光輝★騎士たちのスターライトフェスティバル 





見事に体調を壊した。咳も酷いですしえぐられる様に喉も痛い。新たな声変わりだとも捉えかねないほどのガラガラの声でぼくには、今歌えと言われても無理だろう。今年の【スタフェス】は人形遣いとみかに任せましょう。なんて思っていましたが、人形遣いも風邪をひかれたとの連絡を受ける。ドリフェス自体参加は二人以上だったと記憶している。人形遣いが出てこない今、みかは一人だ。このままでは『Valkyrie』存続の危機でもある。
なのでぼくは、吐きそうになりながらも這う様にしてなんとか学院にたどり着いた。校舎前で、体力の限界を感じて座り込み胸を焼くような気持ち悪さと戦っていると視界に靴が見えた。

「晦?」

声をかけられたのに気がついて、ゆっくり顔を上げると背負われた人形遣いと『Knights』の三年生がそこで立ってました。

「あんた、こんなところで意識飛ばすとか、『Valkyrie』の三年生はこうもグラウンドで遭難するわけぇ?」

面目ない。芯も張りもないスカスカなぼくの声を聞いた彼らは、驚いて目を見開いた。瀬名くんは呆れ、月永くんは霊感が!と人形遣いを放り投げかねない様子でいた。
大丈夫なので人形遣いを引き受けると声を上げたのですが、瀬名くんは「あんたも病人だから」とぼくの腕を掴み立たせ肩に手を回し、歩き出した。
衣装着替えにいくよ、と言われたので、手芸部部室に衣装があると伝えれば、彼らはわかったと答えて進路をとった。
ちょっといつもと違う歩きのリズムに吐き気を覚えますけれど、これも耐えなければみかのもとに行くことも不可能でしょう。気丈なふりをして家を出てきたのはいいですけど、保つことなんてできはしない。

「っていうか、今あんた体温何度あるの?」
「そこまで寒さを感じないので氷のように冷たいんじゃないんですかね?」
「尋常じゃないほど熱いんだけど?」
「そうですか、ある程度感覚が今馬鹿になってるんですね。」

行き絶え絶えに言うんじゃない。薬は飲んだのかと聞かれましたが、小鳥のことだから食事もとってないのだろう。と言われたので、肯定したらあんたねぇ!と瀬名くんが呆れてました。どうしての思考もうまくまとまらないので、何も言う余力はなく、ぐったりとぼくは意識を持つことだけに努めました。

手芸部部室に放り込まれて、薬もらってくるから。いったん寝ておきなよ。なんて言われるけれども、衣装に着替えて音源の手はずもある。音楽のことについては、ぼくの領域なので、ここだけは譲れない。寝かされたばかりだけれども、起き上がる。けれど、頭がふらついて近くの机にぶつかりながらも立ち上がる。

「おいー!寝てろよ!熱だろ?」
「…でも、ぼくが動かないと音が。出来上がりません。」

この声ですし、楽器の選択肢にはなる。咳の都合で、弦楽器で、なにだろう。今、近くにある楽器すら思い浮かばなくて、思考を巡らせるけれども、思うことが廻らない。と息のような声で吐き出せど、「もう全然なにいってるかわかんないって!」なんて月永くんと思えるオレンジが揺れる。
聴覚だけは音を何となくとらえる。

「小鳥、今回君は」
「控えませんよ。あなたもそうでしょうよ。」

音は体に染みついてるのですから、大丈夫ですよ。あなたは『五奇人』の一人、『Valkyrie』の帝王、ぼくは『一隠』。ソロユニットで地位を確立した『Layla』の晦 央ですよ?見くびらないでください。もうろうとした意識で吐き出すと、瀬名くんが帰ってきた。

「寝とけっていったでしょう?」
「音はぼくの世界ですから、そこは誰であろうと、関与させません」
「わかったから、一回薬のみな。」

水と薬を受け取る。胃にぐっと詰め込んで息を吐く。ふらふら立ち上がり、衣装に着替えます。と声を放って僕のいつも置かれている衣装置き場に歩く。いろいろと机の角にぶつけたりをしましたが、瀬名くんに支えられてぼくは着替えの置いているところにたどりつき衣装に着替える。
その間に電話が鳴ったようで、瀬名くんが離れた。その隙に、ゆらゆらした意識で衣装に袖を通しながらも頭は揺れるし、視界はしっかりしないのでちゃんと着れているかも怪しいですが、この際どうでもいいです。楽器を回収して、舞台袖に上がる直前で衣装さえ確認できれば問題はない。でしょう。まとまらない、支離滅裂な思考で、時折聴覚がなずな。という単語が拾えて、ふっと意識が浮かぶ。

「なずな…?」
「小鳥、急ぐぞ。」
「仁兎が来ているようだ。」
「…はい?…」

意図がつかめない。薬は多少効果があるのか、さきほどよりかは息がしやすい気がする。思考のちゃんとまとまらないぼくの手を引いて人形遣いが歩き出した。

「人形遣い。楽器を取りにいかなければ。」
「先ほど月永が持ってくると言っていた。大丈夫だ。小鳥は、意識を飛ばさないことだけに集中するといい。」
「あなたも、まだまともに動ける状態ではないでしょうに。」
「僕は薬も食事も済ませている。」

強がり。そう吐き出せば、ぼくを掴む力が増した気がしていますが、あまり痛覚もよくはわかってないので気持ちの問題なのかもしれない。瀬名くんと人形遣いにひかれながら、ぼくらは講堂脇まで移動し、楽器を持ってきた月永くんと合流し、楽器を受け取って舞台袖に上がる。

「シュウ、ハンパ!間に合ったみたいだけど〜どうする、今からでも舞台に立つか?」

ぼくをハンパと呼ぶ月永くんにと息のような声でぼくは出るという。人形遣いが、だいたいぼくの代わりに主張してるので、尻馬に乗っかる。もうすぐ舞台だからか、意識はそれなりにしっかりしてきだした気がする。
音に乗って聞こえる声に、覚えがあってそれでか。と先ほどの難解な言葉が腑に落ちたと同時に世界がきれいに見えた。

「行こう、小鳥。」
「まいりましょう。人形遣い。それから、月永くんも瀬名くんもありがとう。これはまた別の期に。」

頭を軽く下げて舞台に繰り出す。後ろから数拍遅れて足音が聞こえだした。ぼくは楽器を構えて二人のもとへと寄った。なずなが大丈夫かというのでうなずくだけをする。声はこの状態で聞き取りは難しいでしょうし。最低限のものだけを聞くために口を開いた。

「みか、どの音源をつかいましたか?」
「央兄ィ、その声…あぁ、えっと…最近よく使ってるやつやよ。」
「そうですか。だいじょうぶですよ。」

もうすぐで人形遣いが来ますから。音の厚みについてはあっちに任せましょう。ぼくは、二人から離れて楽器を構える。歌う音に合わせて重ねていると、人形遣いの足音が混ざり、感覚が昔に戻ったようだった。まるで夢を見ているような気がして、今熱が出ているから見せている夢ではないのかとも考えてしまう。

「小鳥、きみも歌おう。僕の『Valkyrie』この斎宮宗の最高の傑作たち。僕の愛したすべて。」

いや、ぼくは歌えるような声をしてないです。人形遣い。息交じりの声で言えば、そうだった。と思い出したように言って、まぁその分楽器で歌います。といえば、君の歌は楽器だったな。問題ないな。と再確認するように、満足して人形遣いはぼくから離れた。
三人で歌い踊る姿に、ぼくの奏でる音が乗る。弦楽器ならばいつも歌っていたのですけど、この懐かしい感覚に身を任せながら、ぼくは楽器をつま弾いた。
光を浴びる三人の姿は、一年前のようで、今が夢ではないのかと思ってしまったのです。



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