奔走、就中の暁闇ライブ。-03

撮影は終わらないし、俺が関わるシーンが多いので拘束が増えた。そして、なにより俺のソロ曲の練習が終わってない。隙間時間を狙って人目を盗んで踊ってはいるが、そこまで形になる前に、スタッフや共演者が俺を呼びに来るので、正直できてない。ドラマの撮影をむりくり抜けて、むっちゃんの送迎のもと、俺は学院に飛ぶように戻る。他はまだ授業中だが、俺は今日『Knights』のユニット練習が行われる部屋を借りる。
授業は後でも聞けるし補習もあるから問題ないが、ユニット練習はブラッシュアップもあるので、出来てません。では話にならないので、こちらを優先する。
部屋に飛び込むと同時にスピーカーにスマホを繋げて、レオの曲を連続再生させる。
ウーハーの効いた音の波が大きく打つ。その波に任せて、身を投げる。レオにしたら珍しいバンドっぽい音楽。レオになにがあったんだろう、とか疑問がわいたが、その疑問は今考えるべきではない。今は目の前に集中して、踊っていると三回目で音が途切れた。目線をあげるとスピーカー横に瀬名が立ってた。

「文哉、ずっと踊ってたでしょ?体幹ブレだしてるよ」
「もうそんな時間?」「モップかけなよ。足滑らせるよ」

適当に返事して、歩き出そうとしたら一瞬世界が回った気がした。ぐらりと体が傾いたので無理やり踏ん張って堪える。瀬名の慌てた声が聞こえて、理解する頃には目眩も収まっていた。俺は平然とした顔をして、平気だよ。と告げておく。

「クマ、見えてるよ。」
「……セナには隠せないか。」

へらりと笑ってて、ライブが終わればまたまとまって休みを貰えるからね。そこまでは頑張るよ。そう息をするように嘘を吐き出す。この間もそうやっていって、終わってみれば仕事増えてました。ってオチだったじゃん。と言われて言葉に詰まる。確かに前も嘘ついたのだ。

「今度はホントだよ。」
「嘘ついたら、わかってるよねぇ。」

……わかりたくない。バレたら、即刻折檻とか勘弁してほしいし、セナのおしおきというのはひどく痛い。頬っぺたつねられるの痛いんだってば。っていうか、アイドルの顔をつねるな。毎回抗議してるのだが、聞き入れてくれない。やらかしてる俺が悪いから仕方ないんだけれどさぁ。

「みんなで、文哉がきちんと休んでるか確認するために監視でもしようか?無理して【ジャッジメント】みたいになるのも困りものだしねぇ。」

喩えと前例を持ってこられると俺は弱い。というか、セナに、レオに言われると弱い。困り者だ。ぐぬぬと漏らすと勝手に感づかれることもあるので、そのまま沈黙を保持する。言え。と命令されたら俺は言わざるを得ないのだが、そこもしてこないのは、セナが優しいからだろう。俺は、嘘はつきませーん。と返しながら、飛び散った俺の汗を消すためにモップをかけ始める。二本遣って引きずりながら歩いてると、すっごくセナの視線が刺さる。痛いんだけど、飼い主。結構グサグサ刺さってるんですけど、実害はないので、黙ってモップ崖に努めるとしよう。汗を踏んでかしてか、足音と床の悲鳴が部屋を支配する。妙な沈黙が俺と瀬名の間で流れる。きまずい。くっそ気まずい。

「さっきのだけど。」
「ん?」
「さっきのソロ。もうちょっと足振る速度早くするといいと思うよ。」
「ほんと?他は?」

他のメンバーが来るからモップかけたらね。と言われたので、俺はダッシュでもモップかけをする。あっという間に床の汗を無くして、モップを片付けてからセナに飛び込む勢いで、教えを乞うた。だいぶ前から俺を見てたらしく、かたっぱしから注意された。っていうか、そんなに見てるなら、俺に声かけてもよくない?
セナから一通り意見を聞いて、あとの修正はみんなが来てから。あんたは働きすぎだから休めと。椅子に座らされる。あーいや、俺コラムのネタ出しが。恐る恐る言えば、かなりしぶられた。締切という単語と原稿落す。という説得を持って無理やりセナからコラムの作業していいよ権利を獲得する。ここでやっておかなければ、結局撮影場所でやるだけなんだけれど。撮影中は集中力をもっていかれるので、ここでやってしまいたい。

「そういえばさ、コラムにメッセージ込めてたんだって?」
「あーうん。そう、レオに帰ってこいってやつ。」
「あれってどうやってたの?」

マネージャーと相談して、大体各段落の一文字目だとかをすべてつないだものだよ。全ての書き出しがアルファベットなら奇数目の段落だったり漢字のスタートなら偶数とかね。これ以上細かく解読法はあるが、最近はそんな事をする必要もないので、自由気ままに書いてるよ。と伝えれば、ふぅん。と返事された。久々のセナとの会話が嬉しい。セナと最近はどうだの、『Knights』はどうだの。話をしながら、俺はコラムの支度を広げてく。ある程度の方向性を紙に落とし込んでいると、一人二人と部屋にやってきたので、俺の作業も終わりにする。というか、セナに取り上げられた。俺がいくら本の虫だからって、おざなりにしないってば。
「レッスン初めるぞー」のレオの号令でユニット練習が始まる。初回は俺の時間があんまりないので俺のソロのブラッシュアップを重点的に行う予定でいるらしい。さっき躍り込んどいてよかった。なんて安堵する。
一曲踊りきって、意見を出しながらブラッシュアップしてあれやこれやと進めていると、そういえばこれの歌詞はどうするのですか?と言われて、歌に言葉がないのを思い出した。

「セナ、書いて。」
「自分の曲になるんだから、自分で書きなよ。」
「たぶん。書いてる時間がないから、書いてほしいし、俺セナの言葉が好きだし。」

レオの曲で、セナの言葉で、俺の声で会場を満たせるならそれはとっても嬉しいことだ。それに、俺の事を俺主観でやるよりも、第三者…この場合セナを通した方がすんなり見えると思うし、ついでに俺がそこまで手を出すと完全にやられる。多忙で。それは絶対に阻止したいし、なにより見つかると確実にうるさい。俺の体調はべつにどうでもいいんだけど、周りからのお説教時間が長いのは勘弁してほしい。

「仕方ない、書いたげる。」
「ありがとー!ついでにセナ成分補給!!」
「飛び付くな犬か!」

番犬だって、甘えたいんですー。頬を膨らまして、セナにしっかり抱きつく。ちびで軽い俺はセナの胴体に腕を回して、足もしっかり絡み付かせておく。セナがぎゃーぎゃー言いながら俺をひっぺがすので、そのままレオのところで慰めてもらうまでが最近のワンパターン。ナルくんが少し呆れてるけれど、俺にはこれが一番の癒しなんだよね。

「最近セナ成分もレオ成分も補給できてなかったから助かるー。」
「文哉も忙しそうだし、無理するなよ。」
「平気平気。どうせ事務所のごたごただから、気にしないで。」

レオの膝に頭を載せてると、撫でてくる。ほんとに俺扱い犬だなとクスクス笑ってると、ナルくんが事務所?と首をかしげている。あーそうか言って無かったか。思い出して、んーと適当に返事だけを一つ。

「この間社長が変わってね。いままでと真逆のタイプだから、むっちゃんたちも俺も困惑してんの。今度のライブの日はむっちゃんに言ってスケジュール明けてもらってるからそこは安心して。」

俺の話ばかりしてたってつまらないでしょ。一旦俺のやつ意見がないなら、ユニット練習しよー?俺は2時間後にはまたここを出なきゃならないし、時間がないの。ほらほら、ないならユニット練習に切り替えるよ。そう促してやると、みんながぼちぼちと行動し始める。セトリを決めながら進めていく光景を見て満足してるとりっちゃんが、ふ〜ちゃんよ昔話聞きたい。とか言い出したので、俺は適当な話をでっち上げてSFスリリングなのに変えてやる。ってか、練習しようぜ!


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