奔走、就中の暁闇ライブ。-09

レオとセナと俺の三人で今度のライブ用に特訓を行う。一日を終えたら二人はかえってったけれど、部屋はライブまで貸し切ってるらしいので俺はここで寝泊まりをする。淋しいだろうから俺も泊まるー!とかレオも言い出したけれど、文哉に必要なのは休みもだから!って引きずられていった。なにかあるとこまるからって、お金を置いて…ユニット費のつけにしていいからな!っていうけっれど、俺に必要なのは休みっていうけれど、荷物もないし、携帯もないのでやるといえば歌とダンスの練習ぐらいだろうか。散々今日やったので、ほんとやることはない。レオの五線譜とペンが散らかってるぐらいなので片づけるか。床にちらばった紙を拾い上げてると軽いノック音がした。返事をすれば転校生が顔を出した。ちょっと走ってきたの顔が赤い。

「あの保村先輩いますー?」
「…なに?」
「夜ご飯まだですよね!作りすぎたんで食べませんか?」
「はぁ?」
「私のご飯みんなおいしいって言ってくれるんです!凛月くんとか、お姉ちゃんとか司くんも目を輝かせてですよ。」

へぇ。と返事をすれば、らっぷにつつまれたおにぎりを二つ。中身は梅と鮭です!お嫌いでしたら別の具もありますからね!塩ないの?具なしですか?そう。えっとーこれです!
俺の相談なしに三つ目を俺の掌におく。先ほどまで作ってたのだろう。暖かいおにぎりだ。撮影のお弁当って冷たかったなぁ。なんて思いだして、俺の心がきゅっと閉まる。それなのに、俺の口からは後で食べるから、いいよ。ありがと。だとか塩の言葉しか出てこない。いつも転校生にこんな言葉を投げかけてたなぁ。なんて思うのも不思議な話だ。

「食べましょう!私が代わりに楽譜拾っておきますから!」
「…そう…」

転校生がぐいっと押してくるので俺は引き気味に返事しながら、手近な椅子に座る。一人で食べるご飯って味気ないですよね。終わったら一緒に食べて良いですか?だとか転校生が言う。時計を見ると最終下校時刻がもうすぐに迫ってる…。

「食べる前にお前が帰る時間が来るだろ。駅までだとか送ってけど?」
「校内にまだお姉ちゃんが残ってるらしいので、そちらと合流して帰りますから、大丈夫ですよ。保村先輩は外に出ちゃ駄目です!」
「…はい?」
「だって、先輩の事務所の人がいつ学校に来るかわからないんですから、セキュリティのしっかりしてるここのほうが安全ですし。」
「あんたに同情されるほど落ちぶれちゃないよ。ナルくんと合流するならそこまでは送る。片付けもやっとくからはやく荷物まとめな。」

え!?でも先輩を極力出すなって瀬名先輩が!!…セナかよ。ばれちゃった!…ばれちゃったじゃないよ。とりあえずナルくんにここまで迎えにきてもらうようにしな。じゃなかったら俺学院の外までお前を送っていくぞ。ひ卑怯ですよ!!…連絡。はい。
有無を言わせずに、ナルくんが迎えにくるように連絡を済ませる。もしもし、あのね。なんて言い出すのを傍らに、俺は近くの席に腰を下ろして、転校生の持ってきた弁当箱を開く。どれもこれも先ほどできたばかりのようなものであった。

「……転校生座れば?飯たべるんでしょ?」
「保村先輩も食べますよね!おいしいんですよ。」
「黙って食べないとおにぎり押し込むよ?」

真顔の俺がそう伝えれば、転校生は慌てて俺の前に腰を下ろして小さく手を合わせてから微かな声でいただきます。なんて言う。いや、そこまで俺だって鬼じゃないよ。とかいう気力もそがれてため息を一つ。そのままおにぎりのラップを外して一かじり。暖かいご飯が久々すぎて、やっぱり事務所を辞めよう。という気持ちだけが強くなった。コラムだって今のところ締め切りは大丈夫だと記憶しているし、撮影について穴をあけるのはなぁ。なんて思ってしまうのは俺が大人になりすぎてしまったからなんだろうか。咀嚼しながらぼんやりと撮っている最中の仕事について考える。いや、今まで大きなトラブルもなかったはずだし俺の役は端っこだから最悪映らなくてもいい節はあったはずだ。代役でどうにかなりそうな場面を今週やっていくはずだ。

「保村先輩、また仕事の事考えてたでしょう?」
「こんなにゆっくりする時間も久々でなにをしていいか解らないんだよ」
「働きすぎです」
「お前に言われたかないよ。転校生。」

やることねえから食事してんだよ。なんて吐き出して俺は転校生の作った飯をゆっくり食していく。転校生が7割ぐらい食べたところでナルくんが迎えとしてやってきたので、食いかけの弁当箱を無理やり持たせて追い出した。文哉ちゃんゆっくり休んでね。なんてナルくんに言われたら俺は何とも言えない顔で二人を見送った。まだまだ長い夜をどうやって時間をつぶせばいいのかわからずに俺は、みんながいたこの部屋でぼんやりとして眠気がくるのをただただ待ちながら、レオの置いて行った五線譜の裏に文字でも書き連ねようと思ったら表裏とも五線譜じゃないか。……まぁいっか。あとで弁償しとこう。


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