ルドルフ | ナノ



そこは小さな部屋であった。空気も澄んでいて魔物の気配もなくサメラは安心し鞄を下し荷を広げる。傷の治療は魔法で出来るが。呪いや毒の治療はやはり薬の方がよくきくし、直りも早い。そして、魔法の力を節約できるのが大きなメリットでもある。

「みんな無事かい?」

そんな掛け声にサメラは目線を下げて犠牲にした腕を隠した。少し前にあったやり取りに辟易した記憶も浅い。インナーの黒も相まって解られないと算段し、何事もないかのように取り繕い血をアンダーに吸わせる。
微かに血の匂いがしたがすぐに収まるだろう。と算段立てて顔をあげるとセシルがサメラを見ていた。一瞬、ギクッとしたが、表情は読まれなかったらしく、投げかけるように声をかけられた。

「サメラは怪我ない?」
「ない。」

それになにも聞こえなくなった。なんて言う言葉も言わずに飲み込んだ。いうとまた回りが騒がしくなるだろう。そっけなく返して、荷物の中から小さな時計を取り出す。ちらりと見て時刻が夕暮れと知る。幸いここに結界があり魔物もやってこないと判断してサメラは荷物を漁る。しゃがみこむと目の前が一瞬だけ暗くなって、一人耐えた。数秒の空気に、小さく息を吐き出して、何事も無かったかのように振る舞った。きっと慣れない魔法を休む間もなく使ったからだろう。たしか、魔法を過信しては行けないと、キャラバンの目の見えないばあ様はそう言っていた。
「時間も時間だ。野営はここでしよう」と言ってサメラはコテージを広げる支度に取りかかろうとするとリディアが手伝うと手をあげ手、作業を始める。黙々と作業するサメラに、笑いかけるリディアが話を始める。
「ね。ここにくるまでどんな旅をしていたの?」と、リディアが無邪気に笑った。そんな言葉にサメラの動きが一瞬止まった。幼い頃と何ら変わらない笑みを浮かべた彼女はサメラの異変に気付かず、手を動かしながら、口も動かしている。

「色々あったし、小さな仲間も居たよ」

昔のリディアと一緒ぐらいじゃないかな。と助け舟をセシルがだす。リディアはわぁ!と声を上げたので、サメラは小さく息を吐き出して、作業に戻る。手が止まっていたので、とりあえず、早くしろ。と意味をこめて、リディアの頭を小突いて急かす、脳裏に浮かぶ子どもたちは、遠くで笑っている。サメラは、出来上がったコテージを前にしてぼんやりと自分たちが入ってきた入り口を見つめて、居なくなった仲間を思いを馳せる。あの小さな双子たちは今日もバロンで。きっと、ここにいたら、戦力となってくれたのだろうに。

「双子の魔導師かー。セシルとサメラみたいに似てるんだろうね。」
「僕たちそんなににてる?」
「さぁな。」

肩をくすめて、適当に返事をして、浮我関せず。の態度をとりつつ、ふと脳裏に母の姿かんだ。沢山なにか言っていたがあまり記憶にない。
こうして考えると魔法が使えるようになったのは、試練の山に登った後からだと記憶している。確かあの時母は、家の床を掘れと言った気がする。それだけしか覚えてない。もし地上に出れるならそのタイミングで懐かしいあの家にいってみよう。もしかするとパロムたちの魔法の解き方がわかるかもしれないと、頭の隅でずっと考えていた。
幼い笑顔を救えるのならば、動かなければならない。と、固く決意しなおした。
きっとあの家に大事なことがあると信じるしかないのであった。


×