ぼくとリアクト マジカルハロウィン 3 





部屋に入ればかなり怒られましたけれど、それでもまだましな怒りかたしてましたよ。まぁ、『五奇人』の末子がいたからでしょうかね?ある程度安定してましたね。一通り人形遣いと文字通り一言づつの確認を行い楽器を取りに行くついでに着替えろと言われたので、その言葉に従いました。配役も確認すると青葉くんが召喚士をやるそうなので、ぼくらは悪魔として……人形遣い?

「人形遣い、一言聞きたいのですけれど?」
「小鳥にはそれが似合うだろう?」
「君たちは比較的メジャーな悪魔になっているのに、ぼくだけなぜソロモンの56柱のグレモリーなんてなぜそんな難しいところを!!女の表記をしてるからだなんて安直なこと考えてたら血祭に上げますからね!人形遣い!」

グレモリーが嫌なら、アスモデウスぐらいしかないが?召喚で悪魔を呼ぶとするならば、本格的なところも取り入れないでどうする?いやいや、プルソンだとかウェパルだとか。そもそもソロモンにこだわる必要はありますか?。うちは金持ちではないぞ?誰のせいですか誰の。仕方ありませんね、ここで諍いを起こしても時間の無駄ですから着替えますが。毎年こういうのは勘弁してくださいよ人形遣い。
にぎやかに喧嘩をしていると青葉くんが落ち着いてください二人とも〜なんて伸びた声を出すので、僕らは二人そろって煩い青葉は黙れ!と声をそろえる事もあった。けれども、今から衣装変更も遅いし、今回は僕が折れることにしましょう。
部屋の隅に着替え用のスペースをあけていてくれたので、ぼくはそこに身を投じる。
セパレートの衣装。メインは黒のベルベット。金糸で縁取られているし、人形遣いの望むようなエキゾチックな曲線美がしっかりと作りこまれているうえに、白のレースが別でついている。記述は赤の髪なんですけど、ここまですると誰かわかりにくくなるからと、今回は地毛でいくらしい。紐やリボンの類もついてないので今回は結ぶな。という指示が読み取れる。骨盤で止まる様なハーレムパンツに、まぁ脱げ落ちなければ原点にはなりませんからね。うん。人形遣いの事ですから、落ちることもないのでしょう。
適度に着替えを済ませて外に出ると、人形遣いが装飾をつけるからとぼくを呼びました。

「今日の楽器はどうしましょうか?」
「今日は見た目もあるので、弦楽器でいこう。」
「ビオラぐらいの方がいいですか?そのまま音源の支度に取り掛かりますよ?」
「かまわない。」

頭のサイドにしっかりとした悪魔を連想させる角が装着される。最終の打ち合わせまでは自由時間だからと言われて、ぼくはカフェインを体に大量投与するために買い出しと、一般客に出会ったとき用に菓子をポケットにしこたま突っ込んで楽器を片手にぼくは部屋を出た。

「小鳥、どこにいくんだ?」
「平等にするためですよ。片方だけにやっているともう片方は拗ねちゃいますからね。どちらも淋しがり屋ですから。」
「家か。」
「ふふっ。」

人形遣いは何も言わなくなったので、ぼくはにっこり笑って弦楽器を片手に部屋を出ました。零も凛月も淋しがり屋なのは間違いないですからね。誰とは否沸く手も、人形遣いは家の事だと察知するのには解せませんけどね。そのまま時間になれば戻ってきますから。と言葉を残しぼくは部屋を改めて出ました。まっすぐカフェインが入ったものを買い込んで、ぼくは人気の少ない日光の当たらない場所に移動する。軽音部が所持している音楽室ともほど近い廊下ならば、音も入るだろうと判断する。一般客の通りの少ないところを選んでるんですから、聞いてくださいよ?もう一人の弟よ。
とりあえず一缶あけきってから、弓を持ってぼくは音を鳴らす。丁度良いゆびならしにもなるだろうし、実質ファンサービスをしない『Valkyrie』なので、これがぼくができる最大限の譲歩にも近いファンサービスだ。一般客の立ち入り禁止エリアに近い場所にもなっているので、かすかに聞こえる音がぼくでわかるというのならば、それはそれでいいのだろうし、ぼくの本来の目的は血肉を分けた兄弟への子守唄だ。
末弟におくったもののストリングアレンジ版を奏で始めるとこの跡のライブはどんな音になるのだろうかとわくわくしているぼくがいますし、きっとこの音が届いて安らかに寝てほしいと思っているのもぼくのエゴなんですがね。それでもいいと思っていますよ。ただ、どちらにも同じようにしておかないとどちらかが拗ねるのも嫌ですしね。ですから、こうしてぼくが演奏しに来てるのですよ。
練習がてらの淋しい曲でごめんなさいね、とか思って演奏をしていると小さなおばけが一人二人と集まってきました。おやおや、人気の少ないところでしたのに。と思っていると、音につられてか合計3人の小さなお化けが目を輝かせて目の前で座りだしてました。難しい曲ですけれど、大丈夫なのでしょうか?と思っていれば、一通り演奏し終えたタイミングで、あれをやって〜これを〜と最近のテレビ番組のテーマソングを!と言うので、ぼくはちょっと知らないと言えないので代わりに、眠るにはうるさくない曲として、キラキラ星のアレンジを奏でて小さなおばけたちと歌うことにしましょうかね。…にしても、どこの子でしょうか?かわいい歌声を響かせて、ぼくたちは童謡をそのまま奏でます。小さなおばけたちの歌声が楽しくなって、そのままいろいろな童謡を繰り出していると、賑やかな音が遠くからやってきました。

「なかば兄ィ!!」
「おや、にぎやかな音だと思いましたけれどみかと青葉くんと春川くん…それから団体ご一同様ですか?。」

百鬼夜行なんて言葉がぴったりの行列の先頭にみかと青葉くんと春川くん。親玉と子分のようで、妙に面白い。みかが振り回されてる様子を見ると、どうもみかの知り合いにも見える。ぼくの演奏を聴いていたおばけたちがみかを呼ぶのでお友達ですか?と聞けば、みかの故郷の知り合いだそうで、遠くから新幹線に乗ってやってきたそうだ。ぼくの一身上の都合で家族モノに弱いので聞いただけで涙腺が弱くなりそうだ。

「電話してたら、故郷の皆ごっつい心配してたで?」
「そんなにみかくんに会いたかったんですね。嬉しいことじゃないですか。応援してくれる人がいるってのは。」
「ん〜、おれ、なかば家出当然で飛び出してきたからなぁ。」
「それだけみかに会いたかったのでしょうね。いいじゃないですか、兄弟思いの子たちで。」

兄弟のいない僕からしたらいいものだと思いますよ。兄弟は。ぼくには持ってはないものですけれども、こうやってみるのは素敵なものですね。
ぼくの本当の兄弟とは、触れ合うことのできないですから、みかには大事にしてほしいですね。口には出せないのでぼくはそんな思いを胸に閉じる。ゆらりとハーレムパンツが揺れると、小さなみかの兄弟がおねえさん。とぼくを呼ぶ。おにいさんだよ。なんていうことはしない。同じ顔した弟がここの近くにいるのだから。子どもの方が鋭いことなんてたくさんあるだろう。子どもは言わないけれどもかなり大人だとも思うので、ぼくはそのままなあに?と腰を折って問いかける。白い布の向こうにキラキラ輝く瞳があって、どうしたの?と足せばもじもじしてからおねえさんのおうたすごいね!って笑ってくれる。きっとぼくは捨てられてなかったら、弟の、霊の凛月の笑顔が見れたのかもしれない。きっとキラキラ輝いて、ぼくがちゃんとしてれば朔間さんは…いや、霊は。一年前も消耗することはなかっただろうに。そんなことを考えたら涙が一つ零れ落ちた。

「なかば兄ィ!?」
「ごめんなさいね。ぼくは兄弟ものには弱いんですよ。」

お化粧もしてるのに嫌ですね。なんてこぼしながらそっと眦を拭う。小さな子どもたちはどうしたの?なんて言うようにぼくの瞳を見ている。ごめんね、ぼくがちゃんとうまれてこなかったから。なにの要素もなかったから。ぼくは誰も恨んではないけれど、それでもたらればがそこらじゅうに転がっているのだ。ぼくは小さなお化けに「みかは幸せ者ですね。」なんて言うと彼らはにっと笑って「せやろ〜」。伸びた声がする。

「みか、彼らに特等席を用意しましょう?」
「えぇ!?でも結構な人数がおるんよ?」
「ぼくを何だと思っているのですか。こういうときに日頃の恩をすべて返してもらうのですよ。」
「そうですよ、みかくんの大事なファンなんですから。ねえ晦くん」
「えぇ。みか。ぼくにまかせなさい。人数はここにいるだけで大丈夫ですか?」
「つむちゃん先輩もなかば兄ィも子供には甘いなぁ」

みんなライブを見終わったらちゃんと帰るんやで。おれ、故郷まで送ってくから。そんなことを言いながらみかはためたお金が。というから、きみの新幹線ぐらいいくらでも面倒みようではないですか。ねぇ、こんなに素敵な兄弟がたくさんいるのですから。ぼくが欲しかった形が目の前にあるんですから。

「ほら、みんな飴ちゃんあげるから笑って笑って!『みか兄ィ』となかば兄ィと一緒に、もっともっとハロウィンを満喫しような!」

な、なかば兄ィ。
満面の笑みでみかがいうんですから、しかたありませんね。とぼくは薄く笑うだけですよ。何時だって下の願いをかなえるのが上の役目なのですから。




[*前] | Back | [次#]




×