ルドルフ | ナノ



結局サメラの根負けの結果で、バブイルに戻るかたちとなった。

「銀色。大丈夫か?」
「……大丈夫だ……」
「んー。まぁ、大丈夫よ。そっとしてあげなさいよ。スカルミリョーネ」
「部屋までいけるか?前に部屋までつれていくから、よこになるといいよ。」

心配性が前を歩く。ずるずる、壁に手を添えて、ぼんやり歩く。先ほどの砂漠となった賢者の生家、あの場所で得た情報は多い。多すぎてまとめられない。隣の部屋に通されると、あとで飯を持っていくからな。苦手なものあるか?とスカルミリョーネが聞いてきたが、サメラはただ無言を貫いた。頷きも返事もないサメラに、心配そうにそわそわしていたが、諦めたようで、違う所に消えていった。
気配が無くなってから、寝台に潜り込んでバルバシリアと共に見た記憶について思考を巡らせる。

クルーヤと言う父。セシリアと言う母。セオドールも言う名前を持つ兄と片翼。もしかするとその名前も真の名前でない事もある。森の賢者の聖域の裾野の村はそうだったし、キャラバンのホラ吹き演奏家が言ってたことであるが、古式ゆかしい魔術…というよりも呪術寄りの考え方である。らしい。真名を掌握するものが、なんとか言っていた気がするが、いかんせん、心が壊れて記憶に蓋したせいで、森の賢者、という単語しか記憶がない。
魔術の類いならば誰に聞くのが一番良いのだろうか。と思いいたり、違うと自制する。古式ゆかしい魔導師の伝はミシディアでいい。とりあえず。
父と母と兄と片割れ。家族の色は茶と銀。
銀。その単語でふと、セシルを思い出した。ゴルベーザと出会ってからというものの、セシルとは同じ道を歩いているなぁ、とぼんやり思う。
漆黒の鎧をまとった暗黒騎士。その内に秘めたるは人がいいというよりも、他者を守り抜くという優しさという力を持ったものである。家族の情報。血がつながっている証であり、一番わかりやすい情報。世界を渡り歩いて、自分と同じ髪の色をした彼・・・自分と同じ。そこで、背筋がぞくりと粟立った。
二人、遺伝、片割れ。そこまでいって、サメラは答えにたどり着いた。双子。ついなすもの。同じ色の瞳と同じ色の髪を持つ。家族。
それだけそろってしまえば、すべては線になる。セシルは、生き別れた双子の片割れである。…では、ではどうして。生き別れる結果になっただろうか。燃える家、焼けていく中、あわてていた森の賢者。そして、拾い上げる。…セオドールが捨てた。もしかすると、手が足りなくて先にセシルだったのかもしれない。そのあとサメラを拾い上げるつもり。だったのかもしれないが、今それを考えても過ぎたことであるし、サメラにそれを確認するすべはない。…ならば。

「セオドール。を探すしかない。」

これが、家族についての答えだ。きっと、彼ならば、すべてを知っている生きているかは解らないが。家が燃えて、父クルーヤが戻らず。母セシリアがなくなったわけを。小さくため息をついて、サメラはシーツを深くかぶりなおし、自分の体調を整えることに専念した。ここに、ゴルベーザがいるならば、またきっとセシルたちが来る。それは間違いない。答えだ。その時を待つか、魔を閉じる枷を壊して自分で逃げ出すか。それしかない。今は目下の目標を立てて、旅を連れ立った仲間たちを思い浮かべて、生きろ。と小さく声を漏らしてサメラは眠る。

そんな同時刻。
セシルたちは新たなメンバーを迎えて、バブイルの塔に入り込んだ。ふっと生暖かい風が頬を撫でて、リディアは悪寒がした。ここに仲間が一人取り残されている。彼女を思い浮かべ、無事でいるといいんだけれど、と思う。セシルやカインと並んで主戦力として主大砲として歩いてがゆえに、ここまで来るのにもたくさんの苦労があった。その苦労をすべて彼女、サメラがやっていたというのを考えると、今まで頼りすぎていたんだな。と反省も少し。別れる少し前に具合が悪そうだったのを考えると、やはりどこか悪くしていたのかもしれない。自分が小さなころともに歩いてた姿は健康的でしっかりとしていた。そして魔法も使っていなかった。戻ってくると、サメラ は地上の世界の流れから考えられないほどの魔法を使うようになっていた。魔法は命を燃やし、発生させる。見たこともない魔法は、どれぐらい心を燃やせばできるのか想像はできないが、使っていた量を考えれば尋常じゃないほどの力を持って行かれると判断は取れる。魔物を近寄せないぐらいの風の盾。炎や雷でそんな盾にすることはできないが、制する力は繊細で且つ難しい。あれは、尋常じゃない。意思の力であり、心の力である。だからこそ、サメラは具合をわるくしたのかもしれない。とリディアが思っていると隣の白髪の男がん?と小さく声を上げたのを聞いた。

「どうしたの?エッジ」
「いや、久しぶりに懐かしい声が聞こえたんだけどよォ。」

隣の男、エッジは、こんな塔の中にいるわけないか。と答えた。確かにそうだ、彼の知り合い。がどれだけのひとかわからないが、彼の知り合いというからこそ、エブラーナの民だろうとリディアは思った。鎖国していたエブラーナに旅のキャラバンの一員であるサメラがいるはずがない。と判断を取った。その人。無事だといいね。というと、あったりめーだろ、あいつ。強えんだぜ。と破顔してそういう。少し前まで死にかけて血まみれになってゴルベーザの配下と戦っていたとは思えないぐらいの移り変わりであった。

「ま、俺の師匠だしな。」
「何か言ったか?」

エッジのつぶやきにカインが問いかけた。いんや。なんでもねぇよ。と答えるとカインはそうか。といって、セシルのほうへ歩き寄っていった。エッジは、荷物に入っている水薬を確認した。いつかの巡業でサメラがよく一人でぼんやりと時間を過ごしていた大きな木の上で見つけた水薬である。サメラが置いて行ったものだと判断して幼いころからずっと持っていたもの。色合いから見て魔力を癒す水薬だろうと家臣が判断を取っていた。決して飲まれるな。と念を押されたのも懐かしいその薬はいつか、どこかのタイミングで渡そうと思っていたものだ。次にきたら、と思っていたのに、そのサメラがいる次。は、団長の気まぐれにより放りだされたらしく、サメラ のいる次が、なかったので渡せるタイミングがずっと伸びているのだった。

「ま、元気でやってるさ。あいつもな。」
「ふーん。」

リディアがそっけない返事をしていると、セシルが遠くの何かに気が付いて、一同に声をかける。その先にいるのは見慣れた姿。

「親父?お袋?」



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