ルドルフ | ナノ



薄い意識の向こう側で大きな音が鳴っている。ぼんやりとした意識の向こうで、話している放送の内容を理解して覚醒した。

バブイルの塔内部にセシル・ハーヴィ一同侵入、各自担当配置につけ。繰り返す!。

バッと起き上って足についた鎖を思い出す。じゃまだな。なんておもいつつ鎖の先は壁につながれてないことを安堵する。引きちぎれないかな、と思ったが無理みたいで、壁とつながっていることがないことにほっとして、上を見上げる。人が一人通れそうな穴を見つけて、にらんでいるとスカルミリョーネが入ってきた。

「俺が監視だ。」
「…倒せば通れるよな?」
「お前一人が…?」

屈伸をしてからスカルミリョーネと距離を測って二三歩後退してから上をちらりと見る、スカルミリョーネは通さないというばかりに人間体から魔物へと姿を変えて、こちらを睨んでいる。前に倒したこともあって、対処法は知っている。武器も何もないけれど。これの動きは鈍かった。それだけあれば、いい。キャラバンで培った身の軽さだけで、鎖なんてないに等しいものだ。

「まぁ、いい足場にはなるな。」
「何をいってる?」

なんも。と軽く返して床を踏みしめる。鉄でできた床はひんやりと冷たいし、靴もないが。気にはしない。走り出してスカルミリョーネの突き出た牙というか骨というかそういうものを足場にして、大きな跳躍を得て、天井の穴に飛び込む。
下からげっ。という声も聞こえたが気にする必要はない。ただ、穴の先を進む。小さな足場だけあれば問題なくかけていけるのは、マラコーダのおかげでもあるのが少し複雑だが、そこには見て見ぬふりをする。穴を這い上がっていけば、もっと上層階から炎と、氷のかけらが降り落ちてきた。炎の揺らめきの間に青い肌の女が氷を出しているのが見えた。風に乗り、剣戟の音も乗ってやってくる。間違いなくセシル達だろう。と判断をつけてサメラは壁を蹴り上りあがっていく。近づけば音は大きく熱気は多く、まともな装備をしていないが戦うすべは持っている。…足の鎖さえ切ってしまえば、抑えられている魔法も、繰り出せる。気配を消して、もっと高くに上っていく。横目でちらりと見ると赤い魔人とセシルたちが睨み合っているその後ろを音もなく駆けて天井近くまで登りあげそこから重力に任せて落下する。自重には期待はできないが、高硬度からのピンポイントで落ちれば衝撃が発生するだろう。落ちていくさなかに、登りかけている竜騎士を見つける。向こうは死人を見たようにぎょっとしていたが、それを気にすることなく落下し、サメラは赤の魔人に踵を食らわせた。かなりの鈍い音と赤い魔人が膝をつく。サメラは一撃食らわせてその衝撃を逃がすために柔らかく赤の魔人の背中を使い滑り落ちるようにして地面にたどり着く。

「サメラ!?」

あわてたセシルたちに近寄って武器を奪い両足の枷を壊せば、体中に暖かい何かがいきわたるのを感じた。これが、魔力。とも思いながら、周りのものに防御の魔法をかけて癒しを与え、氷魔法も展開していく。

「話は後だ、先に目の前の敵だ。援護する。」
「わかった、ローザ。サメラを頼んだよ」
「頼むから、回復魔法だけは打ってくれるな。」

装備も何もないのに負傷はしたくないからな。言葉を返して、呪文の詠唱を始める。炎の竜巻を呼び出すのを確認して、すぐさま風を呼ぶ。そこにリディアが氷を呼び出して、炎の竜巻と氷の竜巻をぶつける。風の間を誰かがかけていくのを見えて、ん?と目を凝らす。白髪の男、軽い身のこなしとエブラーナ特有の武器。サメラは驚きながらも小さな舌打ち一つして、呪文を続ける。
サメラが入ったので、ローザも攻撃に専念する。風の止んだ隙間を狙って、氷の矢がヒュンと音を鳴らして飛ぶ。赤い布に当たると、焼けた鍋に水を投げ込んだ音を鳴らして消えるのを見て、マントに炎を宿しているのが理解できた。
これは厄介だとも、思慮する。炎をまとって軟な氷を打ち消すのであるならば、それよりも大きな氷でせめればいいかと、サメラは思った。考えてないわけではない。面倒だから奪い取ることはしない。物理の氷を呼び出して、マントを刻んでしまえばこちらのものだとも判断を取る。空に無数の氷塊を呼び出して、重力のままに落とし、風を操りそのマントを刻むように口上を唱えだしたのであった。



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