コーラス☆始まりのオペレッタ 1
…兄弟水入らずで聖地に行くぞ。とさくまさ…零に言われて、ちょっと困惑する。ぼくみたいなのが言っていいんですかね。年で二回も。行く必要あります?っていうよりも、ぼくの中に根付いてる朔間コンプレックスみたいなのをこじらせてるので、ぼくが付いていく必要があるのかと思うのだけれど、弟がそういうので、ぼくはついてきたのですが。…ねぇ、似せる必要があります?。っていうか、ヘアバンドかえしてください。といった国内でのやり取りを無理にして、国外にトランシルバニアに行って、帰りにフィレンツェに行こうと零がいうのでそういう予定になってしまった。川べりで太陽を浴びていると、久しぶりに日光浴を堪能する。あたってたらぽかぽかするので眠たくなってきますね。
「…西洋にはもっと乾いた風が吹いておるものと思ったが、さすがは水辺じゃのう。どこか空気が潤んでおる。それが肌に染みこみ若返る心地じゃわい。」
「さくまさ…零。大丈夫なんですか?無理はしないでくださいよ。ここでぶっ倒れて回収するのもぼくですし、そういう連絡を羽風くんに入れるのも気が苦しいので。」
「おいコラ。」
隣の零が、盛大に背中を蹴られて転ぶ。起き上って、蹴り上げた主を眉尻下げて怒っている。…怒ってるんですかね。朔間兄弟…ってぼくもはいってるんでしたっけ、零と凛月…は本当に仲がいいですよね。
「我輩は、おぬしをそんな乱暴者に育てた覚えはないぞい!?なあ兄上。」
「あんたに育てられた覚えはないって、散々繰り返したやり取りをあんたが卒業した後にしかも、海外でやることになるとは思わなかったんだけど。あんたと兄上。ここで何してるの?本当に意味が解らないんだけど…兄上まで一緒になって…。基本的に国内で活動してるんでしょ?」
朔間さんを兄者と呼んでるからか、ぼくを兄上と呼ぶのが暗黙の了解みたいになりましたけれど…どこかむずかゆくて、身動ぎする。そして最後にウジ虫。と言われてるのだから…この兄弟大丈夫なんですかね。ぼくが心配なんですけど。
「兄上、我輩の扱いがランクダウンしておる……!」
「ぼくに言われましても……ねぇ……」
「在学中に、兄上のことでゆっくり絆を紡ぎ直して仲良くなれたと思ったのに、我輩はこんなに凛月のことをあいしておるのに〜!」
ぼくに泣きつかれても困るんですよ。朔間さん。そう呟いたら、凛月さんは呆れてた。…いや、呆れるのはぼくですよ。そういうのはいいから。ってぼくが言いたいんですけど。
「べつに、俺も怒ってないし、あんたが生きようが死のうがどうでもいいし、べつにあんたの言動のすべてが理解不能でウザくてキモいだけだし。あんたがマジで何でここにいるのか、むしろ何で生きてるのかわからなくて苛々するだけ。」
「けっこう行きますよね。凛月さん…。」
「また、兄上。俺のことさんづけで呼んでー。」
「……はいそうでした。り……りつ。」
呼び慣れなくて、どこか違和感で、まだ慣れてないがゆえに、多少の照れが発生してしまう。舞台慣れはしてるのに、こうして呼ぶのにはいまだ慣れない。かわいいねぇ。と弟がいじめてくる…。ぼくどうしたらいいんです?晦にでも戻ればいいんですか?色々とこの兄弟をどうするか悩んでいると、凛月さんは未だに零をいじめようとする。
「串刺しにされておる!我輩の心、今全方向から滅多刺し!兄上〜!」
「凛月さん、さくまさ…零で遊ぶのもほどほどにしてくださいね。」
「我輩であそ…遊ばれてたのか!?」
「…さぁ…?」
そうしてると朔間さんも喜ぶんだから仕方ないですよね。ぼくは呆れるしかない。今なら人目もそこまでないからとぼくからも凛月さんからも甘やかせてくれと抱きついてくるので、ぼくは甘んじて頭をなでたりして甘やかすから、凛月さんが目くじらを立ててる。…今までの分を考えればそうなんですけどね。兄ってしんどいんですよね。見てる方でしたけど。ぼくは。その分、ちゃんと甘やかせておこうとは思っているんです。
「ほぉれ、恥ずかしがらずに!幼いころのように、たっぷり我輩に甘えてもいいんじゃぞ!」
ぼくから離れて、凛月さんのほうに嬉しそうにとびつくのは全然いいんですけど、まぁ周りを見てくださいよねぇ。呆れながら通行人に目を向けると。ぼくの視線と見知らぬ誰かの目が重なった。ぼくたちを見て、ひそひそと話している。どこか悪意のある視線のように感じて、朔間さんにも凛月さんにもここを離れようと促そうとかとも思うのですが、まぁ朔間さんが幸せそうに喜んでいるので、何も言えない。
「兄上、普通に俺らは戴冠式を終えて、せっかくだからって数日ほど滞在を延長して市内観光をしてるんだけどねぇ。」
「では、瀬名くんも朱桜くんも近くにいるわけですね。仲のいいことで。」
「名目は卒業旅行でもあるし。」
「それは楽し気じゃのう、我輩たち『UNDEAD』も卒業旅行などをすれあば良かったわい」
「羽風くんは参加しなさそうですよね。」
男なんてげろげろ〜。とかいう姿がすぐに思い浮かんだので、ぼくはくすくす笑う。『Valkyrie』も。なんて思いますけれども、まぁ彼らは基本出不精ですからねぇ。美術館と蚊でもいいんでしょうけれど、ぼくはそっちに興味がそこまでないですし。そういうのは……みか次第ですかねえ。あれはみかにとても甘いですから。二人の会話を聞きながら、ぼくはぼんやりと『Valkyrie』について思考する。ふと視線を動かすと、ちょっと人が増えてきているような気がしますね。
「あらまあ」
周りを見回せば、いかにも業界。とでもいうような風体の人が増えている。…ちらりと弟たちを見るが、たぶん恐らく。朔間さんを主に立っているのでしょう。国外で活動していた実績もありますからねぇ。逃がさなければいけないでしょうね。…まぁ今までもこういうことは慣れているので、黒子は得意なんですよね。今までの経歴からですけど。…言ってるとちょっと悲しいですが。
「わわっ?」
「あら〜メディアの人ですね。朔間さんも凛月さんもぼくの後ろに隠れなさいな。」
「いや、凛月は後ろに隠れるとよいえ。」
「ぼくは親戚と言えばいいですしね。まだ書類上はそうですから。」
「兄上。」
じろりと見られたので、ぼくはさっさと凛月さんを逃がす体裁を整える。本当にこういうところ双子なんですねえ。思考のシンクロって今まであったのかもしれないですけど、まぁこうして一致するのって初めてかもしれないですね。
「正直なところ見当もつかんが、まぁ見たところ相手は文明人じゃ。ならば話せばわかるわい。」
「替え玉も昔しましたし、こういうごまかしはずっとやってたので、大丈夫ですよ。」
「『もしも〜し!皆さん、私たちに何かご用でしょうか?』」
後の凛月さんが慇懃無礼なお手本英会話。というけれども、それもぼくがある程度基礎を教えたからなんですよね。…ごめんなさいね。慇懃で。英語と簡単な仏語、伊語、中語はそんなふうにぼくが習得しちゃいましたから…。すいませんね。
「『宜しければ事務所を通していただけませんでしょうか?それ以外については、お答えいたしかねます。』」
ニッコリ笑って、ぼくが対処を行う中、拾えた単語は兄弟や親族というものだ。それを朔間さんもわかってか、凛月さんを逃がす様に促している。のでぼくが矢面に立ちながら、メディアにマイクを突き付けられても、拒絶をひたすら主張する。…女装癖って言ったメディアは例のビル関連で、なんとか抗議してもらいますからね。覚えていてくださいね。事情があってこれなんですからねっ!。
「『こちらは俺の兄です。同じ顔して同じ血を分けた兄です。メディア嫌いを患っているのでこういう姿をしてます』」
こら、なにでっちあげてるんですか。それは人形遣いの話ですよ。あれはPCを斧で叩き割るぐらいのアナクロ人間なんですから。無言のアイコンタクトで、あとで全部文句は受けると愛しの弟くんはいってくれますからね。凛月さんを逃すためでもあるので、ぼくは仕方なしにこうして甘んじる訳ですけれども。
「大失態じゃのう、兄上。仕事のついでに久方ぶりに凛月の顔を見ようなどと色気をだしたのが間違いじゃったわい。我輩の考えが甘かったわい。」
「そうでしょうねぇ。まぁ、貴方の望みなので全力でそれを叶えますけれど。」
そのために無謀なスケジュールを組んでしまってるのは、仕方ないので諦めてください。朔間さん。寝不足も多少入ってるでしょうけれど、ぼくだって眠たいんですよ。カフェインどれだけ持って来てると思ってるんですか。ぼくが持ってきた分ほぼほぼ使いきってるんですよね。だから帰りの飛行機はひたすら寝ますよ。
「夢ノ咲学院では最年長ぶって偉そうにしておったが、社会に出れば、まだまだ我も経験不測の若者……ということじゃの。などと呑気に反省しておる場合でもないわい、あとできちんと説明するからのう、今は早くお逃げ、かわいい凛月や。ここはお兄ちゃんたちに任せるがよい。あと、先に謝っておこうかのう。次にいつまたこうしてお主と顔を合わせられるか解らぬし。すまんのう弟よ。たぶんめちゃくちゃ難儀な事態になるぞい。」
「零がそういうならば、そうなんでしょうけど、安心してください。どちらの願いも叶えますよ。だからまた逢いましょうね。凛月さん。いいえ、凛月。」
…ぼくも含まれててちょっとうれしいのは黙っておきましょうかね。弟たちにかっこいいお兄ちゃんで居たいですからね。
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