4e





まぁ、そんな千秋を投げて鉄虎と忍に機械の操作方法を教え込む、最後に俺がある程度仕上げるパターンをいくらか続けてたが、鉄虎に適正は無さそうなので、忍のソロに切り替えると落ち着いたのか慣れたのか、だんだんよくなってきた。最後に忍に問いかけると大丈夫そうなので、俺も見回り衣装に着替えに動く。ブルゾンとスカート。スニーカーにくるぶしソックス。ついでに帽子も被ったままにしている。更衣室にと大型トランシーバーがあったので遠慮なく拝借して、そのままぶらぶらと歩く。
髪の長さと、中性的な顔立ちしてるので、知り合いが横を通ってもそんなにばれてない。黒メッシュも表に見えてるからだろうね。目立たないなら、なんでもいいけど、生徒会にみつかったとかじゃないのでいいや。足下スースーしてなんか違和感ばりばり。一年前に履いてたりしてたけどさぁ。衣装指定はあんずいるならあんずに任せろての。とぐだぐだしてると、遠くから羽風が走って来た。

「羽風!」
「わ!かわいい子!今うちのユニット執事喫茶を……って、一之瀬っち?げろげろ〜。男に声かけちゃった。ま、ちょうどいいや、今さ。」

学院内に不良っぽい人がさ紛れ込んでるみたいなんだよね。執事喫茶にもやってきて、女の子達にもちょっかいかけて来たからやんわりご退場してもらったんだけどさ。同じようなトラブルが他の出し物でも相次いでるらしくて。
深海達にも会ったけど、トランシーバー持ってなかったから、あきらめてまた蓮巳を探しながら連絡とれるやつを探してたんだとさ。
そう、羽風からある程度事情を聞いてると、携帯が鳴った。どうも翠からぽいね助けて。今ここです。なんて添付と一言のメールを見て、トランシーバーをあとでいいからうちのキッチンカーに届けて。なんて羽風に言って、トランシーバーをぽいっと渡す。
俺は一気に駆け出した。羽風がなんか言ってるけど、うちの子のピンチだから勘弁してよ。人込み?全部上飛べばいいんだろ!だてにスタントマンしてねえっての。人込みを縫いながら、一気に駆け足。ぶつかりそうなら、その人の肩を借りて上に逃げる。パルクールみたいだな。なんて思いつつ集合場所間近になると鉄虎の声を聞いたが、そんな場合じゃないだろう。となりに青が見えたので、奏太もいるだろうし、放置。最後の角を曲がれば転校生を守るように立ってる翠が視界に入った。一人の男が翠の胸ぐらを掴むのを見て俺は吠える。「翠!」俺の一声に、視線が集まったのを感じて直ぐ様に、翠と不良の間に入り立つ。後ろから先輩。とか聞こえたが、無視無視。お兄さん今からこんななりだから、あれだけど。交渉すんの。
「なにうちのガキ共に手をだしてくれてんだ?」残念ながらそんなに太い声を使ってないので、声色は高い目。ぎろりと睨んでやるお、かわいい子じゃん。なんていいつつ俺の顎をつかむので、はい正当防衛成立〜。

「さわんじゃねえよ。ヤニ臭ェ。」

そんなこと言って、俺はその手を振り払う。思ったより強く振り払われたのがショックなのか、なろ!と言いながら俺を殴りにかかってくるが、遅い。うん、家でみてる方が何倍も早い。見映えも気にしながら俺は相手の腕をつかんで、神経が沢山通ってる場所を軽く叩く。痛いところには代わりないので、痛いと主張する一人目を転がして二人目に取りかかる。足払いをさっとかけてバランスを崩してそのまま背負い投げ。一人目にぶつけてやる。残り二人なんだが、一旦手を止めて、まだやる?いくらでもお相手するよ?と相手に人差し指を向けてくいくい曲げて挑発的に笑えば、残りの男達は真っ青な顔して帰ってた。

「一之瀬先輩。」
「あんずも、翠も怪我してない?」
「え、一之瀬くん!?」

あんずは俺だと気づいてなかったらしいが、とりあえずこの場を納めるために、一旦翠の背中をそっと押して耳打ち一つ。「ほら、翠。宣伝宣伝。」と言えば、なんとなく察したようだ。真っ赤な顔した翠が、『流星隊ヒーローショウ!』と言い出せば、追い付いてきた鉄虎や奏太も混ざって、なんとか宣伝でしたよー。の体をなす。まばらながらの拍手を貰って、一旦逃げるように俺は全員の背中を押して、はける。

「いやー鉄虎も奏太も追い付いてきて良かったよ。」
「なりはすごいですねー」
「そういう体にしてくれて助かったよ。翠。」
「お、俺ですか!?」
「な、いっちばん最初に助けてくれただろ?」

あんずにふれば、あんずは大きく首を振ってくれる。よくできましたなんて言うように俺はあんずの頭を撫でる。ほらほら、ヒーローショウの準備始めっぞ。あのバカ呼んで来なきゃぜーんぶ始まんないんだから、あんずを『Trickstar』に返してくるついでに報告と誰か千秋を呼んでこいと指示を出して、俺はヒーローショウの準備に取りかかるために、一旦このウイッグやらを着替えねばならない。さすがにこの格好でヒーローショウなんぞに出たら、今度こそ生徒会にしょっぴかれるだろう。メンバーと別れて、着替えに動こうかと移動しようとしたら、あんずに呼び止められた。なんだ?と聞くと、真っ赤な顔して、あの一緒に写真をとってください。なんて言われた。

「いや、いいけど。移動するからそんなに時間をとれないぞ。」
「ううん、あとでみんなに見せようと思って。」
「それはやめて。一緒に写真はいいけど。明星とかに言うとうるさそう。」

ほら、スマホ貸せ。とあんずのスマホのインカメラでツーショットを撮影する。真っ赤になったあんずと、ぱっちりお目々女装の俺。珍しいツーショットを一枚納める。

とりあえず着替て集合場所に到着すると、もうすでに始まってた。遠目に俺が見えたのか、千秋が大きく腕を振るので仕方ないか。道開けてくださーい。と声をかけて、ステージ中央まで道が開いたのを確認して、前回りから始まって宙がえりを決めて、口上を唱える。遅かったな、ホワイト。報告は受けてるぞ!笑いつつ俺の背中をバシバシ叩く。俺より翠を誉めとけ。と伝えて俺疲れたから後ろ目に要るぞ。必要なら呼べと後ろに下がる。一番後ろで大振りに繰り広げて忍や翠の様子を伺う。あんまり目立ちたくないというので、一列前にそっと出て、前と後ろのバランスを整える。まl、あよくよくバランサーはやってるので、もうほんと。考えなくてもある程度とれるの。楽。
聞きなれた音楽を耳に入れながら、合いの手を入れていく。たまにマイクを客席に向けて、叫んで〜!のアピールも忘れない。っていうか、うちのメンバーうっかり忘れてそうだしね。

「一之瀬先輩さっきはありがとうございました。俺」
「あんがと。翠。報告なかったらお前殴られてただろうし、」

よくできました、花丸つけてやる。偉い子だね、見直したよ。きちんと男の子できました!ま、今度から迷ったらもうちょっと早く連絡くれよ。寸劇おじゃんになったけどよ。いい経験になったんじゃね?翠の肩を叩いて、俺はマイクの入らないようにそっと耳打つ。
ここに見えるのはお前が救った世界だよ。一番よく見える世界で見ときなよ。先輩の背中を見てゆっくり勉強しなさいな。お前ら三人なら来年にはどんな場所だって飛んで行けるよ。
えっ。翠の声が聞こえたが、俺は気にせず今日の最後と言わんばかりのアクロバットを決め込む。

「レッド。俺も、混ぜろ!」
「あぁ、ホワイト!」

二人で肩をくんで、そのまま歌い上げる。拳を高々突き上げて、今日やって良かったな。と心の底から思う。引きこもってる間、毎朝俺の家の前を通る千秋が暗い顔してたけど、四月に入って少し明るくなって、それから三毛縞が俺を引っ張り出しに来てから千秋が笑うようになった。千秋がいて、奏太もいて、忍も翠も鉄虎もいて、俺がいる『流星隊』が、好きだな。とか思いながら、こどもたちの歓声を聞きながら、俺はニコニコ笑って千秋と後から加わった奏太に挟まれながらこどもたちと一緒に声高に歌うのである。

ちなみに完全に余談なのだが、あんずとツーショットの写真と不良を伸ばした動画のせいで謎の美少女あらわる。とか学園掲示板に流れたのだが、放送委員会に頼み込んで俺の情報を制限することにしばらく奔走させられるのであった。ちゃんちゃん。
ってか、試験だってってんだろ!



[*前] | Back | [次#]




×