夏空*駆けるシュヴァルライブと俺。-3

バスの中でむちゃくちゃ文句言われたけれど、あやまって弟くんにとりなして貰う。そして、バスは目的地に到着するのだが、到着先はどうも牧場的でどう考えても夏フェスをやるような場所ではない。はて、と首を傾げて地図を再確認する。背後では『Valkyrie』のがきんちょがバス運転手に問い合わせを行っている。が、どうもここで間違いなさそうだ。企画書に再度目を通してると背後から「んああっ!?」なんて大声が響いた。じろりと視線を動かすと、慌てたがきんちょがそこにいた。

「ど、どうしたの。大声を出して?」
「な、なるちゃん!おれ、おれ!!……んああっ、どないしょ!?」
「落ち着いて〜、深呼吸してね?」

鳴上くんが背中をさすって落ち着いてという姿を視界に入れながら、再度企画書に目を落とす。変だな。おかしいな、と思いながら思考を巡らせると答えが聞こえてきた。どうやら、申請先を間違えて、乗馬クラブの宣伝ライブに申し込んだそうだ。……そうか。

「はぁ?乗馬クラブの宣伝ライブ?どこをどう間違えたらそんなことになるわけぇ?」
「どうせ、申し込み先の番号を見間違えたか、書き損じたかどっちかでしょ。海よりかまだ涼しいからいいんじゃない?」
「す、すんません!ほんますんません!!」
「ちょ、ちょっと文哉ちゃんも泉ちゃんも!」

あぁ俺は別に何も思ってないよ。がきんちょには。はなっから期待はしてない。仕事だから、と念を押しておく。鳴上くんが首を傾げている。俺はとりあえず人の輪から離れて遠くを闊歩する馬を見つめる。小さなころにこういう牧場的なところで撮影したなぁ。とか思いはせていると、俺の方に寄ってきた。人懐っこそうな馬だなぁ。と思いながら鼻っ面を撫でてやる。きもちよさそうに目を細めている。適当に言葉を落としながら、馬とスキンシップを取ってると転校生が問い合わせから帰ってきたようで鳴上くんたちと話をしてる。

「えっ、馬の着ぐるみを着てライブ!?」
「はぁああ?このクソ暑いのに馬の着ぐるみ着て踊れって?ふざけてんの!?」

鳴上くんとセナの大きな声が俺の聴覚にも届いた。大きな馬が声に驚いて逃げてった。走り去っていくのを見送って手を振っておく。やることもなくなったので、俺はセナの方に寄っていく。どうも着ぐるみのことでどうこうと声を荒らげているし、鳴上くんがセナをなだめている。細微に聞くと、セナが断固反対の姿勢を貫いている。この強行っぷりは鳴上くんでは手厳しいだろう。どうやってセナを落ち着かせるかの代理の案を思い浮かべて散策していると、朱桜くんが恐る恐るという感じに声を上げた。

「司ちゃんも馬の着ぐるみでライブは嫌かしらァ?」
「いえ、私はむしろやりたいです」

セナも鳴上くんもぎょっとしたのを俺は見逃さなかった。カメラを構えてたかった。絶対に売れるよね。あの表情。オフショットとしたら。…いや、しないよ?そんなこと。

「朱桜くん、正気?」
「かさくん!?、ちょっ、自分が何を言ってるかわかってんの?馬の着ぐるみでライブだよ。ライブ?考えるまでもないでしょ?」
「たしかに着ぐるみでのLiveは熱中症になる恐れがありますし、私もその点に関しては反対です。実は私。この乗馬Clubの常連なのですよ。」

日頃お世話になっているから出たいし、内容に関しては交渉する。というのだから、かなりご愛顧してるのだろう。と俺は推測する。なんどか武道がどうとか聞いた記憶もあるので、ここにまぁ嘘はないだろう。彼がそこまで言うなら問題はないのだろう。俺にどうする?というような視線を鳴上くんが送ってくるので一つ頷いておく。

「問題はないの?」
「恐らく問題はないと思いますよ。Ownerは話の分かる方ですし、私たちのPerformanceを生かしたLiveにしたごうが喜んでくださるはずです。」
「そう、ならいけそうだねぇ」
「それなら司ちゃんにお願いしちゃっていい?もちろんアタシたちもついてくわ。」

セナも着ぐるみじゃないし、海よりもここは涼しいからいいでしょ?賑やかすぎる喧騒もない、馬ならば騎士にも似合う。問題はないはずだよ?ほら、もう朔間くんも涼んでるから一緒に涼んできなよ。俺たちでやっとくし。そう口を開けば、セナは『Knights』向きの仕事じゃないと言い出す。俺は呆れながらもごねようとするセナを鳴上くんと朱桜くんと俺の三人でごねているセナを説得にかかるわけなんだけれども、朱桜くんは馬に乗るつもりでテンションが上がっている…。

「はい!馬に乗るのは得意です!皆様に乗馬技術を披露できるのが楽しみです」
「はぁ?なんでもう馬に乗る気でいるわけ?」
「乗馬Clubですから、馬に乗らずして乗馬とは言えませんよ。ね、保村先輩」
「……いや、愛でるだけでもいいんじゃない?」

俺に振られても困るんだけど。俺は基本セナとレオに問われればうんと肯定する自信はあるし、問われたら必ずそっちに陣付くイエスマンだ。そこまで俺の性格が読みきられてないことに多少の落胆を覚える。

「皆さんはしばらく休憩でもしていてください。私の交渉術で見事Ownerを説得して見せましょう」
「文哉、心配だからかさくんのについてやって。」
「了解。行くよ。朱桜くん。」

はい。と返事を頂いて俺は朱桜くんと二人で交渉にさっさと行く。後ろで鳴上くんが、言いながら行っちゃったわァ。と文哉ちゃんちょっとずつ調子がよくなっては来ていそうだけれど、まだまだ本調子じゃないみたいねぇ。そんなやり取りの声が微かに聞こえたけれども、気にしないことにした。どうせ俺の調子なんて別にどうでもいいし。

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