天高く聳え立つ塔を見上げる。長い橋を越えればバブイルの塔だ。 たまに、誰かがゴルベーザの呼ぶ声をサメラは聞きとっていた。どこかで聞いたことのある声色を思い出せずに、首を傾げた。 「サメラ、どうかした?」 「空耳だ」 ローザに問われてもサメラは首を振り、何もないとただ告げる。でも、といいたげにしているのを、何かあったら頼む。と言い捨ててサメラはふっと息を吐いた。 「行くぞ」 前の魔物はすべて凪払ってやる。 片手には大きな爪を付けて、空いた手にボーガンをサメラは駆け出した。 機械の目に矢を飛ばし、獣の鼻柱を叩く。怯んだのを放置して、次の魔物に向かう。 「エアロガ!」 風の玉がセシル達を包む。魔物たちが飛びかかってくるのを風がすべてを切り刻む。 「風のトンネルみたいだな。」 「魔法はすぐに消える!次のフロアに行げ。余計な戦いはするな!」 サメラの声を聞いて、カインの意識がふと遠くなった。誰かが呼んでる気がして、水の中で浮いているような感覚が襲う。 「カイン!」 呼ばれて、意識が体の中に入った。魔物の牙が眼前に迫って、あぁだめだ。とぼんやり察した。ゆっくりと白牙が柔らかな肌を貫くのだろうと、考える間に視界が銀に染まる。魔物とカインの間になにかが入ったのはカインに理解は出来た。 「死にたいのか!」 その声を聞いてカインは、その銀が一番知り合えていない銀だと知った。ボーガンを持った腕を犠牲にし、その命を救った。自由になった犠牲のない腕で、魔物の腹を殴りつけ、両手の自由と推進力を得て、体ごとカインに向き合う形になる。すぐにむっとした表現を作り、目の前で死ぬな胸糞わりぃ。と吐き捨ててカインは腹に衝撃を受けて壁に叩きつけた。 「早くフロアを上がれ。殿を行く。」 「サメラ、」 「戦争だ。早く行け」 目で前の魔物を制して、鋭いにらみを利かせて、互いの動きを読み合う。声だけをはって、そろそろと次のフロアに行くのを感じて、そろりそろりと後ろ向きで歩いて、シュンと軽い音をして扉が閉まる。タイミングよく目の前で扉が閉まった。 魔物が入ってこないのを確認して、サメラはふっと息をついた。 前 戻 次 ×
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