公演!悲喜劇のロミオとジュリエットと俺-2e

台本を書き終えて日々樹の元に持っていけば新たな仕事が降ってくる。そんな間に演出の方向にも手を出す。テレビの仕事とやりかたが違うので多少やりにくいがこれはこれで面白い。今度のコラムにでも書くかと考えながらも練習に参加していると、仁兎のところのがきんちょが一人助っ人として参加が決まったのだが、これがなかなか手ごわい。台本をとちりだすので、なかなか頭をひねらしてくれる。最悪のパターンは俺が出てもいいのだが、それはそれで話が違う。日々樹との最初の約束だ。俺はあくまで助っ人の依頼を受けただけなので仕込みはたくさんだ。中身がすれてないのでこっち方面で行こうとさっくりと打ち合わせを済ませる。俺もあんまり使ったことのない技法に疑問を覚えながらも、一年の演劇部員に操縦法を聞いて、ある程度の考えについてはある程度トレースできるようになった。シナリオにあわせて動かすためのルールを制定する。

「よーし、天満。お前の今日のお約束は何だ?」
「えっとー、一日目だから友ちゃんの名前を呼ばない、途中でお酒を飲んで寝ちゃう。ロミオねーちゃんとジュリエットねーちゃんって呼ぶ。最悪困ったときは神様を呼ぶ。」
「はい、正解!困ったら俺がなんとかしてやるから。まっかせなさい。」

こいつに、仕込まないことだ。覚えさせてもとちるならアドリブに任せて演劇部員と俺で何とかする。そうして練習をしてきたのだが。本番当日、控室に入るとなんだこれは。現状の人の少なさに俺は眩暈を覚えた。演劇科の照明担当と音響担当が数名、そしてアイドル科のオレ達。5人。と小役をやる演劇科が数名。……呆然と立っている俺に氷鷹が声をかけてきた。

「日々樹先輩、保村先輩、演劇科がダウンしたと連絡が。」
「ちょ、ま。」
「これは、仕方ないですね。文哉くんにも出てもらいましょう。乱闘場の人の数をかき集めてきます」
「わかった、俺どこがいるか全部さかのぼるから、日々樹そっち任せたぞ。15分で打ち合わせするぞ。」

おまかせください!と笑顔で走り去った。よし、情報整理だ。氷鷹…と一年ズ。動揺すんなと指摘して、お前は一旦頭冷やしてこい。その間に俺がある程度台本を弄りなおす。基本一日分なので変更点はそんなにないだろう、ここを省くぞ、とか、どれもこれも必要なのだが、あとは日々樹になんとかしてしまうだろう。最低限をやって、あとは日々樹ができそうならそっちに投げてしまおう。

「保村先輩!?」
「あとで日々樹からのオッケーが出たら多少の台詞と動きを変更するぞ。」
「あー助詞役、10枚ぐらい紙もってこい」
「わかりました。」

俺は支持を飛ばして、ペンを握る。パソコンを立ち上げてる時間すらもったいないと思っているのは開演1時間前だからだ。急ごしらえで人を集めて。いや、うちのユニットは使っちゃいけない。活動謹慎も喰らってるし、個人で招集するにも半分はモデル出身だ、顔に傷をつけちゃだめだ。朔間の弟は寝てるだろうし、朱桜くんは臨機応変なんて無理だろう、真面目四角なんだから、仕方ない。紙が到着と同時に、一気に書き上げる。

「今の間に休憩しとけ頭空っぽにしてろ、あとでかたっぱしから叩き込むぞ。アイドルなら全部覚えてしまえ!」

吠えながらも、手は止まらない。いらないところを全部赤ペンで引いていく。最悪無理なところは俺も出ることを辞さない。一通り引き終わると、日々樹が帰ってきた。俺は打ち合わせするぞ、と台本を掴みながら席を立つ。

「日々樹お前何役同時にできる。」
「何役でも構いません。多少の位置の移動は有りますが。それで対応できるでしょう」
「なら、俺は基本スタンスを変えないぞ。照明に打ち合わせをするが、基本そういう時はとてもどちらかに寄る。それでいいんだな?」
「えぇ、かまいません。」
「……じゃあ台詞の変更はないな。天満のルールも基本は動かさない。天満は好き勝手やれ、ルールだけは守れ。」
「勿論だぜぇ!神さまのいうことには絶対!。」

はいはい、日々樹照明の打ち合わせ行くぞ。お前の予定を教えろ。今から行きますよ!先ほど伝えてきました。人をかき集めたのと同時進行で済ませてます。そう、ならいい。時計をちらりと見ると部隊の幕が開くまで5分。急いで着替えて俺も舞台袖に出なければならない。しょっぱなに多少の姿を出すことで俺の存在はいつでも出れるようになるのだから。

「天満、おやくそくは?」
「お酒を飲む、ロミオねーちゃんとジュリエットねーちゃんって呼ぶ!」
「一個ぬけてっぞ、」
「光、俺の名前を絶対に呼ぶんじゃないぞ」

赤い助詞役。再度お約束結んどけ、今から着替えてくるから。と席を立つ、さっさかと控室で着替える。
転校生作成の衣装に袖をさっと通して眺めの白いマントを装着する。助詞役のマント模様に似た片目の抑えと、長い長いマントだ。地面につくぐらいの長さのマントに、紺色の衣装に黒のパンツ。金細工のベルトを腰回りに回して仮面を一つ持つ。俺の今回の役どころは、誰かが駆けてしまった反転の魔法の具現化したものだ。助詞役にしか見えてない存在だ。反転の魔法でありながら物語を正当に作動させようとするのに、自分にも魔法がかかっているので、方向性がブレブレの狂言回しに似たキャラクターだ。アドリブ要素なので、俺自体のどこに魔法がかかってるかもわかってないのだ。
そんな引き出しをとりあえず作り終えて、控室を出ると転校生が衣装の不備がないかと聞く。マントはきっちりした長さがあるので他が裂けても多少はリカバーできるだろう。と言って、俺は舞台そでに立つ。助詞役の一人が、俺に声をかけてきた。

「やっぱり、背の高い人がそういう衣装を着るとかっこいいですね」
「色々着慣れてるからな、ある程度」
「真白、保村先輩。そろそろ円陣を組むそうだぞ」

はいはい。ほら、一年たちも行くぞ。と俺は二人の背中を押して、歩く。この間セナ成分を補給したところなのにもう足りない、公演中の中休みの日にでもセナとゆっくりできたらいいな、とは思うんだけど。もうちょっとかかるかもしれない、俺は俺の仮面をかぶるのも疲れるねぇ、と思いながら日々樹がハイテンションマジックショーを繰り広げようとするのを俺は黙って見てるのだった。今日終わったらセナと連絡を取ろう。じゃないと俺がまた潰れそうとか思考を飛ばしていると、開演ブザーが鳴り響く。もうすぐだと思うと同時に、思考にスイッチを入れて切りかえる。
自分自身に俺は誰だと問いかける。俺は、魔法だ。誰かがかけた反転の魔法。俺にもかかって、どれにかけたかも解らないぐらいの魔法。魔法をかけた作者の願いをかなえるために動く存在。存在にも反転をかけたりかけ直したりしてるから、方向性がぐらぐらの存在、反対の反対は表なのかわからない奴。補助役だけどな。

「俺の芝居をキラキラさせよう。俺の舞台をキラキラさせよう。さぁ、夢の世界の始まりだよ」


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