20180712 ないつの日(君のために5題)- 綺麗な君の、棘さえ愛して、 瀬名泉

あ。教科書忘れた。ふと思い出して記憶を漁る。事務所で読むものがなかったからと教科書を開いて居た記憶はあるので、たぶん片づけ忘れか資料と一緒に本棚に突っ込んだのかもしれない。そんなことを思いながらスマホでセナのアカウントを呼び出して、手早くメッセージを組み立てて送ればすぐに既読が付いた。とりにおいで。とかわいいイラストとともに書かれたスタンプに返事だけを送ってさっさと借りに行こう。と席を立つ。

「文哉もってきたよ」
「セナ?今行こうと思ってたんだけど。」
「王さまに用事。今いる?」
「んー居ないからどっかでフラフラしてるんじゃないかな?朝は見たから昼休みには帰って来るんじゃないかな。」

鞄置きっぱなしだし。お腹がすいたらそのままどっかで書き散らしてそうだけど。そんな言葉は言わずともセナは察するだろう。あいつ。何ていうので俺は苦笑を浮かべる。セナは王さまふん縛っておきなよ。とか言い出すので、俺はレオにはできないよ。と告げる。文哉の言うことなら聞きそうなんだけどねぇ。
呆れるように首を振るが俺は強要なんてするつもりはない。仕事以外に関しては。本人が卒業するって意思を固めたなら俺はそれを忠実にやるけど。聞いてもないので手を足すべきか考えあぐねている。

「ちゃんと手綱ぐらい引いてよね」
「飼い主に従順な犬ですので、引きずることなんかできません。」

きっぱりそう伝えれば、セナの青い瞳とかち合った。じっとアイスブルーの瞳が迷うことなく俺を見つめているのでどうしたの?と問いかける。道を踏み外すのならそれを守ってやるのも犬の仕事。だとセナは言う。確かにそうだが、本人が決めることだと思っているので俺は手を出したくないのだが。うーん、どうするべきか。セナのそういうところは美点であってすごいところだと思うけれど、基本ベースセナとレオのイエスマンである俺にはなんとも難しいところだ。

「じっと見つめられると困るんだけど。セナ」
「さっさと決めて。時間がもったいないでしょ。」
「いや、俺は本人たちの自由意思をだな。」

なんだこの背面の崖前門の虎みたいな状況。行くも帰るも返しにくい状況を打破する方法を考えたがなんも思いつかない。話を変えていくかと思ったがセナにそんな手は通用しない。せめてりっちゃんとかだったらなんとかなってたんだろうなぁ、なんて思考をする。

「俺の将来に『Knights』に汚点をつけるつもり?」
「いや、そんなつもりはないけど。本当に危なくなったら俺がちゃんとレオをなんとかする。それじゃだめ?」

そうやって問いかければセナは一瞬眉根を寄せた。俺はそんな表情を見逃さなかったし、思うところはあるのだろう。しばらく考えてから、それなら及第点ってかんじだけど、それまでになんとかしなきゃねぇ。
たぶんなんとかならないと思うけどね。なんて俺は判断する。きっとセナがガミガミ言った方がレオも聞くと思うよ。なんて今言うとほっぺたをつねられそうなので黙ることにする。セナの根っこには酷く思いやりがあふれてるのを知ってるのでそれを棘として扱うのは見てても心苦しい部分ではあるが、それをセナが選ぶというならば俺はそっと横にいてやるしかできないだろうから。俺はそんなセナの横にいてると。自分自身に誓おう。…ちなみにこれがたぶん、セナ二号って言われる片鱗だと思うんだよな。と思いつつ俺はこの時内部で王さま二号とも言われてることを知らなかった。俺そこまで自由奔放じゃないし!訴訟だ訴訟!
31D
君のために5題
綺麗な君の、棘さえ愛して、
瀬名泉

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