-昔々の俺と俺。 なにしても上手くいかないときがある。例えば俺が売れなくなりだした頃。その頃は文字通り成長期にかかる頃だ。ぐんぐん背が伸びて子どもらしさがなくなって声変わりが起きる。ジュニアモデルならよかったのかもしれないけどな。と思いつつもらったインタビュー記事の載った雑誌などをゴミ箱に叩きつける日々が増えてきたのは中学。ちょっと荒れかけた俺を慰めるのは50音の連なった言葉だけだった。文字はどこまでも俺をつれてってくれる。想像という世界だけは誰にも許されない領域で、卵の殻のように俺を守っていてくれていた。 幻想と現実を行き交いしてる間に仕事の一部として、事務所から依頼を受けて書いたエッセイがたまたま当たった。あの当時の子どもは何を思っていたのか。そういうキャッチコピーだったからか、本は勢いよく売れた。俺は思ったままを書いたりしてたから、そりゃあプロじゃないもん、書評はひどく叩かれたりでっちあげの記事が書かれたりした。それでも、事務所は俺を金の卵だと思って大事に絹で包んで扱ってくれてた。 受験シーズンに進路に迷い出した頃、事務所からここに行けと出されたのが夢ノ咲だった。学業は撮影の合間に何とかやっていたので問題なく入学したが、そのあとはひどく腐った環境だったと俺は思っている。 入学して俺の名前を借りたい連中が俺を囲んでいた。腐っていても元『欲しい名前をかっさらっていった天才子役。』というステータスにあやかりたい奴らがよってたかってきていた。中学よりも文学少年になってた俺が本を読んでたが、奴等取り上げられて、歌おう踊ろう。とやっていたが、空想に飛び出せない練習漬けの日々がストレスになって俺が音をたてて崩れた。体調を崩して、メンタル崩してまぁ学校で学業どころじゃなくなっていた。 学業は苦じゃなく、昔とった杵柄か、歌詞やダンスはなんなく覚えれたから、ライブ一週間前ぐらいにしか学校に顔を出さなくなった。仕事だからと割りきって感情が死んだ俺を作り上げる。無表情アイドルなんて言うのが許されるのも俺にそれなりの地力があるからだろう。最低限のライブの始まる一週間は我慢して学校にきて実技の成績を確保するスタイルを定めたのは高校一年の半ば秋の終わりほどだっただろうか。 苛めのように白い目で見られても耐えれてたのは、鞄の中の本だけが俺を優しく違う世界へ夢だけで、目覚めれば悲しいことだらけでも、その中だけは俺を自由にしてくれた。 指示書と振りの一覧とフォーメーション一覧の書類3つで俺が運用され出して、まるで機械じゃないかと思うがまぁ、正解に近いのだが。対応するのも吐き気がする。そんな生活がしばらく続いて高校二年のいつごろだったか。本を読み終わり、持ってきた本がなくなったので、図書室にでも一旦移動するかと考えて、目線を上げる。大きな白い何かが風に吹かれて飛んで俺の足元に落ちる。 レッスンまでの時間潰しに風通しの良い本の読める場所を探してふらふらしていたら、紙が飛んできた。なにだ?と疑問を持って拾い上げると、真新しめの五線譜に殴り書かれた楽譜だった。なんでこんなところに楽譜が?と首を傾げながら、譜面を読む。どこかで書き映したものだろうか、途中で終わってる。書きかけで止めたのか、別の用事があって手を止めてる間にどこかに飛ばされたのか。なんて思いながら譜面を目で追う。聞きなじみのない音になりそうだな、とか、ぼんやり思っていると、ばたばたと足音が一つやってきて、声が一つ。 「俺の名作がどこ行った!?」 顔をあげたらそこに、そこになにがあった?……。 「文哉ー?文哉ー?眠いのか?」 「レオー?寝てたー」 「こたつの中で寝てたら風邪引いてセナに怒られるぞ!」 どうやら、俺は寝ていたらしい。書きかけのコラムは、春を初めるような季節の話だったから夢の中にまで過去がすり寄ってきたのだろう。と思う。 「昔の夢見てたから、レオが起こしてくれて助かったー。」 「あぁ、あれなー。あのときは文哉は死んだような顔してたもんな!わはは!」 「事実だから否定しないけどなー」 机の上の書きかけ原稿用紙を片付けて、はて、今日はレッスンだったか?と首を捻る。確か今日はみんなスケジュールがあったから来ない。と聞いていたはずだが。と思っていると、窓から眠る俺を見つけてやってきたらしい。そう告げられて、あのときとおんなじ顔で笑ってるレオが眩しかったなぁ。と俺の口からこぼれ落ちた。 「なんだなんだなんだ?文哉は今日は甘えたか?」 「べ、別にそうじゃないしー。」 ただあの時は太陽に焼かれるかと思ったよ。守沢も太陽みたいだけど、俺の太陽はレオとセナだからなー。ナルくんには昔言ったりしたけどさー。ほんと俺ら三年ってナルくん居てこそだよなー。と言いつつぷいっと横を向いて、机の上で自製の腕枕に頭を載せる。もー俺こんなキャラクターじゃなーい!もー!!と自分の愚かさにも呆れが産まれて、ため息一つ。今夜は夢にみんなが出れば良いなぁ。なんて考えるのだった。 ←/back/→ ×
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