奔走、就中の暁闇ライブ。-06

ふと目が覚めたら、隣にナルくんが居た。どうやら俺は30分ほど気絶したようだった。消毒液の匂いが鼻について保健室かと察する。起きたのね?泉ちゃんたちにメッセージ入れるわね。なんて携帯を触ってる。ぼんやりする視界をはっきりさせるために俺は上体を起こして周りを伺うと去年も見た部屋だ。

「文哉ちゃん、大丈夫?」
「まだ頭はぼーっとするけど、平気。事務所に電話しなきゃ。俺を探してるみたいだし。」
「大丈夫よ、アタシから電話を掛けたわ。倒れたことも伝えたから一日お休みしなさいですって。」
「ごめん、ありがとう。」

…にしても、最近お仕事やりすぎじゃない?なにかあったの?ナルくんがそう問いかけた。ここまで迷惑をかけてるのだから、これ以上はごまかしがきかないかもしれない、ので、正直に話すことにした。とりあえず、事務所の社長が変わって運営方針が変わった事、その社長は事務所と契約してる俺たちをただの商品として消耗品としてとらえてる節があること。そういうのを伝えると、ナルくんは難しい顔をしている。

「文哉ちゃん、うちの事務所か泉ちゃんの事務所に移るべきじゃない?」
「うーん…でも、ナルくんとこモデルが主力じゃん?」
「今のままじゃだめよ。いつか体を壊しちゃうわ。」

そうだろうね。俺が返事をすると信じらんないという顔を浮かべた。まぁそうだろうね、俺だってよく解らないもん。なんでそうなるのかも俺にだってわからない。まだ仕事が残ってるから俺は返事をしなきゃいけないし、30分も電話をかけてないんだから事務所がまたたくさんの電話を残しているかもしれない、そう考えると喉が鳴った。

「さっき、極度の過呼吸になって倒れたのよ。まだ仕事をしたいっていうの?」
「じゃないと、ライブに出れないから…ねぇ。このままだとライブの日も仕事でつぶれちゃいそうだし」
「すべてに全力なのが文哉ちゃんなのは知ってるけども、いくらなんでもやりすぎよ。」

だろうね。でも、そうじゃないときっと事務所は俺を出してくれないだろう。俺の携帯がどこにあるのか問いかけたが、体調が万全じゃない人にはあげません!なんて言われた。…困ったなぁ。思考を巡らせていると、今日は休みにして貰ってるから一日ゆっくりしなさい。これはお願いじゃなくて命令だからね。とまぁ飼い主に言われちゃ逆らえない訳で。俺は仕方なく頭を振った。

「最近寝れてるの?王さまが帰ってくる前よりもひどい状態じゃない?」
「……そうかな?多分、これよりもっとひどい状態はあったからね。まだ走れるし…とりあえず、一旦帰ろうよ。練習室に。」

そうね、なんて二人で保健室を出てしばらく歩いていると、セナたちが迎えに来てくれたみたいで俺の名前を呼んだ。セナとすーちゃんとりっちゃんから少し離れたレオだけがちょっと難しい顔をしてるにすぐ気が付いて。俺はいつものようなひょうひょうとした顔を作ってレオに声をかけると、レオは尚も不機嫌な顔になった。それでも俺は表情を変えずに、努めて明るい声を出した。

「文哉。俺は言ったよな?」
「無理だと思ってないから言ってないよ。まだ走れる。走りたいから今を生きてる。」
「その前に壊れたら意味がないんだ、わかってるだろう?」
「それでもだよ。俺も飼い主たちと一緒に走りたいもん。」

俺がいつかつぶれて走れなくなったら、お前たちに迷惑が掛からない様に消えてなくなるよ。なんて口は裂けても言えない。事務所の手がかからないようにしないといけないしね、そんなことを思い浮かべてるとレオは俺の中を見透かしたように言葉を紡いでくる。消えるなよ。なんて言われたら尚も消えるわけにいかなくなるじゃんね。

「ねえレオ、命令してよ。俺をどこかに行かない様にしばりつけてよ。」
「縛らなくても帰ってくるんだろ?」
「保証はしないよ。だって、獣は死ぬときは消えるのが常説でしょうに。」
「文哉!」

解ってるってば。あんたたちの命令がない限り消えないってば。
俺はへらへら笑ってるけど、メンタルはそろそろレッドゾーンだろうし、ここでセナやレオに拒絶されたら、もう俺は死んだ魚みたいになるしかないだろうね。絶対にいってやんないけどさ。ここが帰る場所だと俺が認識してるんだから。とりあえず今日は練習もできたし意見もブラッシュアップされた、ほかの詳細は日を改めて聞くことにすればいいだろうしね。

「とりあえず今日は帰ることにするよ。」
「とか言って事務所に行ったりして〜」
「…しないよ?」
「スーちゃん。ふ〜ちゃん送って。」
「任せてください!」

おい、信用ないな?俺そんな信用を裏切ることしないよ?うん、新しいマネージャーと会うかもしれないけど、事務所にはいかないってば。ねぇ。俺の鞄を持ってこないでセナ?オレごと抱え込んでスーちゃんの家の車に乗せないで、そして家まで送ってかないですーちゃん。ねぇ!俺信用ないの!?家の前に怖い人が一日居て俺の家の人めっちゃビビってたんだけど。怖い怖い。『Knights』怖い怖い。


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