばすぐに逃げればいいだろうと判断して、来た道を睨み付ける。こちらに、やってくるような気配がないのを確認して、セシルたちをちらりと見た刹那、簡素な音を鳴らしてセシル達が落ちた。

「おっと!」

否、エッジとサメラ以外が落ちた。エッジは間一髪なところを辛うじて交わして、踏みとどまったようで、深い穴とサメラを見比べている。

「おい、みんな落ちたぞ!」

どうする?とエッジが言うよりも先に遠くから人の叫びが聞こえてきた。二人で迎え撃つのには、心許なさすぎる。それと戦わず逃げる。のが、体制的に最善だろうか。それと森の賢者の赤い砂を持ってきそびれたことを思い出した。それも回収しなければならない。

「エドワード、セシルを追いかけろ。時間は稼ぐから。逃げて体勢を整えろ。」
「おい、ルドルフ!」
「時間がない、はやく!私はやることがあるんだ。早く行け!」
「…死ぬなよ…」
「わかってらぁ!早く行け!ど阿呆!」

こいつも持っていけと手近なクリスタルを1つ掴んでエッジと共に穴に投げ込む。力強く穴に弟子を叩き込んだことに不安を感じ、軽くエアロもかけておくが、それが有用なのかは定かではない。…きっとクッションみたいなものになってくれるさ。と軽い期待を込めて軽く祈る。まぁ、無理なら…なんとかしろ。吐き捨てて眼前を見る。向こうのほうから四天王が走ってやってくるのがうかがえる。
落ちて行ったエッジに、無茶な注文をしたが、眼前の魔物と四天王を相手に時間稼ぎだなんて、こちらもまた無理な注文であろうと思い、小さくため息をつく。

「クリスタル1つ託したのもばれないようにしないとなっ」

ふらりと足を動かせば、勢いよく駆け出してド派手に魔法をちらつかせた。
あわよくば、時間稼ぎをして、森の賢者の残した砂を手に入れて塔からの脱出である。手に氷をまとわせて、四天王を通り抜けつつついでに魔法を放ち意識をサメラに向ける。

「銀色!待ちなさい!」
「待てと言われて待つ奴はいないな」

ハンと笑って壁を登る。彼らは下に行ったのだ、離れさせるためにサメラは上に上る。排気用の穴、窓、いたるところを渡り、魔物を葬り、時まれに後ろを見て四天王が追いかけているかを確認する。彼らは時に仲間で互いを殴りあいつつサメラを追ってきている。時まれに追いついてサメラを囲み攻撃を仕掛けてくるのだが、それでもうまいことのらりくらりとかわす。

「津波!」
「竜巻!」
「呪い!」
「よっと!」

交わして、津波はバルバシリアに、竜巻はスカルミリョーネに、呪いはカイナッツォに当たり、それぞれが呻く。それを気にすることもなく、サメラはまた彼らの頭上を通り抜けて、着地をしようとした瞬間に縫いとめられたように空中で止まる。これは魔法だ、と気づいたとき眼前に影が一つ。四足の獣、魔物の姿をしたマラコーダがそこで、ニッと笑って立っていた。

「オ前ハ、飼ワレテル身ダ。吐ク事ヲ、全テ吐ケ。」

今夜こそお前は泣き叫んでくれるかの?

昔聞いた言葉が脳裏をよぎって、覚えてなかった記憶がよみがえった。それは、とても長い夜の始まりであった。



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