ぼくと復活祭イースターナイト 1
僕の城。録音室で譜読みをしていると、ノックが一つ聞こえた。あくびをこぼしながら譜読みをしていると、調整役が顔を出す。手には裁縫の本をもってきている様子ですけど、ぼくに問い合わせるのはお門違いでしょう。少なくともぼくが作るものは血まみれで、人形遣いからすると魔術契約機とか錬成術でもするのかとののしられるぐらい赤に染まるのですから。
「晦先輩?いらっしゃいますか?」
「ぼくの城ですから、ぼくしかいませんよ。調整役。お茶でも入れましょうか?」
「あぁ、大丈夫です。」
やんわり遠慮されたので、椅子に座るように促すと彼女はすっとぼくの前に腰を掛けて一枚のチラシを差し出してきました。読んでほしいということなのでしょう。そう判断して、受け取り目を通すと校外でのイベント予告チラシであった。
「演者を求めてる感じですか?…それは……。」
「演奏をされると聞いていたので、晦先輩むきの仕事だと思うのですが」
「そうでしょうね。でも…」
あのライブのようになるのは怖い。口に出すのも怖くて、だんまりを決め込む。もうあんなトラブルは勘弁してほしい。日程を見る限り、そこまではないので音響系に何かをできる権限もないので、気乗りもしない。電気を使う楽器を使う気もないので、絞られるのは弦楽器か管楽器ぐらいだろう。どうしましょうか。人形遣いに話も通してないですから、そのあたりも打ち合わせしないといけないですし。そもそもまぁ、学院外の仕事ですから、あぁいうトラブルもないでしょう。
「わかりました。一度ユニットに持ち帰りますから。まぁぼくの調子次第ですけど。」
「本当ですか!」
嬉しい、という感情がこちらにも伝わってくる。それがなんだか、むかしのなずなと被ったような気がして、ぼくは何も言えない。見送ったのもぼくで、なにもしなかったのはぼくの罪だ。また近いうちに返事をする。とだけ返して、ぼくは調整役が部屋から出るのを見送った。手元のチラシを見ながら、ぼくは脳内であのライブを思い浮かべる。
ぼくたちだけの世界の無音。放送業界やエンタメ業界での考えられないほどの事故ともいえるあの短い時間は脳裏にしっかりと刻まれている。
あれを防ぐには、もしも起きたらどうするか。脳内でいろいろと考えながら考えてても仕方ないので、ぼくも移動しましょうかね。人形遣いと話をしなければ。そう判断して、ぼくは部室へと歩き出した。
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