奔走、就中の暁闇ライブ。-05 気づけば俺の気持ちはどこに向かっているのかよくわからなくなっていた。寝に帰る家、終わらない撮影。俺とは違う誰かになる。なんて作業が楽しかったのに、それもまるで昔みたいだと俺は一人思ったけれど、確かに違うものはある。搾取をしない仲間、元天才子役の俺がただの保村文哉に戻る瞬間。『Knights』。あそこに帰るために仕事をしてるかのような気分だ。きっと、今度のライブのためにレオが曲をくれてセナの歌詞で歌えるからかな、それだけを思うとやる気だけが沸いてくるんだ。 挨拶周りでしか知らない司会者が、俺に話をふったって愛想で抜けれるほどの技量はある。そうやって俺は去年学院を生き抜いてきたんだろう?ほら、生き残り方は知ってるんだ。 そうやって撮影の合間もレオの歌を聞いて俺は生きてる。ライブはもうすぐだからと、スタジオの隅で練習してたらマネージャーに見つかって仕事を増やされた。いや、増えるのはいいんだけどライブの日だけは開けてくれって言ったんだけれど、どうもその前のギリギリまで仕事を入れられてる。ほんとにうちの事務所まじで俺を使い捨てにする気なのかもしれない。むっちゃんの言うことを聞いとけば良かったな。なんて思ってる間にも雑な隅っこの仕事が入ってた。ライブ直前まで仕事とか、まじあり得ない。そんなことを呟くわけにもいかないので、とりあえず『Knights』の連絡のところに、その旨だけを記載しておくと、ナルくんとセナから了承の返事が入っていたし、たまには練習に顔だして。とも言われた。解ってるよ。でも、行きたくても物理的に時間がないのだ。 セナにもレオにもむしろ学校にも行けてない率が増えてて俺のストレスが爆走しだしてるから、読書量が増えてる。本の虫の俺が増えてるんだから、その分睡眠時間が減ってる。ほんと、前みたいだな。なんて自嘲してしまうのだけれど、マネージャーがむっちゃんじゃなくなってから、俺の中でも許せない部分が少しずつ表に出てきた 「文哉くん、学院のアイドル活動なんてする必要あるんですか?」 「どうして、そういわれますか?大学の入学まで事務所が保証してくれるんですか?」 そちらが俺を消耗品と考えてるのを知ってるから、俺だって反論はする。事務所が高校でもないし、単位をくれるわけでもないのに何を言ってるのだろうか。今時高校卒業資格を持ってないほうがマイノリティだって言われるのに、それになれとでも言うのか?俺が「学院のユニットについては口を出さない約束だったはずですよ。それに、ユニットの活動が成績にもなるんですから、ね?」なんて強めに押せば、マネージャーは「そうだったね。ごめんね!」なんて軽くあしらわれる。ドラマの番宣、バラエティーの撮影。書籍の仕事にコラムにエッセイ本の仕度。撮影の合間に今度のライブの振り付けまで。どこまでも俺には休む時間がない。仕事ばかりが増えていって睡眠時間がなくなっている。あぁレオに、セナに。いや、『Knights』のみんなに会いたい。そんな思いだけが俺を動かしている。とりあえず、撮影もバラエティーもなにもない日が1日できるようにマネージャーにお願いして俺はかたっぱしから仕事をしていく。そう、みんなに会うために仕事をするんだ。そう思ってないと生きていけない気がするようになってきた。もしかしたら俺は、段々と消耗してるんだろうななんて自覚をする。それでも、その休みだけが俺の希望で、そこですべてを取り返すように回復しなければならない。そんな使命感すら持ち出した。 そして、ひたすら働く。苦手なバラエティーだって、みんなに会えるならと思って、いろいろ動くよね。 俺は『Knights』に会えるから頑張るし、事務所は俺が働いてくれるから嬉しいだろう。ほら、ウインウインの関係ってやつだ。そうこうして働いて、俺は念願の丸1日休みもとい午後からフリーを獲得した。撮影も俺が頑張って動いたからか、前倒し気味だし、コラムも一通り終わらせてる。夜にはバラエティーの撮影もないし、事務所に原稿を提出したら昼から完全にフリーだ。これで、みんなに会いに行ける。学校で授業を受けて、今度のライブの打ち合わせも行える。みんなに、会える。それだけが嬉しくて仕方ない。 浮き足だって俺は事務所に原稿を叩きつけてその足で学院に向かう。新しい楽曲ができてるのかな?ライブに変更があったらどうしよう?そんなことを考えながらレッスン室に向かう。防音練習室に入れば、きょとんとした顔が五つ。 「みんな!久しぶり!!」 「文哉!昨日ぶりだな!元気だったか?」 「俺、2週間ぶりだよ。学校にくるの。レオとあってないってば。」 「そうか?あぁ、家のテレビで見た気がしてきたぞ!」 思い出したなんていうような口ぶりで、レオが笑ってから俺の名前を呼んでとびかかってくる。俺は、甘んじて受けてぎりぎり踏み留まる事に成功する。俺の顔を見て他のメンバーが一瞬ぎょっとした顔をした。きっと顔色が悪いのかもしれない。睡眠不足だし、撮影ばかりでランニングハイになりかけてるのだろう。しあさってにはライブだし、これがたぶん最終打ち合わせみたいになるだろう。俺はみんなも元気?なんて。ふれば、りっちゃんがふ〜ちゃんよりもね。と笑ってる。うん、俺が不調なのは俺が知ってるし、今日1日でみんなと動けるのが嬉しくて仕事頑張ったんだー!誉めて!なんて言えば、レオが偉いぞー!言いつつ俺の頭を撫でる。そんあ些細なふれあいが嬉しくて、ライブしてるみたいに嬉しくなってきた。 「ね、練習中にわるいんだけどさ。俺のソロ見てもらっていい?」 「文哉が一番今忙しいんだからそっちに合わせるべきでしょ。」 「本当に!?やった!意見ほしかったんだ!」 ここ、コールアンドレスポンスみたいだから、一列に並んでさー。と色々俺のソロについてあれやこれやと煮詰める。バックダンサーをつけないつもりでいたが、みんなでやろう。と言うことになったので、俺9割めんばー1割なんていう極端なものになったが。本来俺にソロなんて持ち合わしてないのだが、かなりの珍しい曲になるだろう。と予感する。ライブと同じシンコペーションで行うために、俺のソロからスタートするライブが頭からケツまで一連の流れをやろう。ということになった。流してやろう。と言うときに、タイミングよく転校生がやってきたので、見て貰いつつ。終わったら転校生の意見を聞いて、またブラッシュアップしようと言う方向で決める。久々に人と踊るのがたのしくて、仕方ない。リハーサル程度の認識なんだけれど、体が勝手に出力を最大に持っていこうとする。それでもいいか、と俺は音の波と躍りながら、決めた通りに進めていく。久々の練習だったりセナやレオと同じ時間を共有するというのがうれしくて一人で練習してたよりも不利は大きいけどその分軽やかな気がする。そのまま踊り続けて歌い続けていたら俺のソロが終わってユニットの曲に入る。半年ほど前はレオが居なかったから俺がレオのパートを歌ってたりしてたけれど、それも無くなってハモりやユニゾンがメインになってるから、きっと気を使わせたのかな?とも今になったら思うけど、俺はレオやセナがみんなが輝けるならそれでいいとも思ってる。俺は別に最悪アイドルじゃなくたって生きていけるからね。そんなことを想いながらもパフォーマンスを続けてたらあっという間にすべての通しリハもどきが終わった。汗だくになっても俺は嬉しくて満面の笑みだしニヤニヤしてる。音が終わって、セナがなんでそんなに笑ってるの?なんて言うから、久々にみんなと一緒に練習できたから!って伝えたら怒られた。理不尽。俺だって好きで忙しくしてるわけじゃないんだけどなぁ。唇をとがらせていると、転校生があのーと遠慮気味に声をかけて来た。何?と俺が投げれば、「保村先輩、携帯鳴ってましたよ!」というから、俺は適当に返事して鞄から携帯を開くと、事務所からのたくさんの着信履歴とおんなじぐらいの留守電。…聞くのも怖いが、聞かねばならないだろう。気付かれない様に、息を吐き出してから耳に当てると怒号と俺を呼ぶ声。仕事が急に入ったからこい。という内容に頭が追いついていない。 今日は一日オフにする用に無理やり動いてたのに。どうして、事務所は…?…ぐるりと視界が回った気がした。未だに耳から離れてない電話のスピーカーから俺を呼ぶ声がしているし、その向こうで新しい社長の声も聞こえる。上手に俺の頭に入ってこなくて、そのまま俺の手から携帯が滑り落ちる。かつーん。と硬い音が一つして、自分で息をどうやってしていたかわからなくなってきた。セナが俺を呼んでるから返事をしたいのに、喉からは息が出ない。むしろ入っていくだけで吐き出すことができなくて、喉が鳴る。返事をしない俺の肩を掴んでセナが俺を呼ぶ。まって、返事をするから、そんなにあわてなくていいから。そんなことを思っても言葉が出てこない。前に体験したやつだ、なんて思う頃には視界がぐらりと傾いて、俺の目の前が真っ暗になった。事務所に電話しなきゃ、そうなんだよ。 セナも心配しなくていいから。ほんと。 ←/back/→ ×
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