追憶 モノクロのチェックエイトと俺-2

それから俺はライブの時期になるとテラスか中庭で本を読み、読み終えたら図書室に引きこもるような生活を行う。時まれに図書室で勉強を進めるが、だいたいの成績はある程度収めれているのでそんなに覚えることもない。コラムや本の仕事をしてるとどこからともなく月永く…レオが、やってきて俺から筆記用具を借りて紙に命を吹き込んでいく。陽気な鼻歌を聞いていると、俺も言葉を選ぶためにぽつぽつと言葉を出す。そんな言葉を聞いてレオ、が、霊感が湧いてきた!と声を上げてペンを進める。そしてしばらくしたら瀬名君がやってきてレオを回収してどこかに消えていく。消え行く前にレオは俺に次はいつくる?と聞かれるので毎回律儀に答える。そしてライブが終われば自宅と事務所に引きこもり、ライブ前になってきたら教室以外で時間をつぶしてレッスンを受ける。そんな日々に多少の色がついてきた、そんなころに瀬名君に言われた。その日もテラスだが。クリップボードと俺の筆記用具を使ってレオが机にかぶりつく勢いで作曲をしてるし、俺はその向かいで本を読んでいた。そこに瀬名君がやってきて俺の左隣の席に腰かけて口を開いたのだった。

「携帯連絡先教えて」
「…はい?」

毎回保村文哉が学校に来たら、だいたいその横にれおくんが居るんだよね。なら、れおくんが携帯をなくしやすいから。保村文哉と連絡とったほうが早いし、俺も回収しやすい。どうせ、れおくんが離れる頃にレッスン入る入るんでしょう?お互いメリットじゃない?と言われて俺も気が付いた。そういえばそうだ、学校にいると大体隣にレオが居るのではないのか。と朝からふらふらして時間をつぶしてチャイムが鳴って始業が始まるころにはどこかに腰を据えていろいろやり始めている頃にレオがやってくることが多い、というか毎回に近い。
俺は誰かにプライベートの本を読んだりするのの邪魔されるのが嫌で。苦しんでいたのに。どうしてレオは俺の横にいても俺が苦しくないのだろう。むしろ、心穏やかにいる気がする。

「ちょっと聞いてる?」
「ごめん、考え事してた。連絡先はいいよ。交換しよう。」
「なんか、変わった?」

最初に会ったときは死にそうなほど青い顔してたけど、表情変わったんじゃない?と言われて、俺は首を傾げる。前からちょっとはすれ違って顔を見たことあったけど、毎回そのたびに真っ青な具合悪そうな顔色をしている俺を見たと言われる。たぶんその頃がストレスマッハの時だったんだろう。

「俺、昔から活字中毒で手元に本が文字にかかわることがないとやってられなかった。たぶん瀬名君が見てた頃は、歌おうぜ踊ろうぜ。っていって本を奪われてた時期なんだと思うよ。」

今は指示書だけで俺は構成されてるけど、まだあのころと比べたらだいぶましだし。と俺は思ってる。まだこうして、普通に思考をする余裕すらあるんだから。そんなことを言わずに飲み込んで、携帯を取り出して、連絡アプリ?アドレス?と問いかける。アプリといわれたので俺は慣れた手つきで立ち上げて共有するようにコードを引っ張り出す。

「これ、読みとって。瀬名君。」
「わかった。その瀬名君ってやめなよ。聞いててうざい。」
「そう……じゃあ、セナ?とか?」
「なに?」

じろりと見られたが、呼び慣れるために行ってみただけだというと、あっそ。と呆れられた。なんだよ、と言い返せば、なんか呆気にとられた。あんたもれおくんもなんか肩すかしを喰らうっていうか。呆れるように瀬名君…セナが首を振った。

「なんか、こうして話をしてると楽しいかも。今まで高校生活して、こうやって笑うこともなかったし。瀬名く……ううん、セナとレオとああして出会ってなかったら俺もっと真っ青な顔してたかもね。隣に誰かいることがストレスだったけど、やっぱり文字を奪われるのがストレスだったみたいだね。やっぱ活字中毒。あぁ、文字とフォントと結婚したい。」

おどけたように言ってやると、話を聞いてたのかレオが顔を上げてセナと二人してびっくりした顔をして、お互いを見ている。なんだよ、おいこら豆鉄砲くらったみたいな顔してさ。むすっとした顔で抗議してみると、セナが「ま、感情豊かな方が文哉らしいよね、いいじゃん。」なんていうので今度は俺が驚いた。

「……今。名前呼んだ?」
「なに?呼び捨てにするんだから、それぐらいいいでしょ?」
「あ。いや……なんか、嬉しくてさ。」

恥ずかしい話なんだけどさ。高校きてから、いままでそんな間柄の人いなくてさ。ユニットのメンバーもだいたい天才子役の俺をどっか神聖化しててさ。そんな言葉が途中で止まる、あれ?泣いた覚えないのに目から零れ落ちてるんだけど。なんでだろ?

「どうした文哉?なんかあったか?」
「……ううん。レオ。俺たぶん今嬉しいんだよ。」

こうして気心知れて、携帯アドレス交換したりさ。ぐだぐだ喋ったり、あれやこれや気を使わずに喋れるのが。俺、たぶん幸せのレベルが低いからさ。川の水でさえおいしいって思うんだけど、今川の水飲んでる毎日なんだけど、今めちゃくちゃおいしい水道水飲んでるみたいな?そんな感じがする。旨いこと言えてるかわかんないけどさ。と言いつつ、こぼれてくる涙を俺は止めることができなくて、そのまま嗚咽もこぼれてくる。

「ちょっと、目擦んないの!腫れるから!」

俺の両の手を二人に奪われてぼろぼろ泣いてる俺はどう思われてるのかなんて知らないけれど、俺は今確実に幸せだって言えるよ。俺、こうして呼び捨てにできる人。いなかったんだもん。心が暖かくて仕方ないね。なんて伝えると、セナもレオも何とも言えない顔をして見合わせてから、二人してはぁ。とため息を吐いたのを俺は見た。


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