-いい加減思い知れば良いのに

休憩時間、教室で俺の大好物のスルメを食べて本を読んでたら本が上に逃げて行った。にげていったほうには、朔間が余裕な表情を浮かべて俺を見ているので、なに?なんて口に出せば、まるで漫画の表現のように『るん』とした文字がついてるようにも見えるほどのご機嫌で朔間が言う。それと真逆のテンションに落ちてる俺は、ただただ沈黙を保つ。
保村くんに用があっての。俺には朔間への用事はありません、また営業時間にどうぞ。おお年寄りにも冷たいわい。俺は身内以外にはこうしてます。まるで犬のようじゃ。仕事以外の話は担任と事務所を通してください。
奪われた本を奪い返して、俺は自分の席に再度座り直して読みかけだったページを開き直す。本を挟んで向こう側に強情だのなんだのいう朔間が椅子を引っ張り出して俺の前に座る。じっと突き刺さる視線をも無視して、俺は二ページほど読み進めていると先ほどの話じゃがな。と切り出すので、ひっそり耳だけを傾けて文字を目で追う。

「仕事の話じゃ。無論、月永くんにも許可をもらっておる。」

ちらりとレオの方を見ると笑いながら楽譜を作っている。げんなり。まさに俺のテンションはそんなかんじにだださがった。やだやだ。『Knights』以外の仕事なんてしたくはないのだが、リーダーの頼みじゃ仕方ない。レオが言うなら俺は働くよ。それが犬ってもんだからね。不本意ながらも俺も仕事をさせてもらいましょうかね。朔間の方に手のひらを差し出して企画書の提出を促せば、ほれ。と言わんばかりに見慣れた台本のフォーマットが出てきた。バンドマンの主役がライブに出るときの対バンとして扱われるらしい。そこで多少のセリフがふられてるので俺にその監督をしてほしいとのことだ。…俺いる?日々樹とかのほうがいいんじゃね?とか思ってたら演劇部は忙しいから断られたとのことで、俺にお鉢が巡ってきたらしい。

「仕事だっていうなら、手は抜いてやんないよ。生半可な事するなら、俺が全員食い散らかして、うちの仕事だったってやってやるよ。」
「騎士の番犬が不死なるものを追い回すとは。」
「俺は、忠誠を誓う先は決めてるから、レオの依頼がない限り教会グリムにもなりません。」
「つれないのう、多少の言葉遊びが人生に色を出してくれるというのに。」
「身内以外に尻尾は振りません。」

最低限は叩き込みますが、それ以後はご自由にどうぞ。で、撮影はいつですか?そう問いかけると俺の予想を遥かに飛び越えた返答に俺は耳を疑った。明日って何だよ明日って。俺の指導で難癖つけられたら元天才子役のプライドだってズタボロだ。いや、売れてないから無いんだけどさ。俺は携帯で手早く空き教室を確保して、転校生と使って朔間のところのユニットのメンバーを召集し、来るべき明日の撮影に向けて俺が全力で教育するのであった。

「羽風、お前今サボったろ!!」
「げろげろ〜、今俺、保村くんの死角だったよね??」
「お前の性格ぐらいトレース出来るわ!白いの、お前は動きが大きすぎんぞ!!紫、お前は図体の割に動きが小さい!日常的な動きを意識!!」
「わかった…気をつける。」
「んなつもりねえっての!陰気のくせに!!」
「黙れくそがき!!もうあと10センチ動きを小さくしとけ!オーバーアクションは現実と解離してファンが減るぞ!」
「くそっ…!」
「犬勝負は保村くんの勝ちじゃのう」
「朔間、お前も動け!!なにディレクターチェアに座って余裕ぶっこいてんだよ!!」

お前が俺に依頼してるくせになんでお前がゆったりしてんの!?っていうか、犬勝負ってなんだよ!!おいこら朔間俺に頼むなんざ10年早いっての。『UNDEAD』が撮影のたびに俺が何故か毎回こうやって呼び出すのやめてくんない??事あるごとに嫌がらせのように俺を使うのやめてってば!!毎回こうやって喉枯らすぐらいに怒声を上げるように演技指導するの疲れるんだってば。いい加減にやめてくんない?っていうか俺を据えるのは違うんだって。いい加減思い知ってよ!!俺を使うな!!日々樹をつかえ!!


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