発見!スチームパンクミュージアム 1 





録音ブースへの移動中に、三毛縞くんとみかがそこにいた。ぼくと目線があったせいか、三毛縞くんは嬉しそうに手を振っているし、すこし困惑しているみかは、涙目にも見えた。

「央兄ィ、ちょっと助けて〜」
「なんでしょう?三毛縞くん、うちのみかを泣かさないでくださいよ?」

じとりと三毛縞くんを見れば失敬とからから笑っている。時まれに隣クラスから聞こえてくる笑い声と同じだな。と思いつつ、みかが泣きべそかきかけている理由を問いかけてみた。どうやらうちに似合いそうなテーマのライブをやるとかやらないとか。人形遣いが首を縦にふるかどうかとみかは悩んでいるらしい。…まったく、君たち師弟は本当に良く似ていますよね。…僕たち兄弟のように。すれちがってばかりで。仕方ありませんね。いいですけど。

「解りました。人形遣いの様子を見てきますから、良さそうなら連絡を入れます。ですからその間に人を集めてきてくださいな。きっとぼくが言っても首を縦には振ってくれないでしょうが、みかなら大丈夫ですよ。」
「でも、央兄ィ。」
「大丈夫ですよ。ほら、すぐに動きなさい。時間は有限で、あれは気が変わりやすいんですから。」

そっと背中を押してやると、自信をつけたのかみかはわかったと返事をしてくれる。それを聞いてぼくは言ったことを実行する。手芸部の寝床に入った振りして人形遣いを観察。調子がよさそうならみかに連絡。そういう手筈で話を進めて、ぼくたちは別れた。録音ブースに行くと人形遣いに話したのをどうやって修正するか頭をひねりながら手芸部に入ると、いつもの場所に人形遣いが座っていた。

「どうしたのかね?」
「録音する気力がなくなったので眠りに来ました。」
「好きにしたまえ。ここは君の部室でもあるのだからね。」
「まぁ人数稼ぎの為ですがね。」

窓辺の日当たりのいい場所に陣取って、人形遣いを見やる。荒れている様子も見当たらないのでぼくは、ポケットから携帯を取り出して、みかにワンコール切を二回。これはぼくがいつも使う連絡のYESの証拠。しばらくするとみかも三毛縞くんも来るのではないかと思いながら、太陽を睨む。そろそろサプリメントを飲まないといけないなぁ。けれど、飲むたびに具合を悪くするのだから嫌になる。自分の掌を重ねて枕にしてちらりと人形遣いを見てから、暖かな日光を浴びてうつらうつらしていると賑やかな声に気が付いた。

「み、み、三毛縞……!?貴様っ、あぁ貴様が何でここに!」
「…うるさいですよ。人形遣い。」
「小鳥、それについて話は後だ!君のような野蛮人に僕の領域を荒らされたくはないっ!さっさと出て行きたまえ!」
「客人でしょうに?何をおっしゃってるんですか。」

言う前に三毛縞くんを追い出しているので煩い。寝床から出ると、夏目くんのところのおちびさんと三毛縞くん。調整役。一年の子。それからみかと人形遣いとどこをつついても騒がしそうな面々がそこにいた。夏目くんのところとやるのだろうか?とぼくは首を傾げつつ、とりあえず人形遣いが煩いので諦めて招き入れ三毛縞くんもお坐りなさい。と着席を促す。人形遣いはぼくの行動を見て驚いている。

「立っている方が暴れやすいんですから、座って声のボリュームさえ落として貰えばいいじゃないですか。」
「そうだそうだ、大人しくはするさ!宗さん、央さん。」
「ええい、扉を叩くな!貴様は無駄に腕力があるし乱暴にして扉が壊れたらどうする!?」
「壊したくないから招き入れるんですよ。あきらめなさい、人形遣い。」
「俺は宗さんが入れてくれるまで扉を叩き続けるぞお。壊れるのが先か騒ぎを聞きつけてくるのが先か、どっちに転んでも宗さんとしては歓迎できない事態のはずだし、素直に俺を入れるしかないと思うけどなあ?」
「生徒会の人間を入れるよりもいいでしょうに。」

諦めなさい。と突き付けてやると、頭を抱えてから忌々しいと吐き捨てながらとんでもなく嫌そうな表情で人形遣いは扉を開けた。

「かかか影片!君が連れてきたのだからあれの対応は任せるよ!」
「まぁ大丈夫ですよ。ぼくもついてますから。」
「え?お師さん?」

人形遣いはぼくたちのよこを通り過ぎて黙々とお茶の準備をし始める。それを目で追いかけてから、ぼくたちも席に座りましょうかと促す。夏目くんのところの子も、人形遣いと一緒にお茶の支度をするというのだがお客さんですから、と促してみたが、みかがクロワッサンの温め直しをお願いしていた。

「俺は嬉しいけど、いいのかあ?歓迎されてないみたいだし、勝手に出したら怒られるんじゃないのかなあ?」
「構いませんよ、ぼくのぶんのクロワッサンですけど、そこまで食欲がないので。代わりに食べてくださいな。」
「えー央兄ィ、食べへんの?ただでさえ食が細いんやから食べな。」
「クロワッサンは六つしか置いてませんし…人形遣い、みか、三毛縞くん、夏目くんの子。一年の子。調整役で六つになっちゃいますから。」
「じゃあ俺とはんぶんこしよ!」
「そうですね。じゃあ一緒に食べましょうか。」

そうこう会話をしながらお茶菓子もとい、クロワッサンを準備していると人形遣いもお茶の準備が終わったようだ。最近のあたりである上等の茶葉を出して五人分を準備しているので、まぁ三毛縞くんもお客として扱っているようだ。

「さっさと要件を済ませて出て行ってもらいたい魂胆ですか。」
「当たり前だろうに。必要以上に大きな声を出さず、簡潔に言いたまえ。小鳥、これを運んでくれたまえ」
「はいはい。」

温めたばかりのミルクピッチャーになみなみのフレッシュを入れて、部屋の中央に置いて人数分のカップを並べる。今回のメインの話は人形遣いに向けてなので、ぼくは手を動かしながら他のメンバーの着席を促して、温め終わるであろうクロワッサンを皿に取り分けて配っていくと三毛縞くんとみかが事のあらましを話し出した。配り終えたぼくも所定の位置につくと、みかの残り半分が渡された。

「なるほど、経緯は理会したよ。博物館というのはここから数駅先にあるあそこのことかね?」
「知ってるのかあ?それなら話が速い!どうだろう?『Vailkyrie』が引き受けてくれないかなあ?」
「存外まともな用件だったし、『Valkyrie』のイメージに合うと言ってもらえるのはありがたい話ではあるけどね。」

断る。ほかを当たりたまえ。そうきっぱり言い捨てて、ぼくとみかは顔を見合わせた。話の流れは承諾だと思っていたのですけれども、驚いて人形遣いを見ると呆れたようにしていますし、三毛縞くんは断られたというのにそれでも嬉しそうにしている。

「一刀両断!でも、ママは諦めませんよお!ほらほら、あんずさんがぜひやってもらいたいって言ってるぞお。それに宙さんもそのライブが観たいって言ってるぞお!」
「HoHo〜?宙、そんなこと言ってないな〜?」

首を傾げる夏目君の子。宙くんに三毛縞くんは指をつきつけて問いかける。『Vailkyrie』のライブを見たくないかあ?なんて聞けば、宙くんは観たいとすぐに返事をした。そのまま流れるように一年の子に話を投げる。ぼんやりとお茶に舌鼓を打っていたようで、驚いたように声を上げた。

「えぇっと、そうですね。俺も春川くんと同じです。『Vailkyrie』のライブが観たぁい……?」
「三毛縞くんに何かされたならぼくに言うといいですよ。楽曲の収録をぼったくるので。」
「あ、いえ。大丈夫です!」
「あんずさんまで一緒になってグッと拳を握ってるぞお!」

どうだあ宗さん。かわいい一年生からあんずさんからこんなにキラキラしたまなざしを向けられて、それでも否と言えるかなあ?三毛縞くんが満面の笑みで言うと、ぐっと人形遣いが表情を歪めた。まったく狡い人ですよねえ。とぼくがつぶやく。おそらく、そこまで計算をして彼らを連れてきたのだろう。全くもって狡い人だ。

「そういう思惑はあったから否定しないぞお、さあさあどうする?受けるか受けないか宗さんの答えをもう一度、聞かせてほしい」
「諦めましょう人形遣い。ぼくもみかも比較的乗り気ですよ。」
「あぁもう、手のひらの上で踊らされているようで、忌々しいねッ。」

人形遣いはみかをつつきみかから意思を伺う。企画書を読ませてもらって、考えることは一つ。ライブの人数が足りなさすぎるのだ。規模が大きいからこそ、三人で広げるにしても広すぎるのだ。

「ステージ上の見栄えを考えたら最低でも後二人ほしいね。」
「そうですねぇ。似合いそうな設定作れそうなところ。となると結構数は狭まりそうですねぇ。」
「あ、あのう!差し出がましいと思いますけど、言わせてください!」

おずおずと手を上げて一年生の子は言う。人数が足りないなら『2wink』との合同はどうかと。そう聞いて、この眼前の子が軽音部のこであるとぼくはいま思い出した。如何せん人を覚えるのが苦手というか、体調の万全に整えるのを最優先にしているので、人をおぼえるところにソースを裂いてはいれないのだ。煩わしい話は人形遣いが決めるのだから、ぼくは思考を放棄する。



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