ルドルフ | ナノ



十分な休息をし、また一向が塔を登りフロアを一つづつ登る。広い見通しのよい場所にきて人影を見つけたのは先頭を歩くサメラであった。
赤いのと白いのとやり取りを銀色の鎧が傍観している。遠くの声が辛うじて聞き取れる場所まで来て耳を澄ます。

「ルビカンテ様、お気をつけて。」
「案ずるな、忍術とやらを使うエブラーナの城は、既に落ちた」

その一言を聞いて目を見開いた。エブラーナは他の国と負けず劣らず勢力を持つ国だ。…以前訪れた時も強く明るい国であった。………体中の血液が煮える感覚が襲う。……そう言えば、エブラーナで出会った軟派な弟子、生きてるのか?

「あいつ……」
「サメラ、落ち着いて」
「分かっている」

いつの間にか作った握り拳を解いて、サメラは息を吸った。あれはなかなか死なないたちだ。きっと大丈夫であろう。そう言い聞かせ、息を吸う。頭の真ん中が冷たく冷えていくのをサメラは他人事のように捉えた。

「留守は預けたぞ」

それだけを言い残して、赤の人間、推測火のルビカンテが消えていった。竜騎士からの視線が痛いが気にしたら敗けと決めて、サメラはポツリと呟く言葉は掻き消された。

「ヒャヒャヒャ!ゴルベーザ様もルビカンテもマラコーダもおらん!ワシが最高責任者だ!」
「……変なおじいさん」

リディアが言い捨てた言葉はフロアに広がった。慌ててリディアの口を押さえたが間に合わず、今もがもがともがいている。ふと振り向けば、皆口を押さえ震えて、笑いを堪えている。

「!!、其処におるのは誰だぁ?」
「……にゃーん」

サメラ殿!?動揺した声をヤンが挙げて、サメラ殿気を確かに!と願いなのかなになのか解らないがサメラの肩を掴み揺さぶる。

「猫か……こんな所に居るわけ無かろう!!」
「ノリ突っ込み激しくな。コイツ」

無関係を装いながら、だいたいの責任をセシルたちに投げつけ、武器を取り出す。照明の光を浴びた大きな刀は鈍い光を照り返している。

「ルビカンテはいまい!お前に俺達が倒せるかな?」
「キーッ!馬鹿にするではないわ!!四天王には加われねど、ゴルベーザ様のブレインと言われるこのルゲイエ!」
「お前事態を聞いた事がないが……」
「ムキーッ!このバブイルの塔はワシのメンツにかけて守るわ!」
「笑わせるな!」

竜騎士が鼻で笑ってサメラの横を駆けていった。飛び出さないのかと、セシルが不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。

「具合悪い?」
「魔法を使いすぎて疲れた。後方支援に回る。気にせず戦え。」

そう言って取り出したのは銀色の細長い筒。ミシディアの試練の山で見たものであった。ただ、この間見たよりも色が異なっている。銃を覗き、引き金を引く。

「纏え、神々の怒り。」

鉛玉は雷を帯びて真っ直ぐ飛び。人形の機械の中心を貫き黒煙をあげ動かなくなった。動かないそれに、追撃をかけて雷を帯びた銃弾を浴びせた。銃を片付けて、ボウガンを取り出す。刹那、ぐるりと世界が回った気がした。

「…っ。」

気持ち悪さが沸き立って、背中を緩い空気が流れたような感覚がサメラを襲う。震え上がるのも押さえて、下唇を噛んで何事も無かったかのように取り繕い武器を握りしめる。

「このバブイルの塔は大地を貫き地上と地底を結んでおる…クリスタルはすでにルビカンテが地上へ移した!ドワーフはわしの作った、巨大砲で全滅じゃ…」

高笑いをしながら、ルゲイエは爆発して、肉片を飛ばした。悪寒も気持ち悪さも、ゆっくり引いていくのを感じてサメラが立ち上がる。血の臭いにつられた何かが近くで鳴いた。

「ドワーフさん達がやられちゃう!」
「巨大砲とやらを」
「破壊せんと!」
「仕方ない、ここ辺りの魔物は引き受ける。」

後から追いかける。先に行け。キチンと行くから。そう、付け足せば。隣で不安な顔をして言い澱むリディアの頭を撫でて、先に行くように促した。泣きそうなリディア達の背を見送る。ドアが完全に閉まったのを見て、サメラはボウガンを握りしめた。ぼう。とする意識の中で集まりつつある気配にニヤリと笑う。

「来るなら来い。」

相手はしてやる。小さく呟いて、再び、息を吐いて、どこかから現れる魔物にサメラは牙を向けた。


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