奔走、就中の暁闇ライブ。-07

一日寝たので比較的元気にはなったよ。セナやレオたちと話をしたからね。まぁ、そう元気になっても現実は変わらないよね。うん。俺と事務所の壁がかなり高い。軋轢はひどい。翌日事務所に顔を出したら社長にとんでもなく怒られた。…怒られる意味が解らないし、俺はオフだったのだ。仕事を入れてくるのがおかしいんだよ。そうだ。そうだろ?…否定も肯定も誰もしないから何とも言えないんだけれどさ。とりあえず書いておくべきなんだろうなぁ、と思うよ。退所届。持ってるけど。下手し違約金だとか、発生するかもしれないけれどそこは俺の稼いだ部分で何とかなるだろう。…いや、ね。まぁ、俺の小遣いとしてはかなりの額にはなるけれど、幼いころから稼いだ分を親に言えばなんとか出してもらえるだろうと俺は考える。本気でセナやナルくんの事務所入りも考えたほうがいいのかもしれない。昨日のことで事務所に来た俺はマネージャーに荷物を預けて、まっさきに社長室に通されて、そこで社長のがみがみ言われながらも俺は笑顔で乗り切る。大丈夫、心のつぶし方は知ってる。去年散々やってきたのでね。うん。昨日、親に話はしているし。お前が行きたい先を行きなさい、って言ってくれてるのでうん。好きにするよ。本気で。
社会人になるのならば、きっと必須なスキルなのかもしれない。けれども、まぁその頃にはここの事務所にはいないだろうね。うん。とりあえず、書いた退所願をいつたきつけてやろうかとも考える。こうなるならむっちゃんの言うとおりにむっちゃんと逃げ出してたらよかったなぁ。なんて今思う。
新しいマネージャーがむっちゃんが首になったとは聞いたけれど、あの後からどうしたのかもわからないし、今どうしてるんだろうなぁ。と怒られながら思ってしまう。むっちゃんって俺よりもこうして受けてたのかな?俺が怒られる意味もわからないんだけども。がみがみ社長が言う横で恐る恐るというような感じにマネージャーが口を開く。

「保村くん?」
「なんでしょう?」
「明後日なんだけれども、どうも一日仕事になりそうな空気が出てて」
「…はい?…」

明後日は『Knights』のライブの日だ。前々からお願いしていたのに。なんて思ってしまうのは俺の心が狭いんだろうか。ニッコリ笑いながらも俺の心がぴしりとなった気がする。マネージャーに怒るのはお門違いかもしれないし、それならば社長に文句を言うべきなんだろうか。

「…ねえマネージャー。その日仕事を入れないでって言いましたよね…?それでもスケジュールがうまいこと合わなくて午前だけは受けますけど。その後は受けません。」
「保村くんこれも仕事だよ。学業はどれだけがんばっても、うちの事務所が儲からないんだよ?」
「……儲かる儲からないの話をしてるんじゃないんです。」

俺たちは事務所の商品だっていうのは理解してるよ。でも、消耗品のように使っていい商品じゃない。あんたが社長として動くならその方針は間違ってる。このままで続けるなら俺は来月末を持って退所する。あんたたちに潰されてたまらない、だから俺は事務所を変える。俺がここにいたのは、前の社長に恩義があったからであって今の社長には何も感じない。
完全にむっちゃんの受け売りを並べて口にしてるけれど、まぁ俺の思った事でもあるし。大人の社会を大量に見てクールでとらえるならば来月が区切りがいいだろう。と俺は思っている。

「今までは我慢してたけど、俺を認めてくれる人たちが無理をするなっていうから俺は俺の思った方向に進む。それはあんたと同じ道じゃない。」
「保村くん、それは駄目だ。」
「じゃああんたは壊れた俺を捨てないって保証をするのか?むっちゃんを捨てたのにそれを言えるのか?」

残念だけど俺はそういわれても信用はできない。捨てた実績を持つあんたたちに信頼なんてもんはそなわっちゃない。あの人は、前の社長は俺を大事に育ててくれた。くすぶってた俺を拾って絹糸で大事に包んでくれた。だから、俺はここで頑張ろうって思ったけれど、あんたになってから。あんたは仕事を金を優先にして俺たちを大事にしてる節はなかった。だから、同じように俺はあんたをあんたたちを扱う。

「俺は本気だよ。来月末で辞める。来週の土曜は午前で一度抜ける。ライブが終わったら入る。それでいい?それまでは言うことは聞く。ライブは譲らない。あんたたちが学業の保障だってしてくれるわけじゃない。」
「そうか、それは仕方ない。」

きみが出たくなるというまでこの部屋に閉じ込める。そんな言葉の理解は遠い。今、なんていった?おい、とマネージャーの手を掴もうと思った手は空を切った。社長はにこやかに失礼するよ。と言ってマネージャーと二人で出てった。考えが改まったら、内線の1番を押すといいよ。そう残して扉を閉める。それから施錠音。俺はすぐに出入口のドアノブを掴むがドアはびくともしない。…まさかこんな実力行使に出られるとは…。携帯も鞄の中だし、連絡手段は社長室の電話。だけれども、現代社会どこの電話番号すらおぼえてない。家にかけてもいいけれど。事情を説明するのが手間取る。…いや、一個だけ。覚えてる、届くかはわからない。相手が知らない番号から出るかなんてわからない。それでもかけなければならない。

「……お願いだから、出てくれ。セナ。」

もしかしたら授業中かもしれないけれど、出てくれたのなら奇跡だ。探針音が鳴ってから音が鳴る。ツーコール目に音がなくなって、不機嫌そうなセナの声がした。「セナ?今いける?あのさ、もしかしたらやばいかもしれない、」そう伝えた瞬間電話の電源が落ちた。…おい。ここまで言論封殺する?まじ?っていうかんじ。…携帯はマネージャーに握られて、俺、今日仕事だったよね…?電話自体生きてるみたいだから、とりあえず言われた内線一番にかけてみると社長が出た。折れる気になりましたか?なんて言われたので受話器を叩ききってやった。…とりあえずセナには言ったから、どこまで通じてるかわからないけれど、俺が無事に別のに飼われずにってなると明後日のライブまでに俺はどうなるんだろう。そう考えると心がきゅっと閉まった気がした。さて…俺は今からどうするべきなんだろうか。
事務所はビル。4階。社長室は窓際なんだけど。…ここまできたら答えは一つしかなくない?っていうか、漫画みたいだよね。

「4階からの脱出。都会の事務所でこんなことすると思わないよなぁ。」

今度のコラムになるかな。とか考えるあたりが問題なんだろうね。まぁ、アイドルがやることじゃあないよね。とりあえず、社長の机からなんか使えそうなものと物色した結果鋏を見つける。…これってあれか?カーテン切り裂いてロープにしてってやつ?…俺そんなアクション派じゃないんだけどなぁ?なんて思いつつカーテンを裂く。本で読んだけど、まさかほんとに使う日がくるなんてね、信じられないけど。とりあえずどうしよう。と冷静に考える俺がいた。事務所はきっと俺が首を振ると信じてるならばそれは間違いだ。俺は前の社長だったら首を振ってただろうけど、今の社長には振る必要はないと考える。
さっさと作って逃げ出そう。そう考えてる俺がここにいた。マネージャーに見つかったらどえらいことになるんだろうから、さっさと手を動かしてしまわないと。俺は鋏を手にするとカーテンを手ごろな細さになるように切り目を入れてから横に裂くと甲高い音が一つなった。おっと、なんて思ったがドアの向こうから誰かが駆け込んでくる気配もない。

「結構、俺この状況楽しんでるのかもな。」

1階につき3メートルほど。4階で12メートル。ちゃんとした飛び降り方なら問題ないとも聞くがそれはねぇ。骨折っちゃ明後日のライブにも支障が出るので、それはやらないけれど。2フロア分ぐらい作ってから後はもう勢いで言った方がいいかもしれない。なんて考える。ライブ当日まで学院に引きこもっていた方がいいだろう。まぁ、そんなころには俺を血眼になって探してるかもしれないけれどね。そんなことを考えながら俺は切り裂いたカーテンの隅と隅を結び解けないことを確認してから、窓の枠にしっかり結ぶ。俺の命綱代わりにもなるのだから失敗は許されない。最悪窓のさんや縁を掴んで降りるのは予備の代替案だ。
窓の枠とは反対側を窓の外に投げ出して俺はしっかりつかんで窓から飛び出す。社長室の下は会議室だけれど、ここに人がいたら即アウトだろう。とちょっと緊張したが幸いなことに会議室は誰もいなかった。そんなことに安堵しながら、俺は事務所からの脱出に成功する。さ、学院に行って飼い主と相談して反撃ののろしを上げようではないか。


/back/

×