追憶 モノクロのチェックエイトと俺-5

また気が付いたらなんか新たな仕組みができたらしい、そして『チェス』に俺はまだ在籍しているが、俺がユニットのメンバー一覧を見ると、どうもレオたちは居ないらしい。仕組みについてはなんだかよく解らないけれど、俺はレオたちが居なくてちょっと残念だな。って思ったし、気づけば俺がリーダーみたいなことになっていた。

「文哉くん、ここの音程を変えようと思ってるんだ。」
「……はい、わかりました。」

だんだんと俺はつぶれっているのを確認しながら、また指示書の生活に元通りに戻っていく。俺という名前が欲しい先輩の元で俺はゆっくりと消費されているのだった。
俺の身の回りが変わりそうで変わらなかったライブの直前の登校、授業中の時間を使って俺はガーデンテラスの机を占領してコラムの原稿と睨み合ってると。どこからともなくセナが姿を表した。一言二言交わしてからセナは歌と踊りを確認しだすので、俺はそのままコラムの仕事に戻る。メンタルがガタガタになってきて俺は筆記量が減って読書量が増えた。コラムの締め切りはもうすぐそこなのに、書く気も起らない。起きてもまともに文章がつながってない。あの話をしたら、別の話にすぐ飛んでコラムの内容からすぐに軌道を逸脱する。書き終えたと思ったばかりのものを読むとそんなことが多々ある。俺はあきらめて原稿用紙を破り捨ててゴミ行と書いたクリアファイルに押し込む。あとでシュレッダーにかけるようのクリアファイルは分厚くなっている。

「セナ〜、音程が乱れてるぞ3フレーズ目のファが半音高い。シャープついてるぞ。」
「ビックリした!?どっから出てくるのれおくん!」

俺の聴覚に、そんな音が届くけど俺の判断はひどく鈍い、頭の中はコラムと書けない現状が多すぎてそっちまで処理メモリを持っていく余裕がない。シャーペンの芯がぽきりと折れた。

「リーダーならちゃんとリーダーらしくしろっ、真面目に部下を管理して自分も上に立つ者としての責任を果たせ!基本でしょ基本!……どうしたの?いつもなら『ガミガミうるさいな〜!』とか逆切れするでしょ?何か元気ないけど体調でも悪いの?」
「わはは、セナは優しくするタイミングがわかりづらいな!」
「俺はいつでも優しいよぉ?オレが厳しくするのはそっちに怒られる原因があるときだけでしょ?」

文字を書いていると聴覚だけはまともに機能しだす。レオとセナが居るんだなぁ。と思いつつ俺は文字を書く。同じ話がずっとループしてる気がする。俺、何を書いてたっけ?あぁそうだコラムだ。何のコラムだっけな。書くのが億劫になってきた、すこししたらスラスラとかけるかもしれない。そんなことを考えながら俺は目頭を揉む。なんでだろう、と考えながらもため息がこぼれた。

「文哉〜疲れた!癒して!」
「レオ?」
「どーした?元気がないぞ?水分とってるか?」
「水はとってるよ。」
「ほら、文哉!リトル・ジョンだぞ!」

ほらほら。と大きめの猫が俺の目の前に出されて机の上に寝かされる。いや、そこ原稿用紙なんだけど。と言うよりも早くにセナが、れおくん!机の上に猫を乗せないの!文哉は仕事してるんだから!と怒り始めた。そんな怒られ方にもなれてるだろうレオはそうだったか!じゃあ文哉の膝の上な。と俺の膝の上に移動させた。俺の両膝の上につまらなさそうに欠伸をして丸くなる。どうしていいかわからない俺は、そのまま膝の上の熱をどうすることもできずに固まる。リトル・ジョンって、ロビンフッドだっけ?とかどうでもいいことを思い浮かべながら俺は固まる。

「猫は嫌いか?」
「触ったことないかも。」
「な、文哉なんかあったか?」

ふと顔をあげると、レオの緑の瞳がばっちりと俺を捕らえた。どきりとした。後ろめたいことなんてないのに。何があった?何もなかった。俺が勝手に傷ついて俺が勝手に凹んでるだけで、何を言おうと考えるとだんだん自分の息が浅くなってきてる。俺は、どうしたいんだろう、なにと答えるべきなんだろうか。なんだか自分と自分の意識が解離しているような感覚がふと襲った。ぐるりと目が回っている、心臓がだんだんと音を速めて強くなってる気がする。どうした?とレオが問いかけるのに俺は息ができない。まるでここは水のなかにいるような感じがする。
「文哉?」なんていうセナかレオの声を聴きながら俺の視界が狭くなる。苦しい。そんなことを思うと同時に二つの声を聴く。違うんだ、誰も悪くないんだ悪いのは俺だから、誰も悪くないんだよ。そんな顔をしないでくれ。お願いだから。大事だから。レオもセナも。もしも俺の名前が欲しくて居ても、俺は全然気にしてないから。なんて言いたいのに声は空気に溶けて消える。もしかすると誰も聞いてないかもしれない。誰かの一番になりたいけれど、俺は誰かの一番にだなんて慣れない人間だって俺自体が知っている。だから捨てないでくれ。二番でも三番でもいい。誰かの横に立たせてくれ。見えない中で手だけは誰かに触れた。たぶんセナかレオなんだろうけれど、この手は誰の手だったかなんてわからない。悲しまないで、嫌わないでなんて思う俺はなんて自分勝手なんだろうか。
ぐらりとゆれた世界を感じながら俺の意識はぶっ飛んだ。

目が覚めると、消毒液の匂いが鼻についた。保健室、と場所の確認ができるころに、起きたか?と保険医の先生が俺に声をかけた。お前は、重度の過呼吸運ばれてきたんだぞ?と言われて、俺はどきりとした。今までの重病はあったか?と聞かれて首を振る。俺の返答を見て保険医の先生はそのまま何かに書き連ねていく。一度考えてから、過呼吸が続くようだったら病院か俺に言いに来い。と言われ最後に保健室利用の紙を書いたら出てっていいから。と差し出される。俺はそこに名前とどんな原因だったかを書いてから、ふと思う。自分のクラスいったことないや。と思いつつ適当に埋める。何か言われたら適当にごまかせるだろうし、2クラス学年なので確率は50%。高いと思って適当に書く。ベットの足元に俺と一緒に運ばれたらしい鞄をかついで、失礼しました。と頭を下げる。ドアを閉める寸前に保険医の先生は「月永と瀬名に会ったら礼でもいっとけ。真っ青になりながらお前を運んできたぞ。」と言いながら、俺を猫でも払うように手を振る。俺は、再び頭を下げてからドアを締めた。二人が俺を運んでくれたんだ。そんなことを嬉しく思っていると、情報を聞きつけた『チェス』の先輩方が団体で推し寄ってきた。

「こないから心配したんだ!」
「噂を聞いて俺たち駆けつけたけど?」
「探したんだよ!」

俺じゃない看板を。でしょう?なんてひねくれてるのだろうか。彼らの主語に、どうも俺の名前がない気がする。言うだけで満足しているような気配を感じながらも俺は俺の仮面をかぶり、ご迷惑おかけしました。と他人行儀。そしてそこに瀬名君と月永くんが何かしたんでしょう?と言う。いいや、彼らは何もしてないよ。俺が勝手に倒れただけだから。と思いつつ緩やかに首を振る。それでも彼らは話を聞いてくれない。アイツら調子がいいから。はぐれ者の癖に。と言うのを聞きながら、俺は彼らをどうやれば止めれるのだろうかと思考を巡らせる。それでもわからなくて俺の心を殺すしか方法がないのだ。
今回俺が倒れたことにより、ユニットの先輩が誰か横につくことが増えて、レオとセナに会えないまま時間が過ぎていくのである。俺が情報を得るころには彼らは『Knights』として活動を始めたらしい、二人で動くことを決めたのだ。滅んで行く城を捨てて、旅立って行った。俺はずっと壊れていく城で壊れながらその二人を見つめて時間を過ごしていくのだった。


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