春風 アイコニックなブックフェアと俺-4e

お仕事している時用の仮面をつけて、俺は講演の内容を話する。
主に、子どもは何読むか。そして何を得て書くのか。というテーマトークだったので、一通り客に問いかけたり振ったりして広げていく。俺は昔どんなのを見てどんな経験をして本を書いたのか、そんなことを織り交ぜながら話をする。時まれに巡回のように弟くんと朱桜くんが俺のブース近くまで来て、二人であれやこれやと少しだけ話をしてまた消えていく。そんな背中を見送ってから俺は残り時間を確認する。最後に、自分の親と一緒のものを読みますと。そして自分の体験で筆を取ったりするのではないのでしょうか?アウトプットする環境も必要ですよ。なんていう無理くりな結論付けて講演が終わった。傍らに置いた水を手にして壇上を降りると、疲れたなぁ。と一人思う。最後の段を降りた瞬間に俺の昔書いたエッセイにサインをねだられたりして、それを一通り対応していると書いている間におすすめの本は?とか聞かれたので、この間目を通したばかり本を思い浮かべながら口にする。セナから充電したいとか思って客席を縫って視線を向けるが、件のゆうくんが近くにいないからちょっと機嫌悪そう。転校生に頼んで一枚撮っていてもらおう。と俺は後で動く予定を考える。せめてセナからちょっとだけでも充電したかったけれど、寄っていくのもだめそうだな、なんてぼんやり思っていると朱桜くんが寄ってきた。

「保村先輩、私感動しました!とても素敵なSmileでお話されてました!あのような顔をした保村先輩を初めて拝見しました。」
「そ、ならよかったよ。俺もかぶり甲斐があるってものさ。」

ゆるやかに微笑んで、俺は朱桜くんの頭を撫でる。ん?と言わんばかりに微かに首を傾げたので、今は知らなくていいことだから気にするなと言うと、隣の弟くんは呆れていた。保村文哉という仮面をかぶった俺は、平然と口から息をするように嘘を吐く。
ちょっと喋り倒して疲れたから休憩してから動く。だから青葉か転校生見つけたら言っておいて。と伝えると、わかりました。と頷いて、朱桜くんは遠くに消えていく。無理はしないほうがいいよ。と弟くんが言葉を残すので俺は適当に返事をして、二つの背中を見送った。
消えたのを確認した俺は壁に背中を預けて、ずるずるとしゃがむ。別名ヤンキー座りとかいうけど、そんなのは今いいんだ。
ふっと息を吐くと目の前がちかちかする。ろくすっぽ食べてない。とか考えながらセナに怒られるんじゃないかな、とか思う。動けないかも、とか悠長な思考を始めていると、聴覚が遠くからの足音を捕らえた。聞きなれた足音なのでセナだとわかるが、ちょっと動けない。俺に気づいてか駆け足で寄ってきて俺と目線を合わせて屈む。いつもよりも心配が浮かんだアイスブルーが俺を見る。

「文哉!?」
「せな、ぎゅー。」

俺はセナの腕を掴んで俺の腕の中に収める。久々のセナの匂いに、懐かしさを思い出して泣きそうになるのを堪える。ちょっと目頭が熱い。俺こんなに涙脆かったっけ?とか思っていると、あわてたようにちょっとどうしたの?と言うからレオ成分とセナ成分が足りてないから、セナ成分を先に充電してるの。ちょっとだけこうさせて。と俺は腕を回してセナの背中を叩きながら、えへへーセナセナ。と零す。大分気持ち悪い顔してるんだろうな。マスコミにすっぱぬかれたら事務所の説教ものだけれど、何とかしてくれるだろう。感情もぶっ壊れてるのか、久しぶりだこんなの。ちょっと本気で嬉しくてさっきまでの疲れが全部ぶっ飛んでいく気がする。

「ちょっと、力加減してよ!文哉。跡付いたらどうすんの?」
「ごめんごめん、久々だったからついね。」

もうちょっと元気でいれそう。と言えばセナの声がこわばった。顔は見えないが、きっと動揺してるかもと思う。腕が固いぞ。青年。と言いつつも俺は自分に言い聞かせるように、大丈夫だよ、俺は帰ってくるまで潰れないから。潰れてても騙し騙しで生きていくから。壊れないよ。もしも、万が一壊れても、俺はそれを全部拾い集めて抱えて歩く。そうして歩ける仮面を持ってるから。レオとセナのところまで。俺は追いつくまで走るのだけは持ってるから。そんで、『Knights』がいるから俺らの『王さま』がいつか帰ってくるから、俺は俺でいるんだ。レオとセナが救ってくれたんだもん。俺は、レオが返ってくるまでは、帰ってくるまではしんどいけど、それでも俺は走っていくよ。俺らの『王さま』が愛したこの場所を守るためにね。俺はここで、変わらない場所を作って待っておこうと思ってるんだ。まるで忠犬みたいだね。
そんなことを言いながらカラカラ笑う。感情と話とが全くかみ合っていないが、俺はそのスタンスで生きている。彼らは俺を救ってくれた。でも、俺はレオを救えない。俺ではレオを救えないのだ。

「そのために文哉が壊れたら意味ないじゃん。」
「だいじょうぶだよ、こうやってセナと話をしてるだけでうれしくて死んじゃいそうになってるんだから。」

やだ、死なないでよ。と俺の胸板に手をついて俺の表情を見る。きっと今の顔はうれしすぎてでれでれとした表情を浮かべているかもしれない。いつものアイスブルーに俺の顔が写っている。嬉しくなって、俺はまたセナを自分の腕の中に閉じ込めて、セナの肩口に俺の額を擦り付ける。もう、と呆れられているが本気で嫌でないらしい。きっとレオが居たらとか考えるけど、きっとレオは普通に俺たちの近くでスコアを作っているだろう。そんなことが簡単に予想できて俺はセナを抱きしめる力を強める。それが俺らの日常で俺たちの毎日だったから。

「ちょっと苦しいんだけど!」
「あはは、ごめんねセナ。もう平気元気でた。充電できた。」
「服に皺が入るじゃん。もう」
「ごめんね、でもしっかりした固い服だから早々入らないって。鳴上くんたちも心配するしそろそろ戻ろっか。」
「文哉、アンタ」
「正直ここしばらくのことあんまり覚えきれてないけど、セナのおかげで世界にちょっと色が見えたよ。ありがとう。」

俺はセナの手を借りて立ち上がる。立ち上がった後一瞬よろめいたが、俺はそのまま何もなかった顔をして、セナの手を掴んで歩いている。ちょっと!と言われたがセナは好きにさせてくれる。そんな些細なことがうれしくなって、ニヤニヤが抑えきれない。セナと一緒に鳴上君のところに戻るとなにかいことあった?と問われたので、ううんなんでもないことだよ、と返しておくのだった。


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