追憶 モノクロのチェックエイトと俺-6

チェックメイトやらジャッジメントやらデュエルやら、わけわかんない単語ばかりが並びだしてライブの回数が増えてきた。周りはだんだん己のチームの存在を懸けながらライブをこなしているらしい。いくつかのライブに出ながら、俺はだんだんと自分の心が凍っていくのがわかる。テラスに行くとメンバーに見つかることが増えて、結局セナとレオと話ができないまま時間が過ぎた。もしかしたらこのまま会えないのかもな。なんて俺の心に影が走る。せめて一度、あの時はごめんと言えたらいいんだけど。と思いながら今日のライブのために衣装を着替える。今日の対戦相手は誰だったか、なんて考えていると控室のドアを誰かが叩いた。

「『チェス』の面々はいるかあ?」
「月永くんじゃん!」
「なんだよ、保村くんを何かしに来たのか!?」

そんな声を拾って俺は顔を上げると、だいぶ前にセナの貸切部屋に来た…三毛縞と、レオだった。俺が顔を出すと、レオは変わらずに飛びついてくるかと思ったけれど、そんなこともなく三毛縞の隣に立っている。なんだろうと首を傾げながら、俺は話を聞くと大体の内容が察知できた。
俺が好きなら俺の楽曲を使うな。俺が嫌いならいくらでも使っていい。がつんと頭を殴られているようだった。極めて極端な二択。俺の選択肢はひとつしかない。大好きだもの。輝かしい高校の記憶として俺が大事に抱えたいぐらいだ。だから。俺が選ぶのは必然的に、片方だ。レオの曲を使わないだ。

「俺は……」
「保村くんだって、月永くんの曲が好きだもんな!使いたいよな!」

誰が俺の意思を決めたんだ。いつ、俺が言った。それは俺の形をしたお前の幻想だよ先輩。喉がぎゅっとしまった。胃が煮えくり返りそうなほど痛い。そして熱い。

「ちが……う……」
「え?なにかいった?」
「ちがう。おれは、レオがすきだよ。」

だから、俺はお前の曲なんて使いたくない。友だちはそんな割り切ってなるものじゃない。お前は曲じゃない、俺だって看板じゃない。生きて音を紡いで輝くアイドルだ。すくなくともレオはそうだ。俺はそんな輝く奴にはなれないけど。それでも、俺はレオが好きだよ。好き勝手動いてセナに怒られてるレオが。そうやって笑ってる二人が。俺はたぶんそこに立ってれないけれど、俺は二人が見れるのが好きだよ。だいすきだ。俺がそこにはいって二人が笑ってるなら俺はこの先どんな道だって、首を吊る瞬間まで二人を思っていられるよ。愛しくて仕方ない命よりも代えがたいものだから。

「だから、俺は、レオを選ぶ。楽曲なんていらない。レオが、セナが二人が笑ってる方が好き。」
「保村くん!考え直せ」
「考え直さないよ。俺は。」

足元から切り刻まれたって、喉が裂かれたって、二度と撮影なんてできなくたっていい。そうやって思える存在がレオとセナだと思うよ。代えがたい記憶。愛しくて輝かしくて甘い懐かしい記憶。何時だって二人と話した記憶だけが俺を保っていた。唯一の原動力だよ。

「俺は、それで城を追い出されてもいい。」
「正気か!」
「正気だよ。先輩たちがどういおうと、俺は俺の道を進むよ。」
「まだまだ話は終わってないんだぞお。終わってから『チェス』は『チェス』で話し合ってくれればいいんだぞお」

俺たちの視線はそのままレオに向けられた。レオは少しうつむきがちで、ぽつりぽつりと言葉を出す。今日のライブに出ないでほしい。そんな言葉に先輩たちは喜んでいた。意味が解らないアイドルってなんだっけ?生み出して喜びを知っている集団だと思っていたのに、俺の理想が幻想が音を立てて落ちていく。名前も知らない先輩が、ありがとうな。と言ってレオの肩を叩いて部屋を出てった。一人出て行けば一人二人とまた出て行く。最後に出て行くのは俺を指示書で動かしてた先輩だ。「保村くんがいいなら、ライブに出たっていいんだよ。俺たちは俺たちで新たな道を進むから」と残して部屋を出て行った。彼らの事実上脱退宣言に俺は反応する暇なく。静寂だけが落ちた。そして部屋には現実に頭を殴られっぱなし俺と、三毛縞とレオが残った。

「『チェス』のリーダーの保村くんはどうするのだ?出るか?出ないか?」
「俺は、出るよ。ここで華々しく散るよ。俺は、笑ってるレお?……えっと、月永くんと、瀬名君が好きだから。」

俺が駄目な先輩を育てんだよな。俺の名前の元に集まって、くだらない元天才子役という名前の汁だけを吸うようにして、それなりの形をずっと見せてたのだから。これが俺の逃げ回っていた結論だ。目頭が熱くなってきて胃が痛くなってきたけれど、俺は自分自身に叱咤する。ここで俺は俺の仮面をかぶらなければどうなるんだ。と奮い起こす。俺は欲しい名前を手にしてきた子役だろう?と俺の影が嘲笑う。

「それと、ありがとう。前に俺を保健室に運んでくれたんだろう?保健室の先生が言ってたよ。先輩が邪魔ばかりしてたからお礼を言えなかったんだ。その節はありがとう、セナにもお礼をいっておいてほしい。そして今日俺を殺してくれ。夢ノ咲で舞台をステージを踏めない様に、君の刃で、君たちの剣で俺を殺してくれ。息の根を。ううん、首を落としてくれ。」

笑えてるかわからないけれど伝えて俺は力なくレオの肩を叩いて、俺は三毛縞とレオの間を通り抜けステージの控室に行くから。と席を立つ。俺の仮面をかぶっても泣きそうになるのを堪えながら、「……じゃあね。つきながくん……ううん、れお。すてーじであおう。」かろうじて紡いだ言葉を口に出す。返事を聞くまでに俺はそのまま頭の中でこれからを考える。ドアを閉めかけた時に、レオがなあ。と俺を呼ぶ。俺は何も聞こえないふりをして俺はドアを閉めた。
今からステージが始まるまでが忙しいだろう。レオの使ってない曲。なんていうのを探すほうが難しいだろう。俺はほぼほぼ月永レオの曲で生きていたのだから。経典のような教科書の曲を使うか、今から速攻で俺が作ってしまうかとか馬鹿なことを考える。俺は文字を組み替える才能はあるけれど、音は組み替える才能はない。馬鹿だな、と思いながら息つく。ステージは目前、ライブはもうすぐだというのに楽曲は0から。俺一人、で新しく決まったドリフェス。というものから調べなければならないだろう。
目の前のドリフェスなるものの参加人数から始まってソロで動いてるやつに声をかけてもいいかもしれないがそれはそれで違う。事前に書類を俺が出してないのだから。

「まぁ、いいか。古典もたまにはね。見慣れてるのはあるかもしれないが、最近のこういうのもご無沙汰だよね。」

誰かに言い聞かせるように俺はステージに立つ。真っ白のタキシード、燕尾服のそれに身を包む。真っ白な服には瞬く間に真っ赤な血が流れるのだろうか。この血は誰でもない俺の血で、俺から産まれた悲しみのあとだから。
太陽みたいなスポットライトが俺を射る。真っ白な熱が俺を焼き付くすといわんばかりに襲ってくる。それでも俺は古典の使い古した音楽でステップを踏む。周りにざわめきが聞こえると同時に、歓声がわいた。観客は俺を見てない。対戦相手を見つめている。歓声が俺には雷のように聞こえた。お前はもう要らないよと言ってるようだった。
そのまま躍り俺の披露終了後に規約違反により敗北が決まった。そりゃそうだ、ルールは二人以上、俺は一人。向こうは7人。俺だって審査員だったらそうしてるよ。負けた俺は、ただあるがままの状態に呆れたように笑う。

「俺は、散るよ。」

スポットライトの照明が俺から離れてレオを照らしている。真っ白な光の中で輝いてるのは、俺が目指したかった姿だ。


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